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魔女の道々  作者: 川獺右端
第九章 旅の終わりと始まり
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第64話 『火』属性の奥義

 剣はターラーの首に入り、抜けた。


――死んだ、私、死んだ。


 だが、首は落ちてなかった。


 一瞬、ターラーとステファン、リシャール王の動きが止まった。

 三者とも、首に剣が入ったと確認している。

 だが、ターラーは死んでいない。


『だ、団長!! 今一度』


 槍兵が火だるまに成りながらもローブを放さず、絶叫した。

 ターラーはジンバルを吹かして勢いを付けて槍兵を打ち飛ばした。


「あつい……」


 ローブが焦げはじめ、そして火を上げて燃えあがった。

 服が燃えてターラーは素裸になった、皮膚の色が青い。


『ああ、違う、そうじゃない、これは奥義だわ』


 見ればステファンの剣に青い炎が少量まとわりついて燃えていた。

 来いと命令すると空中を青い炎が移動して裸のターラーに合体した。


『あ、怪しい妖術!!』

『私は火になった、もう、剣は効かないよ』


 ターラーは斬って見ろというように首を差し出した。

 ステファンは誘われるように剣を振る。

 剣は青いターラーの体をすり抜けた。


『『火』属性の奥義、『火変化』だよ』

『うおおおっ!! ファイヤボルト!!』


 火の杖兵が火炎弾をターラーに打ち込んだ。

 火は彼女の火に吸収されて消えた。


『水杖が生きてたら良いんだけどね。もう無理だよ』

『ふざけるなっ!!』


 ステファンが狂ったように青いターラーに向けて剣を振る。

 だが剣はすり抜けるばかりで効果はない。

 無いどころか、剣が高熱で赤くなり、溶け始めた。

 ターラーは笑ってステファンの動甲冑に触った。


『ぎゃああああっ!!』


 青い業火に包まれてステファンの動甲冑は溶け始めた。


『うわあああっ!!』


 火の杖兵は杖を投げ出して体を丸めて震え始めた。

 辺りを取り巻く兵士たちも顔を青くして、少し退いた。


 全ての動甲冑は動かなくなり、リシャール王とターラーだけが真ん中に残っていた。


 青い炎に変じたターラーがゆっくりとリシャール王に近づく。

 王は恐怖で汚い悲鳴を上げた。


「我が戦友のターラー師よ、恐れながら進言があります」


 軍の士官が膝を付いて、ターラーに声を掛けた。


『なに?』

「どんな愚かな父親でも、アリス姫の為には必要だと私は考えます」

『……、人間のくずよ、これ』

「それでもです、愚かな父親でもアリス姫にとっては親です。断罪の判断はアリス姫にお願いされては如何でしょうか?」


 ターラーは空を見上げて考えた。

 本来はここでリシャール王を焼き殺すべきだ。

 それが一番問題が無い。


 だが、アリスは『星』属性だ。

 また、メテオストライクが欲しい各国で争奪戦が起こり、醜い争いが幼いアリスの目の前で起こるだろう。

 そう考えるとリシャール王を生かしておくのも有りかもしれない。


 余談であるが、ここでターラーに王の助命を進言した士官が誰なのか、現代には伝わっていない。

 歌劇などでは、ターラーと交流のあったミリンダ大佐が進言する場面であるのだが、資料を紐解くと彼女は王都での勤務をしたことが無いので明確に違うと解る。

 何人か候補は挙がっているのだが、決め手に欠くので、この話では正体不明の士官とした。

 余談を終わる。


 ターラーは冷たい目でリシャール王を見た。


『お前に刻印を与える、『火』の呪いだ』


 そう言うとターラーは青い炎でリシャール王の全身を焼いた。

 王の絶叫があたりに鳴り響いた。


『この火傷はお前を殺す事は無い、だが、治る事も無い。苦痛だけが永遠に続く。王女アリスがお前の罪を許す日に初めてこの呪いは解けるだろう』


 ターラーは呪いの炎で王を消し炭のように変えた。

 だが、真っ黒になりながらリシャール王は生きていた。

 全身を焼かれる信じられない苦痛で絶叫を上げながら、王は生きている。


『リンデン王国が没落していくのをベッドの上で呻きながら見ていろ、愚王め』


 辺りには五千を超える軍勢がいた。

 だが、しわぶき一つ上がらない、完全な沈黙だ。


 ターラーはふり返り、歩き始めた。

 兵達が無言で左右に分かれ、出来た道をターラーは歩く。

 青い炎を纏ったその姿は信じられないほど美しく、心引かれる光景であったと言う。


 目的は果たした。

 これで大部分の軍勢は、ヴァンフリート達を追う事は無いだろう。


――ああ、最後にヴァンに会いたいなあ。


 ターラーは試しに空を飛ぼうとしてみた。

 火の精霊になったのなら飛べるかもと思ったのだ。


 もちろん簡単に飛行ができた。

 ジンバルも使わないで、自分で思った通りに飛べる。


 上空からは沢山の軍隊が動いているのが見えた。

 ヴァンフリートの一隊は王都境界あたりに居た。

 ターラーは飛行で近づいた。


 ヴァンフリートは不意に空を見上げた。

 青く光る何かが近づいてくる。

 なんだか解らないが、危険な物とは思えなかった。


 近づいてきた、それは、ターラーの顔をしていた青い炎だった。


「ターラー、君なのか」


 彼女はふわりと着地した。


『お別れを言いに来たわ、ヴァン』

「な、何を言っているんだ、ターラー、は、早く魔法を解いて、一緒に領に行こう、いこう……」


 ターラーは静かに首を振って、杖をヴァンフリートに渡した。


『アリスが大きくなったら上げて』


 ヴァンフリートは震える手でターラーの杖を受け取った。


「ターラー……」

『さよなら、ヴァン、愛していたわ』


 馬から下りたヴァンフリートを抱擁して、ターラーはキスを交わして退いた。


「ターラー! 行くなっ!!」


 ターラーはふんわり笑って、天に届くほどの青い火の柱となり、消えた。

 後には一握の灰も残っていなかった。


 ヴァンフリートは膝を付き、慟哭した。

 ターラーとキスをした唇が少し火傷をして痛んだ。

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― 新着の感想 ―
ああ、せつねえなあ・・・ターラーさんや。 リンデン王国的にはこの馬鹿王がいる限り道々の支持は回復しなさそうだし。誰も幸せになれないんだぜ。
精霊化が奥義なら、魔女達を恐れるのも分かります。 もしやターラー師寿命無くなった?
「余談だが・・・」司馬遼太郎www
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