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魔女の道々  作者: 川獺右端
第十章 アリスと三人の家来
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第71話 エルフィンの里

 天を突くような巨大な樹が生えていた。


 ディアナはボートを樹に近づけていく。

 根元のあたりに古びた民家が六軒並んでいた。

 井戸らしい石組みのある広場にディアナはボートを下ろした。


「ここがエルフィンの里か?」

「そうみたいだけど……、人が居ないわね」


 民家はかなり古びた物で朽ちかけて森に帰ろうとしていた。

 人の姿は無く、木々だけがざわめいている。


《人の子よ、何用ですか》


 ふいに光の球が現れて問いかけてきた。

 ディアナは膝をついた。


「『月』の魔女ディアナと申します。古の誓約により、『星』の魔女アリスの保護を求めてやって参りました」


 いくつかの光が現れ、大きな光の廻りを飛び交った。


「我々は、ゾーヤ師の眷属であります」


 ディアナはソーニャから渡されたブローチを掲げた。

 光はブローチの近くをくるくる回り、一旦止まると、小さな女の子の形にその姿を変えた。


『ゾーヤは懐かしいわね、彼女は元気?』

「もうすでに鬼籍に入りました」

『そう、人間はすぐ死んじゃうからつまらないわね。で、そこの子が呪われた『星』の子なのね』

「呪われてる?」

『魔女は神が人を滅ぼすために作った魔力憑きの病で、その一番酷いのが『星』よ、『太陽』も『月』も世界を滅ぼす紋章なんだけど、『星』は一番酷いのよ。この星の全ての魔術を使えて、その上、星が落とせるわ』


 ディアナは動揺した。

 まさか、魔女の存在が呪われた物とは思ってもいなかった。

 そして、『太陽』も『月』も、世界を滅ぼせる?

 魔法が、人を滅ぼす為の神の仕掛けだったなんて……。


『まあ、いいわ、ゾーヤには世話になったし、その弟子たちのあなたたちに恩返ししてあげる。この里に住む事を許可します』

「ありがとうございます、精霊様」


 アリスの廻りに小さい光が集まってヒソヒソ話していた。


『星の子だわ、可愛いわ』

「だあだあ」

『魔法の力が強いわ、いい匂い』

『今日から里に住むのね、楽しそう』


 ディアナは空き家を調べてみた。

 六軒あったが、なんとか住めそうなのは一軒だけだった。

 その一軒もいつ作られた物か、埃が凄く中は荒れ果てていた。


 ディアナは、流星号を家の前に繋ぎ、ヨリックをボートに乗せたまま家の中に入れ、安置した。

 鞄から医薬品を出してヨリックの手当をした。


「魔女ってのは……、呪いなのか」

「そうかもね、人の何倍もの力を使える存在は社会にとって危ないのかも」

「アリス姫は、この世の魔法が全て使えるのか……」

「だから治癒も使えたのね。規格外すぎるわ」

「あんたも、世界を滅ぼせるのか」

「たぶん……、潮汐力で世界を水没させられるのだと思う」

「サンディ王妃もか」

「お姉ちゃんは日光を強めて、作物が育たなくできるのでしょう」


 ヨリックは大きく息を吐いた。


「リンデン王国にアリス姫を戻すと……、世界は滅びるか?」

「たぶん。メテオストライクなんか、もろに世界を滅ぼす魔法よ」

「そうすると、道々は……」

「うん。今、解ったわ、道々は魔法の力で世界が滅びるのを押しとどめていたのよ。四大属性の普通の魔女に規律を守らせ、非道をする魔女を暗殺し、世界が魔法に頼り切りにならないように道を進めていたのよ」

「なんて事だ……」


 ヨリックは目を閉じ首を振った。


「俺は『星』の魔女を王国が手に入れれば、王国は栄光の中で 大陸を制覇して国民はみんな幸せになると信じていた」

「世界はそんなに簡単じゃないわよ」


 メテオストライクで周辺国を脅かして得た覇権なんか、『星』の魔女が居なくなったらどうするつもりなんだろうか。

 子供でも解る理屈を、なぜ、王府の偉い人や軍部の高官などが解らないのだろうか。

 男性の理屈の根底には、力で相手を恫喝して屈服させようという欲望があるような気がする、とディアナは思った。


 エルフィンの言う通り、魔法が人間を滅ぼす、神々の罠だとすると、こんなに効果的なものは無いだろう。

 女性にしか顕現しない圧倒的な力、男性は羨望しながら見ているしかない。

 争いの種になる以外考えられない事態だ。


 今でも大陸の一部の国では、子供が魔女と解ると迫害し殺してしまう所がある。

 魔女狩り思想もまったくの暴論という訳では無いのかもしれない。


 思いも寄らない事実にディアナは暗然とした気持ちを抱きながらカマドの掃除をして、火をおこした。

 運の良いことにカマドは壊れておらず、薪も少し脇に積んであった。

 水瓶は空っぽで、洗わないと使えないようだ。

 手元に二三日分の食糧はあるが、早めに流星号の飼い葉やヨリックの分の食糧などを森で探さないとならないだろう。


 パチパチと燃える火を見ていると、ディアナの気持ちは少し落ち着いた。


 大陸の未来や、神々の思惑などよりも、目の前の食事と生活だ。

 そう、ディアナは思った。

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― 新着の感想 ―
神が人を滅ぼそうとしているのなら、何時か戦わなければならないのかもしれないね。 少なくとも「じゃあ滅ぼしますネー、滅亡ボタンポチっとな」とはいかないわけだ。神々にも限界はあるのではないだろうか。 滅び…
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