表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔女の道々  作者: 川獺右端
第七章 里帰りと恋
49/95

第49話 恋人を得た後の魔女の生活

 とりあえず、ヴァンフリートの愛を得て、ターラーの一年は変わった。

 戦場と王都ガラス工房に三ヶ月ずつ滞在は変わらないが、一年に一ヶ月ほど、クーニッツ伯爵領の領城での滞在が加わるようになった。

 もっとも王都にいる間も、クーニッツ伯爵領のタウンハウスでヴァンフリートと逢い引きを交わしてはいるのだが。

 ヴァンフリートの内縁の妻のようにターラーはなり、伯爵家の使用人たちもそのように扱ってくれた。

 この頃が、ターラーの一生で一番幸せな時期であったろう、と言われている。


「赤子はできねえか?」

「駄目ですねえ、出来たら伯爵家で育てるってヴァンは言ってましたが」

「生まれたら魔女だあなあ、ポーラーか、エリカの弟子にだすかいの」

「いやですよ、気の早い、でも赤ちゃんが生まれたら、それは良いですねえ」


 工房に行く道々でゾーヤとターラーはそんな事を語り合っていた。


 ガンドール工房も社長が隠居して、若旦那が社長にめでたく就任した。

 気の合う都市魔女さんたちと楽しく魔導炉を回して働く。

 休日はヴァンフリートと一緒にレスドランに出かけたり、美術館に行ったりした。

 子供はなかなか出来ないが甘々で充実した日々だった。


 自分の前で笑顔を見せるヴァンフリートがターラーは好きだった。

 意外に子供っぽい所もあって、それでいて頼りがいがあって、自分を大事にしてくれる彼が大好きだった。

 旅に出て、遠い空の下にいる彼を思って歩くのも好きだった。

 旅先に時々届く彼の甘い手紙を読むのが好きだった。

 王都に戻り、彼の胸に飛びこむ瞬間が好きだった。


 そして、五年後、ヴァンフリートは本妻をめとった。

 伯爵家を途絶えさせる訳にもいかず、子爵家の次女との結婚であった。


「勘違いしてはいけない、僕が一番愛しているのはターラーだ、それは変わらない、天の女神に誓ってね」

「信頼しているわヴァン、でもやっぱり子供が出来ると変わるわよ」

「大丈夫だ、大丈夫大丈夫」


 その言葉はまるでヴァンフリート自身に言い聞かせているようにターラーには聞こえた。


 次の年、ターラーが領城に行くと、本妻が挨拶に来てにこやかに頭を下げた。

 表情は柔らかったが、目が冷たかった。

 仲の良かったメイドや執事もなんだかよそよそしくなっていた。

 もう、領城を訪問するのはやめよう、とターラーは思った。

 彼は変わらず優しいし、愛してくれているが、本妻の方にも目を向けて家族を作って欲しかった。


――子供が、できてたらなあ……。


 ターラーの子宮は孕むことは無かった。

 魔女の赤ちゃんが欲しかった。

 彼との愛の結晶が欲しかった。

 だが、子供は出来なかった。


「ソーニャ師匠に相談できませんかね?」

「無理だあなあ、『夜』ってもな、魔女を孕ませる秘訣なんかは知らねえだろう。運が良ければ一発なんだがなあ」


 ターラーとゾーヤは旅を続けた。

 寒い雪の野を歩き、海沿いの岬を越え、砂漠の暑さに呻き、壮大な山の峠を越えていく。


 四年に一度のワルプルギスの夜市がまた来て、旧友との交流を温めて、飲んで食べて騒いで楽しみ、そしてまた旅に出る。


 戦場に出て、工房で魔導炉を回し、迷宮を歩く。

 ターラーも魔女として一人前になり、こうやって人生を過ごして、そして老いて死んでいくんだろうな、とターラーが思った頃、ゾーヤが倒れた。


 峠道であった、初老にかかっていたゾーヤは歩きが遅くなっていた。

 そして、胸を押さえて彼女はしゃがみ込んだ。


「お師匠さん、大丈夫?」

「ぐぬぬぬっ」


 ゾーヤの顔は真っ青だった。

 ターラーはオロオロした。

 秋口の深山、峠越の途中だ。

 この症状は、どこかで休ませないとあぶない。

 ターラーはそう思い、脳裏にこの周辺の地図を思い浮かべた。


 峠を越えた湖の近くに村があった。

 そこまで運んで、教会の治癒魔女を呼んでくる。

 ターラーはそう決めた。


「死なないでください、まだまだ、師匠には教えてもらう事がいっぱい有るんです」

「あ、ああ、ぐぐぐっ」


 ゾーヤは苦悶の声を上げたが、顔は笑っていた。

 ああ、師匠が死んだ時とうり二つだなあと思っていた。

 あんときは、無理して『風』の飛行魔法を使おうとして、瀕死の師匠と一緒に死ぬ所だったねえ。

 そう、ゾーヤは思っていた。


 ターラーもそうした。

 荷物から紐を取りだして、背中にゾーヤをくくりつけ、杖のアタッチメントを開き、それに足を掛けた。

 ドドドという噴射音と共にターラーはゾーヤを背負ったまま、空を飛んだ。

 『火』飛行魔法は魔力の燃費が悪い。

 だが、ターラーは歯を食いしばり飛んだ。

 村まで必死になって飛び、村の門の所で魔力切れになり、ゾーヤを背負ったまま村に飛びこんだ。


「急病人なんです、どこか休む所を」

「……、もう、死んでんぜ、そいつ……」


 ターラーは悲鳴を上げた。

 動かなくなったゾーヤの体を揺すぶった。

 だが、ターラーの大好きな師匠は、もう死んでいた。

よろしかったら、ブックマークとか、感想とか、レビューとかをいただけたら嬉しいです。

また、下の[☆☆☆☆☆]で評価していただくと励みになります。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
ああ、遂に寿命が来てしまったか。おいたわしや(T△T ターラーちゃんもすっかり大人だよね。いい師匠になるんだよ。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ