第5話 色々な魔女とエリカ
ターラーは夕方に火の組合から出た。
色々な魔法を教えて貰って実りある午後だった。
『青』というのは火炎の温度の事らしい。
『赤』が一番下の温度で、その上は『黄』、その上が『白』、そして最上級の火の温度が『青』だった、カエルっぽいロッカさんが『白』、他の魔女さんたちは、大体『赤』か『黄』だった。
「百五十年ぶりの『青』だあ、期待してんぞ、ターラー」
「は、はいっ、大婆さまっ」
魔女の大先輩に褒められてターラーはとても高揚した。
その事をテントのゾーヤに知らせると、彼女はにっこりと笑った。
「そりゃあ、良かった、私も師匠として鼻が高えよう」
嬉しそうなゾーヤを見て、ターラーも嬉しくなった。
テントにソーニャがやってきた。
黒髪のターラーぐらいの年格好の女子が後にいた。
「おまたせ」
「あら、晩ご飯はソーニャ師匠とですか」
「イドンの街に良いレストランを見つけたのよ、行きましょう」
「それは楽しみです、えと、そちらは?」
「ああ、私の弟子のエリカよ、土属性、飛行魔法が得意なのよ」
「こ、こんにちは、エリカです」
「ターラーです、火属性です、よろしくね」
「は、はい、よろしくおねがいします、ターラーさん」
大人しそうな子だな、仲良くなれたら良いなと、ターラーは思った。
四人は暮れていく夜市を歩く。
「夜市でご飯は出ないんですか」
「やっているわよ、ただ、酒場と一緒だから騒がしくてね」
「明日つれてってやるよ」
魔女の酒場は楽しそうだな、とターラーは思った。
前方の建物の所に、少し変わった感じの魔女が居た。
白を基調とした服で尼さんみたいな感じだ。
「あれは、何の魔女ですか?」
「ああ、教会の聖女、治癒の魔女だな」
「話が合わないから声を掛けないのよ」
ああ、教会の聖女も魔女として夜市に来ているのか。
全然違う物だとばっかり思っていたターラーであった。
夜市の出口では剣を佩いた魔女が二人、門を守っていた。
「おう、ゾーヤ、久しいな」
「最近はめっきり会わないねえ、クランク」
「またやり合いたいけどなあ」
「よせやい」
ゾーヤの知り合いのようだ。
剣客のような魔女もいるんだなあ、とターラーは思った。
「お、良さそうな『火』だな、戦場に出るか」
「え、あ?」
「そのうちな」
「そりゃ楽しみだ、あたしは『鏖のクランク』、『剣』の魔女だ」
「『剣』属性ですか? クランク師匠」
「希少属性だ、身体強化系魔法しか使えねえが、戦場なら無敵だ、カカカ」
戦闘狂みたいな魔女なのかあ。
色んな魔女がいるのをターラーは初めて知った。
「傭兵に出た時はあいつに注意だ」
「傭兵って、戦場に行くんですか?」
「火魔法と風魔法は、戦争は儲かる」
「いやでも……」
ターラーにとって戦場は汚れた場所で、唯一の例外は労働者が体制を打ち破る革命の戦いだけであった。
「まあ、師匠の言う事を聞け、うん」
「でも……」
まあ、戦場に行って、各陣営の主張を聞いて、正しい方へ加勢すれば良いか。
ターラーはそんな事を考えていた。
「火の魔法は戦場で需要があって良いですね、土属性はあんまり」
「飛行術で輸送とか無いの」
「あはは、そういう地味な作業は馬車とか使うんですよ」
それもそうか。
そうか、火と風が戦場向きなんだなあ。
特に火だ。
イドンの街のレストランは落ち着いていて、とても美味しかった。
ターラーは出身が農村なので、凝った料理を食べた事が無く、あれもこれもと動けなくなるほど食べてしまった。
「食べ過ぎました~」
「まあ、ソーニャとお茶を飲んでるから、食休みをしておれ」
「はい……」
ゾーヤはソーニャと各界の噂話を交換していた。
国と国のトラブルから、開戦情報、戦の旗色の情報、今流行っている物は何か、困った魔女の噂話など、多岐にわたった。
エリカはターラーを心配そうに見守っていた。
「薄荷アメ舐める? 口がすーすーするよ」
「ください」
薄荷アメ自体が初めてであるが、ターラーは口に放り込んだ。
わ、すーすーする。
「おいしい」
「良かった」
「エリカちゃんはどこら辺から来たの?」
「大陸の北の方、魔女だからって村でリンチに遭ってた所をソーニャ師匠に助けられたの。ターラーちゃんは?」
「私は西の方、農民反乱で両親が騎士たちに殺されて、学者の先生の言う通りに反乱を手伝っていたら、ゾーヤ師匠に捕まったの」
「あら、まあ」
「今は、農民の権利獲得に社会運動に動くか、魔女になるか、迷ってる所だよ」
「魔女の方が良いよ~、ターラーちゃん、才能ありそうだし」
「えへへ、ありがとう」
魔女の道々を出て社会運動に邁進すると、火の組合の人達ともお別れなんだよね。
それよりも、ゾーヤ師匠ともお別れになるなあ。
どうしようかなあ、困ったなあ。
いまだに気持ちの踏ん切りが付かないターラーであった。
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