第37話 工房に行くと大歓迎された
「いやあ、ゾーヤ師、ターラー師、よく帰って来てくれたね、今年もよろしくねっ」
ゾーヤとターラーがガラス工房『ガンドール』に挨拶にいくと、社長さんが大歓迎してくれた。
「はい、どうも」
「ターラー師が行ってしまってから、バリー親方のぼやくことぼやくこと、ターラー吹きの温度じゃないと思った色が出ないとか言っていてね、これで一安心だ」
「そ、そんなに」
「バリー親方は芸術家肌だからね、ちょっとした事でも手が止まるんだよ」
「そうだったんですか」
「ターラー師が帰ってきて、みんな喜ぶよ、今のセンター時間はハンナとサリーの二人で回しているんだよ」
今はセンター時間のうちだったので、ターラーは若旦那に連れられて挨拶に行くことにした。
ドッカンドッカンと炉の轟音がして、焼けてきな臭い匂いが漂う魔導炉棟に久々に足を踏み入れた。
「ターラーさんっ!!」
「お帰りなさいっ!」
ハンナとサリーがターラーを見つけて駆けよってきた。
「ただいま、みんな変わりはない?」
「無いですよ無いですよ、ターラーさんは少し大きくなりましたね」
「ああ、美味しい物食べたので、太りました」
「そんな、大丈夫ですよっ」
懐かしいセンター班の魔女達も大歓迎してくれた。
「ターラー師は南の迷宮島に行ってな、ドラゴン退治をしてきたんだぞ」
「え、すごい、本当ですか」
「え、う、うん、迷宮一つ潰しちゃったけどね」
「「「「すごーいっ!!」」」」
都市魔女さんたちに褒められて、ターラーはにんまりしてしまった。
そういえば、コロンカン商会の本部にドラゴン外套を取りに行かなければ、そろそろできあがっているよね。
ターラーはそう思った。
明日からシフトに入ると約束して、ターラーはゾーヤと一緒に工房を出た。
「師匠の班は変わり無かったですか」
「ああ、かわんねえな、五枚刃の次席の奴が旅から帰ってきてたあなあ」
「おお、五枚刃は凄いですね」
『風』属性の能力の階層は、『枚刃』であった。
一枚刃の初心者から、六枚刃の超一流までいる。
五枚刃の風といえば、一流の魔女である。
「そうだ、コロンカンにドラゴン外套を取りに行きましょうよ」
「これから暑いから、使うのは秋からだけんど、まあ、早い内に手に入れておいた方がええな」
ゾーヤとターラーは華やかな王都を歩いて、商業地区にあるコロンカン商会の本部を訪れた。
「これはこれは、ゾーヤさま、ターラーさま、いらっしゃいませ」
「ドラゴンの皮で作った外套は届いているかい?」
ゾーヤが財布から割り符を出して商会員に渡した。
「はい、先月届きましたよ、ドラゴン外套二つですね」
そう言って、商会員は倉庫からドラゴン外套を出してくれた。
試着すると、ゾーヤはぴったりだったが、ターラーの分は少々大きかった。
「私のちょっと大きいです」
「ターラーはまだまだ大きくなるからな、大きめに作ってもらったんだ」
ちょっとぶかぶかだけど、デザインは流行の格好いいやつで、しかも竜の鱗の質感はとんでもなくすばらしくてターラーは何度も襟をなで回した。
「はあ、冬が待ち遠しい」
「風をまったく通さずに保温性もすごいですからね。装甲も鉄の鎧並にありますよ」
「うん、これは一財産だな」
とはいえ冬までは只の荷物であった。
しかも竜皮製なので、重くてかさばる。
良い事ばかりでは無いね、とターラーは思った。
コロンカン商会の商会員にお礼を言って、ゾーヤとターラーは街にでた。
「今日は外食するか?」
「そうですね、王都の初日ですし」
「おいしいお店を知ってるから奢るヨイヨイヨーイ」
いつの間にか、後にギャガと調査部の魔女三人がいた。
四人とも大きな荷物を持っていた。
コロンカン商会にドラゴン外套を取りにきたようだ。
「あ、あんたたち、いつの間に」
「偶然だヨーイ、……」
ギャガはターラーの顔をじっと見た。
「幽霊に憑かれているヨーイヨーイ、祓うきゃの?」
「ヘッダちゃんかな? うーん」
「まあ、弱い子供の霊だからそんなに悪さはしねえけどヨーイヨイヨアヨン」
まあ、別にヘッダちゃんの霊一人ぐらいなら憑いていてもいいけど、なんで殺したゾーヤ師匠に憑かないのか?
「ゾーヤ師は怖いって言ってるヨンヨンヨン」
「なんという根性の無い」
「みんながみんな、大悪霊には成れないヨンヨンヨー」
せっかくだからと、ギャガのお勧めのお店に行き、食べて飲んで騒いだ。
美味しくてお酒の美味い店であった。
調査部はゾーヤ達が農村に行き、戦場に行っている間に中部地方で一仕事した後だと言った。
富豪の家に嫁いだ魔女が姑と上手く行かず、風魔法で一族を惨殺し、旦那もついでに切り裂き、そのあと自殺した事件の話を聞いて、怖い事があるものだなあと、ターラーは思った。
だが、調査を進めると、一族の遺産を独り占めにした分家の叔父がどうも臭い。
色々調べて、魔女をはめて計画的に本家一族を始末したトリックを暴いて、叔父を領主に告発したのだった。
「魔女も事件に巻き込まれるのね」
「世界はずる賢い男どもと、ずる賢い女どもの巣なんだヨイヨイヨイ」
話を聞くとギャガは霊から聞き取りはできるのだが、推理は手下の眼鏡の魔女がやっているらしい。
「タビサさんは、『推理』属性なの?」
「そんなのありませんよ、ただの『水』です」
「『水』は頭の良い魔女がいるやなあ、師匠もそうだったよ」
「タビサがいなければ、調査部は動かないぐらいだヨーイヨイヨン」
世界には、いろんな魔女がいるんだなあ、とターラーは思った。
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