第36話 戦場を出てカドモシ大聖堂を経由して王都へ
必殺の固形化火炎弾が、クランクに通用しなかったのでターラーは悔しくてしょうがない。
次の日から、四軸ジンバルで飛びながら火魔法をクランクに打ち込んだり、高空から狙撃したりしてみたが、皮鎧で受け止められない魔法は魔剣で斬られて霧散した。
「ああ、あれはなあ、クランクは【魔力感知】持ってるぜ」
「ええっ、じゃあ魔法を当てるの絶望的じゃないですかっ」
「至近距離で切った張ったする属性だからなあ、敵の魔力見て剣術してんだろ」
「げええ」
たしかにクランクの動きをよく観察して見ると、敵の攻撃を予知するように対応していた。
攻撃の起こりを【魔力感知】で察知して戦っているっぽい。
クランクがムキになってゾーヤとターラーを追いかけていたのは一週間ぐらいで、その後は前線を越えてまで攻めては来なかった。
飛行魔法で空中から火魔法をぶっ放すのは味方の勢力圏でないと危なかった。
ランドランド側の火魔女が対空魔法をどかどかと撃ってくるのだ。
戦場の空軍のメインは土属性の箒魔女だが、彼女たちを打ち落とすのに主に『ファイガトリング』を空に向けてぶっぱなし、弾幕を張るのだ。
ターラーの四軸ジンバル魔法も、ゾーヤの竜巻飛行魔法も、箒魔女の飛行よりは速度が遅いので、敵陣上空などを飛んだら良い的である。
とりあえず、クランクとの小競り合いは終わり、ターラーはまた前線の後方で長距離から『ファイグレネード』をぶち込む作業にいそしんだ。
膠着状態に陥ると戦場は単調で暇な現場となる。
長距離魔法撃を撃ち、前に出て来た歩兵を短距離魔法でしとめる。
毎日毎日それを繰り返し、三ヶ月が過ぎる。
またもミリンダさんが引き留めてくるが、傭兵の賃金をたんまり貰い、ゾーヤとターラーは戦場を離れた。
「クランク師が来ないと、戦場って暇ですね」
「まあ、魔女だからな。暇にして金が貰えるのは良いぞ」
「次は王都ですか?」
「そうだな、一度カドモシ大聖堂を経由して行くかい」
「大聖堂、良いですね、ご飯は美味しくて温泉があります」
「じゃあ、行くべい」
カドモシ大聖堂へは徒歩で二日かかった。
ケイロンとローパーと再会し、旧交を温めて、宿坊で一泊した。
王都に向かう道は二回目なのでターラーは意外に短く感じた。
掛かった日数や時間は変わらないのだが、一度通った道なので短く錯覚するようだ。
峠を越え、川を渡り、街道を行く。
一ヶ月ほどすると、遠くに王都の姿が見えてきた。
夏の暑い街道でびっしりと汗をかきながら、ターラーとゾーヤは歩いた。
盛夏に二人は王都の大手門前に着いた。
去年のように堀端の空地にテントを張り、近所の屋台で夕食とエールを手に入れて晩飯とした。
掲示板の所に張り紙があって『行方不明の娘を探しています』という文字が躍っていた。
ターラーはつかえながら文字を読んだ。
似顔絵などを見るに、去年殺した孤児っぽい感じだ。
ゾーヤも張り紙を見た。
「ああ、こいつは騎士領にいたマルタ夫人かあ、なるほどなあ」
「去年殺して堀に投げ込んだ子ですよね、お知り合いでしたか」
「騎士団で噂を聞いたんだよ、ターラーに亭主を焼き殺されたんで、間男と一緒に逃げた夫人だな。そうかいそうか、あの子はマルタ夫人の子供だったのかい」
「間男と王都まで逃げてきたんですか?」
「騎士領は田舎だでな、そんな所で不倫相手と一緒になって遺族年金なんざ貰えるもんじゃあねえのよ」
「あ、なるほど」
孤児の名前はヘッダというらしい。
まあ、名前がわかった所で今は堀の中で腐って消えたろうけど。
「マルタ夫人は愛しいヘッダちゃんを探しているわけですか」
「世話はされてなさそうだったがなあ」
母親が間男と一緒に王都に出て来た、それについて来たが、外苑のスラムに棄てられたかどうかしたのだろう。
なるほど、腑に落ちた。
「マルタ夫人に連絡してあげるんですか?」
「よせやい」
ゾーヤは苦笑した。
自分達が殺しました、とか、正直に言う必要は無い。
他人にナイフを向けるやつは殺されても文句は言えないのだ。
チンピラがやってきて、ゾーヤとターラーの顔を見て慌てて逃げていった。
「師匠を見て逃げて行きましたよ」
「お前さんじゃあ無いかい、去年はずいぶん名を売ったしねえ」
屋台で買った料理をつつきながら、小樽のエールを飲んで二人は陽気に笑った。
その夜、ターラーは夢を見た。
ヘッダちゃんが出て来て、「お母さんが来るよ来るよ」と騒いだ。
ターラーはヘッダちゃんは死んだんだから、冥界かどこかに行くべき、と思った。
あとマルタ夫人が来たら返り討ちである。
身持ちの悪い未亡人がなんぼのもんか、とかターラーは夢の中で、そう思った。
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