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魔女の道々  作者: 川獺右端
第十章 アリスと三人の家来
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第76話 夜市にお客さんが続々と来る

 三年ぶりにこの地に立って、ディアナは感慨深かった。

 どの魔女も笑顔でアリスに挨拶をしてくれる。

 アリスはこんなに沢山の人間を見た事が無いので興奮していた。


「すごいぞ、こんなにたくさんのひとをみたのははじめてだ」

「アリスも村に連れていってあげたかったけど、危なかったからね」

「すごいなすごいな、みんなまじょか?」

「大陸中の魔女が集まってお祭りをするのよ」

「それはべらぼうだな!」


 アリスの物言いにディアナは吹き出してしまった。

 廃屋に置かれていた絵本が古い物だったから、古風な言い回しをアリスはたまにする。


 夜市は丁度ドーナツ状にウット山を囲んでいるので真ん中の通路を歩くと一周することが出来る。

 開会式は今晩だが、もう屋台は開いていて、色々な物も売り始めている。


「おお、ディアナ。うわあ、アリスか、大きくなったなあ」


 プラントがカジノのテントから顔を出して挨拶をした。


「おまえはだれだ?」

「プラントだ、いやあ、育ったな、よろしくなアリス」

「よろしくっ」


 相変わらず少女みたいな外見だが、たしかターラー師匠と同い年のはず、とディアナは思い出した。


「賭け事はまだ早いな、甘い物でも食べるか、アリス」

「たべうー」


 アリスはプラントにケーキを貰って、口のまわりをクリームだらけにして食べていた。

 ディアナは笑いながらアリスの口をハンカチで拭いた。


「リンデンの様子はどうですか?」

「どうもこうも、ドツボに入ってるな。サンディがいないので豊作の祈念ができず、各地で凶作で、地方領主の反乱が相次いで、三年前から比べると領地が半分になっているな」

「そんなに……」

「軍隊も魔女が居ないから負け続けで、バンバリン平原からは撤退したよ」

「国民の生活は酷いでしょうね」

「ああ、軍も兵隊が足りずに、農民を強制徴用してるそうだ」

「リシャール王を暗殺する動きは無いの?」


 リシャールを排し、アリスを戴冠させれば、魔女の道々との関係も改善される、そう思う家臣は多いはずだ。


「ターラーの呪いが効いてるんだよ。アリスが許すまで王の火傷は治らない。つまり、アリスが大人になれば和解の可能性があるとも言えるわけだ」

「そうね」


 ディアナも魔女の道々も、物心つかないアリスをリンデン国に任せる気は無かった。

 リンデン国民は塗炭の苦しみであろうが、魔女としては現状の方が良いのだ。


「夜市に軍隊は来るかしら?」

「リンデンの第一旅団が国境を越えようとして、ピューリ軍とにらみ合いになってるそうだよ」

「倒しに行った方がいいかしら?」

「まだ良い、国境を越えたら倒しに行こう」

「そうね」


 ディアナは岩を使った水平ストライクというべき魔法を考えていた。

 単純に大きな岩を高速で発射して敵軍の真ん中を破壊するというものだ。

 馬鹿みたいに単純だが、その分防ぎようが無い。

 旅団ぐらいのサイズの軍でも十分すりつぶせるはずだった。


「プラント」

「ん、どうしたい、アリス」

「ケーキをもっと」

「あはは、たんと喰え」


 プラントが笑ってアリスにケーキのおかわりを出した。

 彼女は、わぐわぐとそれを食べる。

 ディアナは晩ご飯を食べなくなると渋い顔となった。


 カジノを辞してディアナとアリスは、また道をたどって行く。

 ウット山の麓には大きな本部テントがあって、ソーニャが待っていた。


「あらあ、アリスちゃん、良く来たわね」

「おまえはだれ?」

「魔女の道々の責任者のソーニャよ。エリカの師匠よ」

「エリカししょーのししょーだ」

「そうよ、良く来たわね~」


 ソーニャはアリスを抱き上げてあやした。

 アリスはきゃっきゃと喜んだ。


「ソーニャ先生、姉は来られますか」

「ええ、ヴァンフリートと一緒に馬車で来てるわよ」


 ディアナは胸をなでおろした。

 これで、アリスと姉を会わせる事ができる。


「明日、到着ですって、アラニス侯爵夫婦も明日よ」

「お父様とお母様が」


 両親に会うのも久しぶりだった。

 アラニス侯爵家が三代揃うのも何年ぶりだろうか。

 あの日、ターラー先生が死んだ夜以来だ、と、ディアナは思った。


――明日が楽しみだわ。


 ディアナの胸はときめいた。


 本部のテントを出て、しばらく歩く。

 気が付くと夜市を一周していた。

 師匠のテントの前でディアナは炉を作り、アリスに火を入れてもらった。

 アリスはテントが嬉しいのか、出たり入ったりしていた。


 懐かしいケトルで、懐かしいマグカップにお茶を入れた。

 アリスにはターラーのマグカップに温めた牛乳を入れて上げた。


 火を囲んで、アリスとディアナはお茶を飲み、一息付いた。


「わあ、ターラー師のテントだわ」

「懐かしいわね、アリスちゃんはじめまして、ハンナだよ~」

「わたしはサリー、ターラー師と同じ工房で働いていたの」

「ハンナ、サリー、アリスだ、よろしく」

「ご無沙汰しています、ハンナ師、サリー師」

「ディアナ師も大変だったわね」

「なんとも悲しい事だったわね」


 ディアナは、ハンナとサリーを迎え、お茶を出した。

 二人はアリスにクッキーを与えて、彼女はバリバリと食べた。

 基本的に魔女は甘い物が大好きなのである。

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魔女は甘いものが大好き! ちぃおぼえた。魔力は糖分から来ているのかもしれない!? しかしまあリンデン首脳部はねえ・・・なんでこう自分に都合がいい方にしか考えないのだろうか。リシャール王がいなくなった方…
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