第40話 ポーラちゃんは『白』魔女
ターラーとゾーヤが連れ立ってカンドール工房に行くと、魔導炉の前で小さな子供と若旦那が待っていた。
「ああ、ターラー師おはよう」
「おあよます」
「おはようございます、トーマスさん、ええと、ポーラちゃん?」
「ポーラれす、よろしくターラー師」
ポーラはぺこりと頭を下げた。
本当に小さくて砂糖菓子のように可愛らしい魔女だった。
「朝番大変だったね、もう帰る所かな?」
「帰ってお母さんとご飯を食べて寝ます」
「そうなんだ」
ポーラちゃんが可愛かったのでターラーは無意識でニマニマしてしまった。
ハンナとサリー、あとセンター時間の魔女も出勤して来て、ポーラちゃんを囲んで、みんなでかわいさを堪能していた。
「今度、お姉さん達と一緒に魔導炉の限界記録に挑みましょうよ」
「キロクですかぁ?」
「そうよ、この魔導炉を回して限界温度まで引き出すの」
「わたしぃ、魔導炉をブンブン回すの大好きなので、やりたいですよ」
「うん、一緒にやろうよ。トーマスさん、ポーラちゃんのシフトを変えてセンター時間にしてください」
「うーん、朝もねえ、大事なんだが」
「キロクですよ、キロク」
「記録かあ、ポーラちゃん」
「わたしぃ、キロクに挑みたいですぅ」
「魔女の募集を掛けて新しい魔女が来たら、シフト替えを許可しよう」
「わ、トーマスさん太っ腹」
「記録を作るのは楽しそうね」
「センター七人体制ね、センター席での魔力コントロールが難しそうねえ」
「キロク、がんばりたいですっ」
「うんうん、一緒に記録を作ろうね、ポーラちゃん」
ポーラちゃんは一人で工房を出て行った。
彼女は近くのアパートメントで母親と一緒に暮らしているらしい。
お昼は師匠と一緒に工場の食堂で食べる。
ショートカットで目の細い、黒髪の子がゾーヤと一緒に来ていた。
「ターラー、この子はニノン、五枚刃だよ」
「ちゃーす、ターラー師」
「こ、こんにちはニノン師」
なんだか、ゾーヤとニノンが仲が良いので、ターラーは口を尖らせた。
師匠は気が付いて目を笑わせてターラーの頭をやさしく撫でた。
工場の食堂は値段が安い分、味がまあまあである。
沢山の魔女たちが昼食を取っていた。
「今日、『白』の小さい魔女に会いましたよ」
「おお、そうかい」
「でも、誰のお弟子さんなのかしらね、『白』だと良い師匠についていたのかな?」
「ポーラちゃんだろ、あれは都市魔女のガガン師だな」
ハムサンドをかじりながらニノン師がターラーに答えた。
「指導力が偉いのかしらね」
「至って普通らしい、ポーラちゃんの天分の差だろうね」
「あら、ちゃんとした師匠が付けばもっと伸びそうだけど」
「まだ小さいからなあ、師匠替えは早いかもしれねえ。おかあちゃんもいるらしいしよ」
ゾーヤはスープを飲みながらそう言った。
「師匠替えって?」
「魔女は師匠が気に入らなければ替える権利があんだよ」
「そんな権利が」
「ターラー師、師匠替えしなよ、そうすれば私がゾーヤ師の弟子になれる」
ニノンがニヤッと笑ってそう言うので、ターラーはちょっとムッとした。
「ニノンやめろい、私は同属性の弟子は持たねえし、んで、弟子はターラーで十分だぞ」
「わあ、ありがとうございます師匠」
ターラーは満面の笑顔でゾーヤに言った。
というか、ニノンもゾーヤの弟子になりたいのか、とそう思った。
「主に都市魔女の師匠から、道々の魔女の師匠に替える事がおおいなあ。礼金もちっと要るし、なかなかなあ」
「あと、道々になると、どうしても別の場所に旅にでるんで、専属で雇ってもらえねえし」
「ニノンさんはお師匠さまは?」
「カノンってえ土魔女だ、今は一人で狩りしてんな、半年したら、一緒に旅に出て、廃鉱山とか探検するな」
「廃鉱山に?」
「師匠は鉱物に鼻がきくんでな、掘り出しもんを探すんだよ」
「へー」
なかなか都市魔女も大変なんだな、とターラーは思う。
ポーラちゃんは十歳ぐらいだから、師匠替えとかあるとしたら成人の祭りの歳、十五歳ぐらいか。
――同属性だけど、ロッカ先輩とかポーラちゃんの師匠になったら凄そうなんだけどなあ。
ターラーはそう思って天井を仰いだ。
魔女の師弟はゾーヤとターラーのように運命的にピピピと決まるケースもあれば、何となく師弟になり、なんとなく色々教える関係もある。
人それぞれで色々違うのだ。
お昼を済ませて、ターラーは魔導炉棟へ、ゾーヤとニノンは切り子細工棟へと別れた。
四時頃まで元気に炉を回して、その後、ゾーヤと一緒にアパートメントに帰り、晩飯を作って食べる。
工房は戦場に比べれば単調だが、安全に金を稼ぐ事ができる。
痛し痒しである。
晩ご飯をすませたら、入浴をして就寝である。
今日はヘッダちゃんは夢の中には出てこなかった。
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