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魔女の道々  作者: 川獺右端
第七章 里帰りと恋
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第48話 ヴァンフリートぼっちゃんに褒美をもらう

 ターラーとゾーヤは森の中、先生と男を縛り上げて引きずり歩いた。

 痛いとか死ぬとか言っていたが二人とも耳を貸さない。


 ジゼルの家まで引っ張って行き、ミルカとジゼルを起こして騎士団の詰め所まで通報しに行ってもらった。


「足が痛い足が痛い、出血死してしまう、たのむ手当を」

「ああ、痛い痛い痛いっ、死んでしまう~」

「火炎弾は傷を焼き潰すから出血はそんなに出ないわよ、死なないわ」

「黙ってないと、永遠に黙らせるぞえ」


 ゾーヤが凄むと、哀れな二人の男は黙った。

 程なくしてランタンを掲げた騎士団の馬車がやってきて、騎士が降りて来た。

 騎士団長に似ているが黒髪の美青年であった。


「ターラー、活動家を捕まえてくれたのか」

「そうだよ、というか誰?」

「ああ、俺は現騎士団長のジェニスだ」

「爺さんの騎士団長は?」

「あれは俺の親父だ、元騎士団長だ」

「代替わりかえ、よろしくな、ジェニス」

「ああ、ゾーヤ師、二人を貰って行くぞ」

「報奨金の方、よろしくなあ」

「解った、十年追っていた活動家だ、報奨金もはずもう、では」


 ジェニスは部下に命令して馬車に先生と男を乗せ去っていった。


「先生は捕まってしまったか」

「村からも何人か逮捕者がでるかしら?」

「匿う形ではあったからな、持て余してはいたが」


 ミルカはぽつりとこぼした。

 農民反乱から十年、だんだんと騎士団と農民の関係も軟化していき、過激な事を言う先生が負担になっていたのかもしれない、とターラーは思った。


 ターラーとゾーヤはしばらくジゼルの家で穏やかに過ごした。

 農作業の手伝いも身内の家だと気合いが入るというものである。

 前は豪農であるガリバタ村のアマリエ家がうらやましかったが、ジゼルの家も同じぐらい裕福に幸せにしなくてはね、ともターラーは思った。


 元騎士団長がいつも通りガハハと笑いながらジゼルの家にやってきた。


「ターラー、ゾーヤ、坊ちゃんがお呼びだ、褒美をくれるそうだぞ」

「そう」

「どうした、表情が暗いな」

「いえ、行くわ」

「行くべ、飯は出んのか、元団長」

「ああ、昼飯ぐれえは出すぞ、ガハハ」


 元団長の馬車で、ターラーとゾーヤは騎士団本部に運ばれていった。

 大広間で、十年ぶりにヴァンフリートぼっちゃんとターラーは再会した。


「ターラー、十年ぶりか、大きくなったな」


 玉座で微笑むヴァンフリートも十年の時を経て立派な若者に成長していた。

 なんだか色男だな、とターラーは思った。


「ぼっちゃんも良い男になりましたね」

「お前も綺麗になった、戦場でクランク師と戦い、ドラゴンを倒したそうだな。我が領地から高名な魔女が出て誇らしく思うよ」


 ターラーは一息吐いて、ヴァンフリートを見つめた。


「私を捕まえて処刑してください」


 意外な申し出にヴァンフリートは眉を上げた。


「なぜ?」

「先生に騙されて騎士さんたちを何人も焼き殺したからです」

「支配階級から農民を解放するのはやめたのか?」


 ターラーは薄く笑った。


「農民は解放しなくても、坊ちゃんの統治の元、とても幸せそうです。社会活動は負けたんです。ですので、十年前の罪をあがなわせてください」


 ヴァンフリートは微笑んだ。


「高名な魔女を処刑しては、私が国王に咎められるであろう。国王陛下は君のガラス像を見るのが楽しみでならないそうだ」


 国王様が私のガラス像を、とターラーは嬉しくなった。


「君は高潔な人間だ、だがそんな者も若い頃は間違える、私もまた、ゾーヤとの契約を破り、七人の兵士の命を無駄にした、私もまた罪人だ、だから、自らの罪は死後女神に裁いてもらわないか、ターラー」


 ターラーはひざまずいた。

 ヴァンフリートの言葉で少し心が軽くなっていた。


「ありがとうございます、ヴァンフリート閣下」

「どうだね、一緒にランチを取らないか、ゾーヤ師と一緒に色々な旅の話が聞きたいね」

「閣下がご所望でしたら」


 ターラーはにっこり笑った。

 ヴァンフリートもにっこり笑った。

 なにか温かい物が通じ合ったような感覚がターラーにあった。


 それからターラーとヴァンフリートはどんどん仲良くなっていった。

 ゾーヤが少々渋い顔をした。

 騎士団本部から伯爵領の領館へと二人は招待され、一ヶ月ほど滞在した。

 若い二人は湖へ船遊びに行ったり、森へと遠乗りをしたり、甘やかな青春を楽しんでいるようであった。


 ゾーヤがメイドにヴァンフリートの事を聞いてみると、女嫌いでこれまで恋人らしい女性は見た事がないそうだ。

 伯爵家の跡取りとしては婚約者もおらず、なかなか面倒臭いことになったとゾーヤは独りごちた。


「ターラー、そろそろ王都に行くべいよ」

「あ、あのあのっ、師匠、わ、私はその、ヴァンと、その、結婚をしたいとっ」

「……、身分違いだあ、やめとけよ」

「でも、でも私はヴァンを愛していて、それで彼も私を愛してるって、その」

「魔女が弟子をとんのはな、赤ん坊がほとんどできねえからだ」

「え?」

「子宮で魔力を練るんだ、普通の子は生まれねえ、生まれるとしたら魔女だ。貴族の跡取りにはならねえ」

「そ、そんな事って……」

「あきらめろう」


 ターラーはショックを受けて泣いた。

 わんわん泣いた。

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この世界では女領主は一般的じゃないんですかね。あるいは領主兼任魔女が認められないとか? 血の繋がりだけなら婿を取ればよさそうだなと思ったので。ほろ苦い恋でしたな。 生まれてくる娘が魔女でも添い遂げる…
切なすぎる初恋だよぉ~!!!
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