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魔女の道々  作者: 川獺右端
第九章 旅の終わりと始まり
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第62話 王と動甲冑

 ターラーはプラントとローパーのいましめを解いた。


「ローパーちゃん、サンディが重体なの、ヴァンと一緒に馬車でクーニッツ伯爵領に向かっているわ、追いかけて。プラント師もおねがい」

「サンディ王妃はクーニッツ伯爵の所に居たのか。解った、追いかける、行こう、ローパー師」

「はい、ターラーちゃん、死なないでね」

「うん、まあ、大丈夫だと思うよ」


 地上に下りたエリカが、プラントとローパーを箒の後に乗せて宙に舞い上がった。


「ターラーちゃん、また来るから」

「おねがいね、エリカちゃん」


 ターラーは、夜空に消えていく親友を見送った。


 彼女の周りは兵隊ばかりで、十重二十重に囲まれていた。

 王都中央公園は目と鼻の先だ。


 月が、まんまるの月が中空に掛かっていた。

 初夏の風がざわざわと木々を鳴らす中、ターラーは兵隊の大群を連れて歩く。


「『付け火のターラー』覚悟しろっ!!」


 王都防衛の駐屯兵のなかにはターラーを知らない者も多かった。

 彼らは軍の中でもエリートコースなので、前線も知らず、ターラーの活躍も見た事が無い貴族の息子達が多かった。

 手軽な手柄と襲いかかって来た兵隊は一瞬で焼かれた。

 悲鳴と共に燃え上がる人体の灯火に照らされて、ターラーは歩く。


 ターラーは中央公園に入った。

 幕が張られた陣の中に、白馬に乗ったリシャール王がいた。


「ターラー師、アリスを帰して頂きたい、あれは私の娘だ」


 静かにリシャール王は問いかけた。

 王の近くに大柄な甲冑の男たちが居た。

 見た事も無い無骨で黒い甲冑であった。


――魔法の匂いがする……、魔導具?


「アリスちゃんもサンディも道々が保護するわ、奥さんに斬り掛かるような粗暴な男の元には置いておけないわよ」

「魔女が出しゃばるな、アリスは私の娘だ、王家に繋がる尊い血筋だ、貴様らのような汚れた存在が手を触れるな」

「あなたは『星』の魔女を使って何をするつもりなの?」

「大陸の統一だ、リンデン王国がこの大陸の全てを支配する。アリスの力を使えば、それは可能だ。これこそ、魔女と国民の力の融合だ、新しい時代が来る。私がもたらす」

「メテオストライクで全世界の人間を恫喝して、あなたが一人、上に立とうというのね」

「ああ、そうだ、もう、魔女に大きな顔をされるのはうんざりなんだ。魔法が使えるだけの女どもが我が儘ばかり言う。サンディでさえそうだ、我が娘の力で世界を統べる、協力しろと言ったら金切り声で私を批難した、これは運命なんだ、私が世界を掴む、あの子はそのために生まれてきたんだ」

「あなたはおかしくなっているわ。魔女の道々を敵に回してリンデンが生き残れるとでも?」


 リシャール王は嗤った。

 月に顔を向けて嗤った。


「もう、魔女だけが魔法を使える時代では無い、紹介しようではないか、デシデリア共和国産の魔導動甲冑だ」


 五騎の甲冑兵がゆらりと動き、ターラーとリシャール王の間に立った。


「魔導具だ、魔導の研究家によって開発された新兵器だ! もはや魔法を使って戦うのは魔女だけではないぞっ」

「へえ、そうなんだ」


 ターラーは笑った。


「アリス王女探索の露払いに、『付け火のターラー』を血祭りにあげよっ!!」

『『『『『応!』』』』』


 五騎の動甲冑が散開し、得物を抜いた。

 剣が二騎、槍が一騎、杖を持つ者が二騎。

 連携して動く。


 動きが素早かった。

 クランク並の素早さと剣筋の確かさでターラーを襲う。


 ターラーはステップを踏んで半回転して『火球』を撃ち出した。

 盾で火球はいなされて、火が地面で破裂した。


 杖兵がターラーにむけて火炎と水球を発射した。


――本当に魔法を使った。火は『赤』程度、水は『河口』、最低限ね。


 幅広の青い炎を発射して、敵の火球と水球を弾く。

 槍兵が踏み込み、鋭い突きを放つ。

 ターラーは杖のジンバルを一瞬吹かして後退した。


――四人は普通の兵士程度、だけど、剣の一人が……、剣豪ね。


 剣豪兵を先にして、他の四人はサポートに廻る。

 ターラーは杖からこぼすような感じで『ファイグレネード』を落とし爆発させた。

 動甲冑兵は防御姿勢を取って、後にわずかに後退した。


――爆発魔法は耐える。装甲が厚いわね。


 ターラーは剣豪兵の斬撃を避けながら、杖先に火炎を圧縮しはじめた。

 何回も何回も、折りたたむように火炎が圧縮されて個体のようになった。

 剣豪兵の肩をかすめるようにして圧縮弾を発射した。

 大げさな動きで剣豪兵は避けたが、狙いは奴では無く、奧の杖兵だった。

 盾を持たない杖兵は防御態勢を取ったが、着弾と共に火炎が元の大きさを爆発的に取り戻し、吹き飛ばされ石畳に激しく叩きつけられた。


「まずは一人……」

『くそっ、トマスを、よくもっ!』

「ああ、近衛の人だったのね。トマス君、良い子だったのに」

『黙れっ!!』

「あなたは騎士団長のステファンさんだわ、いつもお世話になっているわね」

『投降しろ、ターラー、命までは取らない』

「あら、残念ね、私はリシャール共々、貴方たちを皆殺しするつもりよ」


 ターラーは月下に杖を構えて、にんまりと笑った。

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馬鹿一匹のために無辜の命が灰になってゆく。いたたまれねえなあ。 リシャ公は歴史に愚王として残るな。嫁と娘にしっかりと後世に語り継がれるんだゾ
リシャール君ェ… どこぞの受付嬢やってる魔王様が見たら激怒モノの案件だな…。 魔王様「キアラ、殺ってヨシ!(๑˃̵ᴗ˂̵)و」
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