第46話 無くなった実家跡で絶望する
懐かしい村を歩く。
十年前の、あの頃、煤けてうらぶれていた村はもう無かった、同じ形の同じ村なのに、明るくて綺麗で、村人はみな幸せそうで、ターラーの家族だけが居ない村だった。
「ターラー、ターラーじゃないの、私よ、ほら、エリーよ」
「あ、あああっ、エリーちゃん、大きくなって」
「うわ、ターラーだ、大きくなったねえ、戦場で活躍してるって噂は聞いたよ、ドラゴンも倒したんだって?」
懐かしい村人たちがターラーを見つけて寄ってきた。
ああ、なんだろうなんだろう、とても嬉しいのに、この村が廃墟になっていなくて落胆している自分も感じられて、ターラーは混乱した。
――なぜ、みんな幸せそうにしているの? どうして騎士達に皆殺しにあっていないの? 私の家はもう無いのに、私の家だけ……。
混乱した考えを誰かに伝える訳にもいかず、偽りの笑顔を浮かべながらターラーは懐かしい村人たちの話を聞いた。
ゾーヤは黙ってターラーの後に寄り添ってくれていた。
村長の家の角を曲がると、ターラーの実家があった場所だ。
今は空地になっていて、草が繁茂していた。
ターラーが最後に見た時は、先祖から伝わった家が燃え上がり、父さんと母さんと、兄と弟と妹が焼けていくのを悲鳴を上げて見ているしか無かった。
――私の家の人間は誰も生き残っていなかった。先生が教えてくれた、邪悪な騎士達が遊び半分で家族を殺して焼いたと。
「大変な火事だったわねえ、生き残ったのはターラーちゃんだけで」
「騎士団がやったって……」
「え? 違うわよ」
ターラーは隣家のお婆さんを振り返った。
いつも優しかったカノリさんだ。
「じゃあ、誰が……」
「さあ? でも騎士団が来てたら、村の衆が黙っては居なかったはずよ、あの頃は凄く仲が悪かったから」
誰が……、家を……。
「ああ、ジゼルちゃん、ジゼルちゃん、ターラーちゃんが帰って来たわよ」
「おねええちゃんっ!!」
駈け寄って来た女性が誰か、最初は解らなかった。
顔に大きな火傷の跡があった。
でも、懐かしい母の顔と生き写しであった。
「ジゼル……、い、生きていたの……」
「そうだよ、私は大やけどで三ヶ月も生死の境を彷徨っていたのよ!」
「ああ、ジゼル、ジゼル、良かった、良かった」
ターラーとジゼルは抱き合った。
「今はどうしてるの? ジゼル」
「ミルカの家に嫁いだのよ、子供もいるわよ」
「本当に、すごいっ」
「今日泊まる所は?」
「無いわ、村はずれでテントを張ろうかと思ってるわ」
「私の家に来て、子供にも会って欲しいし」
「いいの、師匠もいるけど」
「いいわよ、小さくて貧乏な家ですけど、どうですか?」
「雨風がしのげれば、上等だでな、世話になるよ、ジゼルさん」
「はい、こっちです」
ジゼルは満面の笑顔でターラーとゾーヤを家に案内した。
彼女の家は村はずれにある小さな家だった。
大きな農家の次男坊が独立して小さな畑を持って家を建てたとの事だった。
「お、魔女さんだ。どうしたんだい、ジゼル」
「ミルカ、私のお姉ちゃんよ、ターラー姉ちゃん、こちらは師匠さんのゾーヤさん」
「こんにちは、妹がお世話になってます」
「こんにちは、だな」
「これはこれは、村を出て魔女として活躍しているターラーさんですか、噂はかねがね」
「いえいえ、久しぶりに里帰りしてみたら、妹が生きていてびっくりでした」
「ああ、その、ジゼルが生きてるって、ターラーさんに知らせるなって、先々代の村長が……」
「え?」
「反乱に重要だから、気持ちを萎えさせるなって、優しいお人だから瀕死の妹の事を知ったら絶対に付きっきりになって困るから、って言われまして……、すいません」
「……」
先々代の村長は私が魔法で戦えなくなると困るから重症の妹の事を黙っていたのか……。
ゾーヤを見ると彼女も酢を飲んだような顔をしていた。
「お姉ちゃんだーれ?」
「アンヤ、ターラーおばちゃんよ、ご挨拶なさい」
「おばちゃん……、まあ、おばちゃんだけど、ターラーよ、アンヤちゃん」
「ア、アンヤです、わあ、魔女なんですね、すごーい」
アンヤはターラーを見て目を丸くしていた。
「ドラゴン! ターラーおばちゃんはドラゴンを倒したんでしょう、お話を聞かせてっ!」
「この外套、ドラゴンの皮で出来てるのよ。倒したドラゴンで作ったの」
「うわあ、すごいすごいっ!」
ジゼルの娘のアンヤに懐かれて、少し嬉しいターラーであった。
その晩はジゼルの家の一室で泊まることにした。
ジゼルは頑張って、沢山のご馳走をターラーに出してくれた。
懐かしい故郷の味を堪能して、気持ちがふっくらとした。
寝室でゾーヤと二人になると、両者とも目を鋭くした。
「私の生家を焼いたのは……」
「まあ、たぶんな、景気づけとあんたを取り込む為だねえ」
夜の底でターラーの殺気がギリギリと膨れ上がった。
「まあ、待っていれば相手から接触してくるだろうよ」
「そうですね……」
騎士団領の夜は暗く深い。
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