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魔女の道々  作者: 川獺右端
第八章 太陽と月の双子
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第58話 リシャール王子と一緒に巡行

 ディアナが操るヨットは高空からするりと高度を落とし、青い湖面を割って着水した。

 岸辺にはアラニス侯爵、そして使用人達が皇太子夫妻を待ち構えていた。


 リシャール皇太子夫妻は新婚旅行がわりに、サンディの実家であるアラニス侯爵領の祝福にやってきたのだ。


「これは皇太子殿下、ご尊顔を拝したてまつり、光栄の限りでございます」

「これは親父どの、虚礼は排する、あなたは私の義父となったので奉る言葉はいらぬよ」

「これはありがたくおもいますぞ」


 そう言って、皇太子殿下とアラニス侯爵は顔を見あわせて笑った。


「サンディにディアナも良く来た、今年も豊作を頼むよ」

「まかせといて、お父様」

「ただいま、お父様」


 サンディとディアナも顔をほころばせた。


「ターラー師もいらっしゃい、いつも娘達が世話をかけるね」

「いえ、二人とも優秀な魔女ですから」


 挨拶をそこそこに一行は湖畔の離宮に入った。

 ここはアニエス侯爵領の夏の避暑地であった。


 アニエス侯爵家は基本的に領地に侯爵閣下が、王都のタウンハウスに奥様がいて、それぞれが内政に外交にと役割分担をして忙しく働いている。

 ディアナが飛行魔法を覚えてからは気軽に王都と領都を行き来できるので侯爵夫妻は喜んでいた。


「リシャール王子、いえ、皇太子殿下、いらっしゃい、サンディ姉さん、ディアナ姉さん、お帰りなさい。ターラー師もいらっしゃい」

「ただいま、ローレンス、領に変わりはない?」

「無いよサンディ姉さん。それよりも、領都のみんなが皇太子殿下と姉さんを一目見たくて待っているんだよ」

「嬉しいわ、父さん、パレードは明日かな」

「そうだ、明日だよサンディ、みな皇太子妃となったお前を見たいと騒いでおるよ」


 この時期のサンディの人気は凄まじいもので、領都が文字通り期待で沸騰しているようであった。


 リシャール皇太子とサンディはとても仲睦まじく、愛情にあふれた夫婦であった。

 そんな二人を周囲の者達は微笑ましく見守っていたのだった。


 今回の皇太子夫婦の巡行であるが、アラニス侯爵領に一週間、近隣の貴族領を二三箇所廻り、一ヶ月後に王都に戻るスケジュールである。


 領都の大通りを、リシャール皇太子とサンディ皇太子妃はディアナの操る、宙に浮かんだ華麗なボートに乗ってパレードを行った。

 領民たちは皇太子夫婦を一目見んと大盛り上がりで大通りを埋め尽くした。


 ターラーはそのボートの後ろの馬車にアニエス侯爵と共に乗ってパレードに加わっている。


「本当にターラー師には感謝してもしきれません、私たちの娘たちをよく育てていただけました」

「いえ、彼女たちの努力の成果ですよ。私などはあまり」

「ご謙遜を、娘達も家内も、ターラー師を慕い、頼りにしておるのです。このまま、幾年月も二人の娘をお願いいたします」

「はい、もちろんです、二人が魔女として育って、孫弟子ができるまで、私は見届けたいと思いますよ」

「ありがとうございます」


 幸せな人生、幸せな生活、満ち足りて何の不自由も無い魔女の人生をこの頃のターラーは送っていた。


 アニエス侯爵領を一巡りし、近隣の領を廻り、一ヶ月を掛けて、皇太子の巡行の旅は終わり、王都に戻った。


 途中、飛行中の船内でサンディは体調を崩し、食事を吐いた。


「あれ、サンディ、あなたまさか」

「え、あれ、そんな、妊娠かな」

「ちょっと、聖堂都市に寄り道しましょう」

「た、体調が悪いんだと思うよ、いや確かに生理は来てないけどさ」


 念の為、と、船はカドモシ市へと向かい、大聖堂の前に着地した。

 入念な検査の結果、確かに妊娠していることが判明したのだった。


 リシャール皇太子も、ディアナも、ターラーも喜んだ。


「さすがはサンディだわ、一発で当てるとは、運が凄いわね」

「お姉ちゃんは賭け事が凄いから」

「や、やめて、懐妊と賭け事一緒にしないでよ」


 私はヴァンとの間には何年たっても子供は出来なかったのに、とターラーはちょっと悔しく思った。


 嬉しいニュースを持って王宮に帰った皇太子夫婦に伝えられたのは、王の崩御であった。

 急病であったらしい。


 それから、即位の式典が行われ、リシャールは名実共にリンデル王国の十四代目の王となった。

 同時にサンディ王妃の懐妊が王国内外に告知された。

 王の崩御に悲しんでいた国民は、新しい王の即位と、王妃の懐妊に沸き立った。

 歴史あるリンデン王国では、女性の王が立った事もあり、魔女の王妃から生まれる魔女の子供に国民の期待が膨れ上がった。


 そんな中、サンディのお腹はどんどん大きくなり、赤子は腹の中で育って行く。

 ターラーもディアナも出産を楽しみにしていた。


「素晴らしいよターラー、王族の魔女が、王女の魔女が生まれるんだ、ひょっとすると魔女王になるかもしれないな。これは歴史の変換点だよ」


 王宮で出会ったプラントが興奮気味に早口で語った。


「歴史とか考え無くても、元気な赤ちゃんが生まれてきて、サンディとリシャール王が幸せに暮らしてくれたら、それに勝る喜びは無いわよ」

「たしかにそうかもなあ」


 王宮の廊下で、上機嫌のプラントは、そう言った。

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― 新着の感想 ―
うわああ、ほほえましいんだけど。地の文が不穏なんじゃよ・・・。 ここから不幸にならないでくれえ。
>「歴史とか考え無くても、元気な赤ちゃんが生まれてきて、サンディとリシャール王が幸せに暮らしてくれたら、それに勝る喜びは無いわよ」 マジそれな!
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