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魔女の道々  作者: 川獺右端
二章 ワルプルギスの夜市
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第6話 飛行魔法の色々

「ぎゃあ、怖い怖い怖いっ!!」

「あわわっ、暴れないでターラーちゃん、危ないよっ!!」

「ひーんひーん、高いよ高いよーっ!!」


 今日はエリカの飛行魔法を試してみようと、彼女の箒の後に跨がったターラーであったが、最初は景色を見て綺麗と言う余裕があったのだが、だんだん高さが怖くなり、パニックを起こして泣き出してしまった。


 エリカは箒を揺らさないように、ゆっくりゆっくり地上へと下りた。

 ターラーは箒から飛び落ちて地面に両手を付けて脱力した。


「ああ、大地って素晴らしい」

「高い所苦手だったんだね」

「初めて知りました。崖とか大丈夫なんだけど、空中は怖い、エリカちゃんは良く平気だね」

「気を失ったり、位置が解らなくならない限り、落っこちても重力軽減でふんわり下りれるから」


 そう言うと、エリカはポーンとジャンプして、タンポポの綿毛のようにゆっくりと落下した。


「すごいっ! どうやってるの?」

「地面の奥底から重力って力が出ていて、なんでもかんでも地面に向けて引っ張っているんだよ。飛行魔法はその重力を操作して飛ぶんだよ」

「そうなんだ、すごいねっ」


 ターラーには良くわからないけど、凄い説明だった。


「お前さんは怖く無いんかえ? ソーニャ」

「最初は怖かったけどね、慣れたわよ」


 師匠達はテントの前にテーブルを出して樽エールを飲みながら二人の弟子を見ていた。


「何しろね、船よりも速いのよ、空。徒歩で一ヶ月かかる場所に二時間ぐらいで飛べるのよ、多少怖いぐらいは我慢するわ」

「そりゃあ、速いねえ」


 ターラーがこっちを見ていた。


「そう言えば、ソーニャ師匠の属性はなんですか?」

「『夜』よ」

「夜、ですか」


 なんだかあまり詳しく聞いてはいけない感じの属性だなと、ターラーは思った。


 お昼ご飯を済ませた後、ターラーは火魔法組合にやってきた。


「ロッカ先輩! 火魔法に移動魔法は無いんですか」

「あるぜー」

「おおっ」


 やってみる事になり、ターラーはカエルっぽいロッカ先輩と中庭に出た。


 ロッカ先輩の杖には足場っぽい物がついていて、彼女はそれをカチャンと展開させた。


「手だけで保持すると、すっぽ抜けて落下すっからな」

「おおっ」

「金具は鍛冶屋の魔女に頼め」

「あい」


 ロッカは杖の金具に足を掛け、呪文を唱えた。


 ズドドドドドド。


 と、下腹に来る重低音とまばゆい光と共に火炎が杖から吹き出して、ロッカは天に昇って行く。


 まっすぐ、どこまでも登っていく、蟻よりも小さくなった。

 見上げているターラーの首が痛くなった。


 そして、またズドドドド、と轟音と共にまっすぐ降りて来た。


「どや!」

「い、いえ、その、移動できないんですか、遠くに行くとか」

「火魔法ってのはまっすぐにしか出ない。斜めに射出したら遠くに飛べるが、着陸が難しくてぺしゃんこになる。年に何人かはこの魔法で死ぬ」


 斜めに飛んで、その頂点で反対側を向いて、火力を調整して軟着陸……。

 確かに大層難しそうだ。


「高い所からの景色は綺麗だし、敵軍の布陣とかを偵察できる良い魔法だぞ、金具を買って覚えろ」

「は、はい……」


 あまり覚えたく無い移動魔法であった。

 とはいえ、何かの時には使えそうな気もする。

 道に迷った時とかね。

 垂直に上がって、垂直に着陸するのはそんなには難しくなさそうであった。


 鍛冶魔女のテントに行って、足場金具を付けてもらい、午後は垂直移動魔法を練習した。

 確かに、高く飛ぶと景色が綺麗で遠くまで見る事ができる。

 エリカの後に乗った時と違って、自分でコントロールしてるのでそんなに怖くは無い。


 練習中に飛んでいるエリカとすれ違い、笑って手を振り合った。


「さすがに『青』は出力が高いので覚えが早いな。ただ、あんまり高く行くな、空気が薄くなって気を失う。これで年に何人もの魔女が死ぬ」

「魔女は簡単に死にますね」

「練習中の失敗で結構死ぬよ」


 魔法は危ない技術なんだなあ、と、ターラーは今更ながら実感した。


 夕方になったので、火の組合から出てターラーはテントに戻った。


「じゃあ、魔女の酒場にいくかね」

「はい、師匠」

「いろんな魔女がいるけど、短気を起こして喧嘩しちゃあなんねえよ」

「そ、そんなに治安が悪いんですか?」

「魔女はみんな自由(フリーダム)だからなあ」


 ゾーヤはターラーを連れて、西の大きなテントに入った。

 テーブルが沢山出ていて、沢山の魔女が飲んだくれて、歌を歌い、楽器をかき鳴らしていた。


 ゾーヤは適当なテーブルに座り、対面にターラーを座らせた。


「お前さん、酒は?」

「の、飲んだ事ありません」

「んじゃ、今日から飲め、おねえちゃん、エールを二つ、あと定食を二つだ」

「はい、かしこまりました」


 ターラーは物珍しくて辺りをキョロキョロ見回した。

 ここに居るのは、店員や料理人を含めて、全員魔女なんだなあと、今更ながら思った。


「そう言えば、風属性に飛行魔法は有るんですか?」

「あるけど、危ねえ、あたしは一回使って死にかけて懲りた」

「そうなんですか」


 ゾーヤとターラーの前に木のジョッキに入ったエールが置かれた。

 おそるおそる飲んで見る。

 わ、苦いけど、まあ飲めなくは無い。

 というか喉の奥がかっと火が付いたように熱くなった。


「風は火の反対で、まっすぐ飛ばねえから、風で飛ぶとなるともう、これは大ばくちでよう。急ぎの時にやってみたが、死ぬかと思ったな」

「火はなんか、まっすぐしか飛ばないんですよ、融通が効かないというか、魔法も属性で色々なんですねえ」


 エールをぐびぐび飲んでいると、定食がやってきた。

 肉や根菜がごろごろ入ったシチューに黒パンだった。

 凝った料理じゃないけれども、とても美味しかった。


 エールを飲むたびにターラーは愉快になり、シチューを食べ、黒パンを食べ、またエールをぐびぐび飲んで、夜半につぶれた。

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夜ってなんじゃろ? 火の移動系はロケットか、そりゃ魔女でも死んじゃうか 自分に作用するからとて安全策は一切ない無情な世界よ
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