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魔女の道々  作者: 川獺右端
第六章 農村ガリバタから二年目
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第37話 工房に行くと大歓迎された

「いやあ、ゾーヤ師、ターラー師、よく帰って来てくれたね、今年もよろしくねっ」


 ゾーヤとターラーがガラス工房『ガンドール』に挨拶にいくと、社長さんが大歓迎してくれた。


「はい、どうも」

「ターラー師が行ってしまってから、バリー親方のぼやくことぼやくこと、ターラー吹きの温度じゃないと思った色が出ないとか言っていてね、これで一安心だ」

「そ、そんなに」

「バリー親方は芸術家肌だからね、ちょっとした事でも手が止まるんだよ」

「そうだったんですか」

「ターラー師が帰ってきて、みんな喜ぶよ、今のセンター時間はハンナとサリーの二人で回しているんだよ」


 今はセンター時間のうちだったので、ターラーは若旦那に連れられて挨拶に行くことにした。

 ドッカンドッカンと炉の轟音がして、焼けてきな臭い匂いが漂う魔導炉棟に久々に足を踏み入れた。


「ターラーさんっ!!」

「お帰りなさいっ!」


 ハンナとサリーがターラーを見つけて駆けよってきた。


「ただいま、みんな変わりはない?」

「無いですよ無いですよ、ターラーさんは少し大きくなりましたね」

「ああ、美味しい物食べたので、太りました」

「そんな、大丈夫ですよっ」


 懐かしいセンター班の魔女達も大歓迎してくれた。


「ターラー師は南の迷宮島に行ってな、ドラゴン退治をしてきたんだぞ」

「え、すごい、本当ですか」

「え、う、うん、迷宮一つ潰しちゃったけどね」

「「「「すごーいっ!!」」」」


 都市魔女さんたちに褒められて、ターラーはにんまりしてしまった。

 そういえば、コロンカン商会の本部にドラゴン外套を取りに行かなければ、そろそろできあがっているよね。

 ターラーはそう思った。


 明日からシフトに入ると約束して、ターラーはゾーヤと一緒に工房を出た。


「師匠の班は変わり無かったですか」

「ああ、かわんねえな、五枚刃の次席の奴が旅から帰ってきてたあなあ」

「おお、五枚刃は凄いですね」


 『風』属性の能力の階層は、『枚刃』であった。

 一枚刃の初心者から、六枚刃の超一流までいる。

 五枚刃の風といえば、一流の魔女である。


「そうだ、コロンカンにドラゴン外套を取りに行きましょうよ」

「これから暑いから、使うのは秋からだけんど、まあ、早い内に手に入れておいた方がええな」


 ゾーヤとターラーは華やかな王都を歩いて、商業地区にあるコロンカン商会の本部を訪れた。


「これはこれは、ゾーヤさま、ターラーさま、いらっしゃいませ」

「ドラゴンの皮で作った外套は届いているかい?」


 ゾーヤが財布から割り符を出して商会員に渡した。


「はい、先月届きましたよ、ドラゴン外套二つですね」


 そう言って、商会員は倉庫からドラゴン外套を出してくれた。

 試着すると、ゾーヤはぴったりだったが、ターラーの分は少々大きかった。


「私のちょっと大きいです」

「ターラーはまだまだ大きくなるからな、大きめに作ってもらったんだ」


 ちょっとぶかぶかだけど、デザインは流行の格好いいやつで、しかも竜の鱗の質感はとんでもなくすばらしくてターラーは何度も襟をなで回した。


「はあ、冬が待ち遠しい」

「風をまったく通さずに保温性もすごいですからね。装甲も鉄の鎧並にありますよ」

「うん、これは一財産だな」


 とはいえ冬までは只の荷物であった。

 しかも竜皮製なので、重くてかさばる。

 良い事ばかりでは無いね、とターラーは思った。


 コロンカン商会の商会員にお礼を言って、ゾーヤとターラーは街にでた。


「今日は外食するか?」

「そうですね、王都の初日ですし」

「おいしいお店を知ってるから奢るヨイヨイヨーイ」


 いつの間にか、後にギャガと調査部の魔女三人がいた。

 四人とも大きな荷物を持っていた。

 コロンカン商会にドラゴン外套を取りにきたようだ。


「あ、あんたたち、いつの間に」

「偶然だヨーイ、……」


 ギャガはターラーの顔をじっと見た。


「幽霊に憑かれているヨーイヨーイ、祓うきゃの?」

「ヘッダちゃんかな? うーん」

「まあ、弱い子供の霊だからそんなに悪さはしねえけどヨーイヨイヨアヨン」


 まあ、別にヘッダちゃんの霊一人ぐらいなら憑いていてもいいけど、なんで殺したゾーヤ師匠に憑かないのか?


「ゾーヤ師は怖いって言ってるヨンヨンヨン」

「なんという根性の無い」

「みんながみんな、大悪霊には成れないヨンヨンヨー」


 せっかくだからと、ギャガのお勧めのお店に行き、食べて飲んで騒いだ。

 美味しくてお酒の美味い店であった。


 調査部はゾーヤ達が農村に行き、戦場に行っている間に中部地方で一仕事した後だと言った。

 富豪の家に嫁いだ魔女が姑と上手く行かず、風魔法で一族を惨殺し、旦那もついでに切り裂き、そのあと自殺した事件の話を聞いて、怖い事があるものだなあと、ターラーは思った。

 だが、調査を進めると、一族の遺産を独り占めにした分家の叔父がどうも臭い。

 色々調べて、魔女をはめて計画的に本家一族を始末したトリックを暴いて、叔父を領主に告発したのだった。


「魔女も事件に巻き込まれるのね」

「世界はずる賢い男どもと、ずる賢い女どもの巣なんだヨイヨイヨイ」


 話を聞くとギャガは霊から聞き取りはできるのだが、推理は手下の眼鏡の魔女がやっているらしい。


「タビサさんは、『推理』属性なの?」

「そんなのありませんよ、ただの『水』です」

「『水』は頭の良い魔女がいるやなあ、師匠もそうだったよ」

「タビサがいなければ、調査部は動かないぐらいだヨーイヨイヨン」


 世界には、いろんな魔女がいるんだなあ、とターラーは思った。

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推理属性とはなんぞ!? ほんとにいたら面白くはあるなあ~。 しかしこの世界の悪党どもは逞しいこってすな。魔女との力の差は歴然なのにナンデ手を出してしまうのか・・・。
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