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魔女の道々  作者: 川獺右端
第九章 旅の終わりと始まり
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第60話 男の子は魔女を使いたい

「『星』の魔女か……」

「なんて事、属性が『星』だからアリスちゃんは殺されそうになって、お姉ちゃんが命がけで助けたの?」

「そんなに『星』は嫌われているのかしら」

「ちがう……」


 ターラーはサンディの深い切り傷に応急処置をしていた。

 かなりの重症だ、放っておくと命は無いだろう。

 王国神殿へ聖女を呼びに使用人が走っている。


 ディアナとターラーは、はるか昔に大陸の半分を焼いた『星』の魔女の事を思い浮かべた。

 その再来を恐れ、アリスを亡き者にしようとした者が王宮にいて、サンディが命がけで我が子を助けた、と推理した。  

 だが、ヴァンフリートの意見は違うようだ。


「『災厄の魔女』という絵本があってな、よくうちの坊主にせがまれて読んでやるんだが……、かならず読み終わりに言う事がある」

「なんて?」

「『僕だったら、もっと上手に『星』の魔女を使えるよ』ってな」

「まさか……」

「アリスちゃんを戦争に使いたいの? リシャールは……、そんな馬鹿な感じには思えなかったけど」


 ディアナは学校でリシャール王と同級生であった。

 彼はいつも公平で、理知に優れ、穏やかな男であった。


「男はそういう所があるんだ、女には解らないかもしれないが。先王が急死したせいで、リシャールはまだ若い、二十歳にもなっていない、王府の重臣達には当然舐められる。だが、我が子が『星』だったら? メテオストライクの魔法があれば、だれもリシャールを侮る者はいない、逆らう国も無くなる。奴は大陸の覇者になれる」


 ざあっと音を立ててターラーの血の気が引いた気がした。


「王が、手ずから、サンディを斬ったの?」

「おそらくは……」

「どうやって王宮からここまで逃げてこれたのかしら……」

「お姉ちゃんは、『透明』の魔法をこの前作っていたの、先生には内緒で、驚かせてやるんだって言ってました……」

「馬鹿ね、本当に……、死ぬほど驚いたわよ」


 ターラーは優しくサンディの髪の毛を撫でた。


 クーニッツ伯爵のタウンハウスの二階に居間があり、そこから王城の様子が見えた。

 光が左右に分かれて動いている。


「近衛騎士団が動いている、左はアラニス侯爵家へ、右はターラーのアパートメントに行くのだろう」

「ここに入った事は気付かれていないわね」

「ここにターラーが来るって、誰かサンディに伝えたのかい?」

「いいえ」

「お姉ちゃんと私は、だいたいどこら辺に居るか、何となく解るので、私を目指して来たのでは無いでしょうか」


 双子の不思議さよ、とターラーは思った。


 ターラーは赤子のアリスをディアナに渡した。

 小さなアリスは上機嫌で笑っている。


「あ、あの?」

「ディアナはアリスの師匠になりなさい」

「え、そんな、私はまだ、そんな事出来ないですよ」

「大丈夫、ディアナは私の自慢の弟子なんだから、やれるわ」

「で、でも……」

「空を飛んで王都を脱出しなさい、次のワルプルギスの夜市はアウネの街のサンリッカ山よ、魔女の道々の幹部はそこで準備をしているから、アリスを連れて逃げ込みなさい」

「は、はいっ」


 ターラーはサンディを見、ヴァンフリートを見た。


「ヴァン、サンディを連れて王都から脱出してくれないかしら」

「解った、クーニッツ領に連れて行こう、なんとしてでも」


 ターラーは王城を厳しい目で見つめていた。


「先生はどうするんですか」

「貴方たちが逃げる時間を稼ぐわ」

「先生っ」

「ターラー、それは危険だ」

「灯りが駐屯地に向かっているわ。王は軍を動かすつもりよ。だから、私が軍を焼くわ」

「ターラー……」

「アリスちゃんとサンディを王に取られたら負けよ、今、私が動いて暴れたら、ディアナも、ヴァンも安全に逃げられると思う」

「ターラー」

「うん」

「死ぬな」

「努力するわ、生きていたらクーニッツ伯爵領に行くわね」

「領城で、サンディと一緒に待っている」

「うん」


 ターラーは微笑んだ。


 ディアナはおんぶ紐を貰い、アリスをそこに入れた。

 鞄に食糧とお金を詰め込んでテラスに出た。


「それでは、先生、行ってきます」

「気を付けて、アリスちゃんをよろしくね」

「はいっ、大事な私の弟子ですからっ」


 ディアナは手すりをポンと軽く蹴って宙に飛びだした。


 ターラーとヴァンは、空を行くディアナを夜の彼方に見えなくなるまで目で追った。


「ヴァンの方が大変だけど、頑張って」

「タウンハウス全体で逃げる、色々な技術を持つ奴がいるから何とかなる」

「そう」

「ターラー」


 ヴァンフリートはターラーの顎に指を当てて首を上げさせて、キスをした。


「行ってくる」

「行ってらっしゃい」


 重体のサンディを馬車に乗せ、ヴァンフリートとタウンハウスの使用人たちは静かに屋敷を後にした。

 出発の間際に、ローパーの弟子の若い聖女が走って来て、使用人にうながされて馬車に乗りこんだ。


――サンディ、死んじゃだめよ。


 ターラーは杖を肩にしてタウンハウスを見上げた。

 太い息を吐いて肩をすくめると歩き始めた。


「さて、悪い王様をぶん殴りに行きますか」

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死ぬなよターラーちゃん!いや、もうターラー=サンだね、孫弟子まで出来て貫禄も出てきてるし。 無理はしないでくれよ。ゾーヤ師の亡くなった時を思い出して。 →いのちをだいじに
ひとまずサンディが生きているので (๑•̀ㅂ•́)و✧ヨシ! ターラーさん、生きてヴァンさんと弟子ズの元へ還って来てね〜!
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