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魔女の道々  作者: 川獺右端
第十章 アリスと三人の家来
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第73話 ヨリックを始末しようとエリカが言う

「で、あの騎士はなんなの?」

「追っ手です、深樹海上で撃墜したんですけど、ほっとくと死んじゃうので」


 エリカは眉間にシワを寄せた。


「死んじゃえば良いんじゃ無い、リンデンの騎士なんて」

「いや、まあ、それはそうなんですが……」

「ディアナがやりたくなければ、私が殺して森に棄ててこようか?」

「そうすれば楽ですけど、なんだか、厭なんですよ」

「ターラーを殺した国の騎士なんか、生かしておく価値無いわよ」

「傷が治ったら帰ってもらいますから」

「潜伏場所が解ってしまうのは困るわ」


 エリカ先生はどうしてもヨリックを殺したいみたいだ、とディアナは思った。


「もう少し様子をみたいと思います、害になるようなら私が殺しますから」

「……そうね、ターラーも国王を焼き殺さなかったから、いいか」

「はい」


 エリカと一緒に寝室のベッドの寝藁を替え、新しく買ったシーツを掛けて寝所を作った。

 馬房も朽ちた藁を掃きだし新しい寝藁に交換した。

 流星号もご機嫌な感じで寝転んだ。


「『月』の魔法ってお掃除にも使えるのね、びっくりしたわ」

「私もです、なんでも持ち上げて移動できるから、結構楽ですね」


 朽ちた寝藁なども、思念で持ち上げて固めて里の外れに棄てられるので便利であった。

 崩れた石垣も簡単に直す事が出来た。


 寝室は二つあった。

 もう一つの方のベッドも整えて、ヨリックを寝かせた。


「すまねえな……」

「とりあえず、体を治して」

「解った……」


 ヨリックの体の傷が熱を持って熱い。

 自分の魔法で与えた傷だが、今にして思えばやり過ぎのような気もした。

 だが、でもああでもしないと彼は止まらなかっただろう、ともディアナは思った。


 新しく買った水差しに水を入れて、パンと共に袖机に置いた。

 ドアを閉めて、ディアナはふうと息を吐いた。


 厨房に戻ると、エリカがカマドに火をくべてお湯を沸かしていた。

 煙突が詰まっているのか、煙が少し逆流していて煙臭い。


「煙突も掃除しないと駄目ね」

「やる事が一杯です」

「アリスちゃんもしばらく手がかかるから、がんばってね」

「はい」


 エリカはふうと天井を見上げて息を吐いた。


「ターラーが死んでしまうなんてね、私とターラーは、小さい頃からの親友で、なんだか信じられないわ」

「本当に、先生……」


 ディアナは涙ぐんだ。

 エリカは優しく彼女の肩を抱いて、そして自分も泣いた。


 ディアナとエリカは村で買ってきたパンと牛乳を食べて夕食とした。


「それでは、三日に一度ぐらい食糧を持ってくるからね」

「ありがとうございます、エリカ先生」

「アリスちゃんを頼むわよ」

「はい」


 エリカは箒に跨がって夕空に飛んでいった。

 なんだか置いて行かれたようでディアナは少し寂しくなった。


 新しい寝藁に、綺麗なシーツのベッドは寝心地が良い。

 アリスと一緒に毛布にくるまって寝た。

 風が鳴って、家のあちこちでギシギシと音がした。


 アリスが時々夜泣きをして、そのたびにおむつを替えたり、お乳を飲ませたりして、あまり熟睡は出来ずに最初の夜は終わった。


――世の中のお母さんたちは、これに耐えて赤ん坊を育てていたのか、みんな凄いなあ。


 寝不足のディアナは目をこすりながら、朝ご飯を作り、ヨリックの部屋に運び、自分は厨房で食べた。

 パンと薄いスープだが、食べられるだけましだとディアナは思う。


 家の掃除を続ける。

 床を拭いたり、壁を拭いたり、作業は膨大で終わりが見えない。

 アリスは寝て、お腹がすくと泣き、おむつが汚れると泣いた。

 ディアナは井戸に行き、タライに水を入れておむつを洗った。

 流星号が勝手に馬房から出て、水をねだってきた。

 飼い葉桶が空になっていたので、補充した。

 ありがとう、というように、流星号は顔を寄せて頬ずりをした。

 いいのよ、と言いながらディアナは流星号の鼻面をぽんぽんと叩いた。


 昼は薄いスープに村で手に入れたソーセージを入れて煮込んだ。

 パンとスープをヨリックの部屋に持って行くと、朝のパンは綺麗に食べられていた。


「……、もう昼か」

「そうよ」

「あんたは侯爵家のお嬢さんなのに、料理とか、いろいろ出来るんだな」

「魔女の集会が四年に一度あってね、ターラー先生と姉と一ヶ月テント泊をしていたのよ。色々な事を教えてもらったわ」

「それで、色々できるのか……」

「ターラー先生は言ってたわ、魔女は旅ができるようになって一人前だって。図らずも今回、すごく役に立っているわね」

「そうか、そうか……。俺も動けるようになったら……、手伝うよ……」

「ペガサスナイトも自活できるの?」

「軍隊でさ、野営はやるからさ……、結構やれるんだぜ……」

「そう、治ったら手伝ってね」

「ああ……」


 ディアナは朝の食器を持って、厨房に戻った。

 ターラー先生との夜市の生活を思いだして、胸が締め付けられるような気がした。


――先生の凄いテントは、軍隊に取られちゃったかな。あれはとても良い匂いがしたのに。


 ディアナは失った沢山の物を思いだして悲しくなる。

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