第45話 世に住む日々
二回目のワルプルギスの夜市を越えてターラーの旅も五年目に入った。
ガリバタ村でのんびりした後、ゾーヤとターラーは北に向かう。
夏には北に、冬は南に行くのが、この師弟の流儀だ。
大陸の北方を旅して、迷宮に入り、旅費を稼いでリンデン王国に入って南下し、王都に入った。
王都では工房の仕事を三ヶ月して、ポーラの師匠替えの付き添いをした。
ロッカもポーラも嬉しそうで、ターラーも嬉しくなった。
カガン師は王都に十人もの弟子を持って居る火の師匠でわりと良い生活を送っていた。
「こっちとしても秘蔵の『白』だからねえ」
と、言って移転金をつり上げようとしていたが、ロッカの方が上手で相場の金を出して師匠替えをして貰った。
交渉が上手いな、とターラーは、その手腕を覚えたく思った。
道々の師弟になったと言っても、ポーラはまだ十六歳なのでしばらくは王都に住んで、たまに旅に出る感じらしい。
次のワルプルギスの夜市を過ぎたぐらいで、王都半分、旅半分ぐらいで一年を回すと言っていた。
王都を出て、戦場に行くと秋で、三ヶ月戦って、また旅立つ。
新年はガドモシ大聖堂の宿坊で迎えた。
新年のご挨拶をして、食堂で新年のご馳走を食べ、温泉に入りのんびりと過ごした。
六年目は海路で東の諸島を廻り、色々な海の仕事をして暮らす。
真東の港湾都市で船を下り、山々を越えてまた王都へ。
ハンナの結婚式に出たり、ゾーヤの切り子細工が展覧会で賞を取ったりするのを見たりした。
秋からはまた戦場で戦い、運良く魔法でクランクを負傷させる事ができたが、すぐ怪我が治って復帰していたのでがっかりだった。
七年目の新年は王都で迎えた。
アパートに友だちを呼んでパーティをして新年を祝った。
ポーラも年々大きくなり、見目の良い娘さんとなっていた。
初夏にガリバタ村に行き、その地方で魔物退治をしたり、小規模迷宮に行ったりして夏を過ごした。
秋は戦場だ、相変わらずの膠着戦線で、代わりばえはしないが、お金になる。
気を付けるのはクランクが襲来する時ぐらいであった。
冬は南部でのんびりと狩り仕事をしながら年越しをした。
そんなこんなで、早くも次のワルプルギスの夜市の時期が来た。
今回は春、場所は大陸の北部、ヒルトマンの街の近く、ウット山が会場だ。
今回は工房の魔女達は来れなかったが、ポーラがロッカと一緒に夜市へと旅をしてきた。
「ポーラ、旅してきたんだ」
「はい、師匠と一緒にテント泊して旅してきましたよ」
「大変だったでしょう」
「でも、道々ってこういう事なんだなって、師匠と旅をしていろいろ解りましたよ」
ターラー達のテントとポーラ達のテントは隣に設営された。
また沢山の知り合いになった魔女たちと再会し旧交を温めた。
ターラーの三回目のワルプルギスの夜市が始まった。
道々は良いな、とターラーは思った。
旅をしてその日暮らしだけど、気持ちが楽で何者にも囚われない自由さがあった。
皆とエールで乾杯しながら、音楽会を楽しみながら、魔法の研究や指導を行いながら、ターラーは幸せをかみしめていた。
いつまでも、いつまでも、この平穏で楽しい生活が続きますように、と、ターラーは祈っていた。
「さて、では、ターラーの故郷に行こうか」
「え、行くんですか」
「もう故郷を出て十年、どんだけ変わったか見にいくべいよ」
「はあ」
あの因循姑息な騎士団の統治の元だ、故郷がどんな地獄になっているか、ターラーは怖かった。
あまりに酷かったら、そして運動の先生に再会したら、沢山覚えた魔法で故郷を焼き尽くしてしまうかもしれない、とも思った。
夜市の開催地のヒルトマンから、ターラーの故郷の騎士領は山を二つ越えた距離であった。
初夏の街道を歩いて、懐かしい山々の里にターラーは戻って来た。
意外に豊かそうであった。
ガリバタ村とまではいかないが、十年前から比べれば格段に裕福になり、農民達は笑顔だった。
「え、なんで? あの頃は酷い統治だったのに、なんで?」
「ターラーが暴れていた時期だけどよ、べつに騎士団長の悪評とかはなかったぞ」
「え、あいつはすごい重税の年貢を掛けて農民を絞ってたんですよ、そんなそんな」
「ばーろー、重税なんか掛けてねえ、社会運動の活動家に騙されてたんだよ、お前は」
年老いた騎士団長が老馬の上で笑いかけていた。
「ひゃあ、年寄りになりましたね、騎士団長」
「十年ぶりか、ターラー、色々噂は聞いてるぞ、戦場でばちばちやってるってな」
「そ、それより、私の居た頃、凄い重税を掛けたから農民反乱起きてましたよね、ぼっちゃんに怒られて改心したんですか?」
「重税じゃねえよ、飢饉の時の貸し付けた穀物を返還してもらっただけだ」
「は?」
「飢饉の救済穀物だ、あの反乱の前の年は凶作だったろ、王国から救済物資として貸し付けてたんだよ」
「え、だって、重税って……、先生が……」
「農民は借りた穀物なんか返したくねえんだ、だから活動家の言葉にまんまと乗って反乱を起こしたんだよ」
ターラーの目の前は真っ暗になった。
確かに、そう考えたら自然かもしれない。
救済穀物を返還してから、普通に働いたので、この郷はこんなに豊かになったのかもしれない。
じゃあ、私がやった、魔法で焼いた騎士さんたちは?
騎士さんたちに殺された父母は?
「そんな……」
「まあ、信じられないかもしれねえが、故郷を回って聞いてみな。あと、活動家が接触してきたらとっ捕まえてくれ、賞金でるぞ」
「は、はい……」
ゾーヤは何も言わず微笑んでターラーを見ていた。
「師匠は知ってたんですか」
「知ってたよ」
どうしてちゃんと教えてくれなかったんですか、と言いかけてターラーは詰まった。
故郷のこの豊かさを見るまでは、たぶん何を聞いても信じなかっただろう。
とりあえず、故郷の人に聞いてみよう、そう、ターラーは思った。
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