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魔女の道々  作者: 川獺右端
第十章 アリスと三人の家来
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第75話 アリスの初めての夜市

 ディアナは漁船を浮かせてエルフィンの里を出発した。

 子供のエルフィンが船が物珍しいのか、沢山併走してキラキラと綺麗だ。


《いっちゃうのアリスちゃん》

「いっかげつ、よるいちにいくー、かえってくるよう」

《さびしいなあ、はやくかえってきてね》

「なにかおみやげをかってくるよう」

《わあいわあい》


 子供は魔女もエルフィンもあまり変わらないな、とディアナは舵輪を握りながら思った。

 べつに舵輪を回しても意味はないのだが、なんとなく、船尾のここに立つと気持ちが引き締まるのだ。


 流星号もひさびさの空で嬉しそうにしていた。


「ワルプルギスの夜市は男性は入れないんだろ、俺はどうすんだ? 麓の街か?」

「今回は夜市の縄張りを工夫して、真ん中に一般の人が入れる所を作るみたい。アリスが来るから、色々なお客さんが来るし、真ん中なら守りやすいから、だって」

「そうか、それなら安心だな。諜報員は絶対に居るからな」

「街に行ったらだめよ、拉致されるわ」

「そうだな」


 漁船は空の上を滑るように飛ぶ。

 雲海が文字通り海のようだ。


 豊かなピョーリ国の穀倉地帯の上を行く。

 たわわに実った小麦畑が黄金の海のように波うっていた。


「夜市にアリスが来るって解っているからリンデンの軍は来るな」

「来るわね、でも夜市に攻め込んで勝てる軍隊は居ないわ、大陸中の魔女が一堂に会しているのよ」


 クランク師も居るし、他にもポーラ師やニノン師などの凄腕の魔女が山のようにいて、ターラーの弔い合戦をしたがっている。

 ディアナは一切の心配をしていなかった。


 エルフィンの隠れ里から飛行すること三時間ほどで、ヒルトマンの街が見えてきた。


「うわあ、まち~!」

「あそこの山が会場のウット山よ」

「わあっ、はげやまはげやまっ!!」


 アリスは船舷に躍り上がって下を見ていた。

 危ないので、ヨリックが後から抱え上げた。


「かたぐるまかたぐるま」

「はいはい、おひめさま」


 ヨリックはアリスを抱き直し、肩車にして遠くが見えるようにしてやった。

 アリスはご機嫌であった。


 ウット山を囲むように夜市が立っていて山の麓に柵に囲まれた空地があった。

 ここが魔女では無い部外者が入る場所だった。

 円形に囲んだ夜市の西と南に細い道があって、二つの門で塞がれている。


 ちなみに、現在のワルプルギスの夜市の様式である、ドーナッツ型の配置はこの時始められたらしい。

 今でもワルプルギスの夜市は魔女以外は参加できず、一般人は内陣に入って参加する。


 ディアナはゆっくり内陣に向けて船の高度を落としていく。

 下にはクランク師がいて手を振っていた。


 船は音も無く着陸した。

 船舷から渡り板を出して地上に設置した。

 アリスがドダダダダと渡り板を走り下りて地上に立った。


「あはは、元気だなあ、お前がアリスだな」

「そうだぞ、お前はだれだ?」

「クランクだ、よろしくな『剣』の魔女だ」

「よろしくー、アリスだーっ」


 いつもムスッとしているクランクには珍しく、彼女は微笑んでいた。

 アリスの金髪の頭を手袋を付けた手でなでていた。


「クランク師、お久しぶりです」

「おう、ディアナ、アリスは育ったな、かわいいぞ」

「ありがとうございます」

「そっちの男はなんだ?」

「元リンデンのペガサスナイトのヨリックだ、よろしくな、クランク師」


 クランクは黙って剣を抜いた。


「今はアリスの家来をしている」

「ヨリックは、わたしのけらい! きっちゃだめっ!」

「そうか、じゃあしょうがねえな。ヨリック、アリスを裏切ったら殺すからな」

「あ、ああ」


 ディアナは胸をなで下ろし、一抱えもある岩への引力を切って下ろした。


「ヨリックはこの柵から内側に入るな、お前の場所はこの内陣までだ」

「わかった」


 クランクはふり返り、ディアナとアリスに微笑んだ。


「おまえらの到着を待ち構えている魔女がいっぱいだ。早く入れ」

「はい、ありがとうございます」

「ありがと、クランク」

「わはは、はやくこいアリス」


 クランクはアリスを抱えて柵をピョンと飛び越した。

 ディアナはヨリックに黙礼して柵をかがんでくぐった。


「ぎゃああ、アリスちゃんアリスちゃん!!」

「うわああ、『星』の魔女だわ、かわいいっ!!」

「こっち見てー!!」

「お、おう」


 アリスは戸惑いながらも歓迎の声に手をふって応えた。

 クランクは、ディアナとアリスをテント村に連れていった。


「ああああああっ」


 ディアナは思わず悲鳴を上げていた。


「あら、来たわねディアナ」


 ディアナの目に前に、懐かしいターラー師のテントが張られていたのだ。

 もう、リンデン軍に接収されたとばかり思っていた、思い出のテントだ。

 ポーラがテントの前で誇らしそうに笑っていた。


「ターラー師のアパートメントに忍び込んで、彼女の荷物を、いっさいがっさい運び出したのよ。あとで漁船に積んであげるから、里に持って帰りなさい」

「ありがとうございます、ポーラ師、凄く嬉しいです」

「あんたの所の家系に伝わるテントだからね。夜市ではここでアリスちゃんと泊まりなさいよ」

「おおお、テントテント、すごいぞ、いいにおいっ」

「私の師匠の師匠のさらに前から伝わる大事なテントなのよ。私が死んだら、アリスがこれを背負って旅をするのよ」

「たびか! それはすごいなっ!!」


 ディアナは胸がいっぱいになり涙をながしてしまった。


「ど、どうしたししょー、どこかいたいのか?」

「ちがうわ、いろいろな事を思いだして切なくなったのよ」

「アリスちゃんは良い子ね」

「うん、そうだぞ! わたしはおもらしもしなくなった」


 アリスは胸を張ってえっへんと誇らしげだ。

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― 新着の感想 ―
成長したアリスちゃんかわよ。 そしてターラー師一門の品々が戻ってきた! ディアナ、今日は思い切り泣くといいよ。 これも多分後の世で歌劇とかになりそうだ。
アリスたん、大きくなって…! (⊃-^)ホロリン
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