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魔女の道々  作者: 川獺右端
第六章 農村ガリバタから二年目
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第35話 再び戦場へ

 道中、魔物退治や盗賊討伐などの荒事の依頼を受けながらゾーヤとターラーの旅は続く。


 そして夏前に、またバンバリン平原にたどり着いた。

 去年と同じようにリンデル王国の陣地に訪れ、同じようにミリンダさんに大歓迎された。


「お二人で、グリーンドラゴンを倒して、迷宮島を滅ぼしたんですって? 凄いですねっ、ドラゴンスレイヤーですねっ」

「いやいや」

「まあ、成り行きだな」


 一年ぶりの戦場だったが、陣地も、食堂の料理も、まったく変わりが無い、ついでに前線も少しも移動していなかった。


 昼頃に陣地に着いたので、また部屋を貰い、荷物を解いていると夕方となっていた。


「おお、ターラー、また来たかよ」

「あ、ロッカ先輩、また来ましたよ」


 食堂で量だけはある大味な夕食を取っていたら、『火』魔女の先輩のロッカが声を掛けてきた。


「状況はどうだい、ロッカ」

「なんもかんも、膠着状態で一年前と全く変わらねえよ」

「そうかいそうかい」

「迷宮島でなんか良い魔法を覚えたんだろ、ターラー」

「ええ、火を物質化するぐらいに固める魔法を死んじゃった魔女さんから教えてもらいましたよ」

「おお、失伝奥義だなあ、あとで教えてくれ」

「良いですよ」


 奥義級の魔法は魔力が沢山必要なので、どうしても『白』以上の魔力量がいる。

 道々の魔法百科事典に登録しておけば、今後の全ての魔女が調べて覚えられるので、早めに登記所に行きたい所だ。

 四軸ジンバル魔法の登記もまだだしね。

 ターラーはそう思った。


 戦場食堂の大飯を食べ、ゾーヤとお風呂に入って清潔なベットで寝た。


 朝起きて、食堂で朝ご飯を食べる。


「今日は固体化火炎がクランク師に通じるか試してみたいのです」

「それはいいな、私も飛行魔法を手に入れたから、逃げるのはまかせておけ」

「迷宮島さまさまですよね」


 食堂では戦友のアランも朝食を取っていて、ターラーを見つけて嬉しそうに小さく手を振っていた。


「アランちゃんおはよう」

「おはよー、ターラーさん、王都でグランプリを取ったガラス像ってターラーさんがモデルでしょう?」

「わ、グランプリ取ったんだ、めでたいなあ、そうだよ」

「ガラス工房は良いですね」

「アランちゃんは、ずっと戦場なの?」

「いえ、半年ぐらいで工業都市で魔導鉄鋼炉を回してますよ」

「おお、鉄鋼炉は凄いね」


 ガラス工房のニュースも知れてターラーは嬉しく思った。

 グランプリを取ったのはすごいなあ、ちょっと恥ずかしいけど。

 などとも思った。


 ターラーはロッカが率いる火の第三部隊に、ゾーヤは風の第二部隊を率いて一緒に出発した。


 一年ぶりの戦場はあいかわらず見渡す限りの茶色の荒野で、空ばかりが青く高い。


「ここの所、クランクは前線で歩兵相手に切り結んでいるわよ」

「それは好都合ですね」


 狙うのは超ロングレンジの狙撃となる。

 『ロングファイ』の火球を固形化するまで圧縮して、それをクランクの頭部目がけて発射するのだ。


「抜けるかい?」

「ドラゴンの頭蓋を撃ち抜けましたから、なんとかなるでしょうよ」

「これでクランクも一巻の終わりになってほしいもんだよ」


 ターラーは勝機を感じていた。

 ドラゴンの頭蓋を吹っ飛ばしたように、クランクの頭蓋も吹き飛ばせる、そう、確信していた。

 なにしろ、固形化魔法なのだ。


 ターラーは杖を構える。

 ゾーヤが風で大気をゆがめて光学望遠魔法を掛けて前線で切り結んでいるクランクを大写しにした。


 ターラーは低く唸るように呪文を唱え、ひとつまみの大きさの火に火を重ね合わせ圧縮させて青い火の弾丸を作っていく。

 魔力を練って練って圧縮させるので、一発撃つだけで大部分の魔力を使用してしまう。


 圧縮が終わった。

 大気レンズの向こうのクランクが動きを止めた。


『ロングファイ』


 ターラーは火炎の弾丸を発射した。

 青い弾丸の火は愚直なほどまっすぐクランクのこめかみを目指して飛ぶ。

 速度も普通の物よりも三倍ぐらい速い。


 クランクがこちらを見た。

 大丈夫だ、もうすぐ着弾する、こちらを向いたので額の真ん中をぶち抜く。


「やった……、え?」


 クランクは剣を振っていた。

 振った剣が火の弾丸を切り裂いていた。

 爆発するように火は体積を取り戻し、青い業火が辺り一面に巻き散らかされ燃え上がった。


「斬った~~!!」


 クランクはマントを体に巻き付けて火炎から脱出し、こちらを向いて、もの凄い笑みを見せた。

 そして、もの凄い速度で走ってくる。


「ターラーかーっ!! すげえ魔法じゃねえかあっ!!」

「ぎゃあ、クランク来来っ!!」

「よし、逃げるぞっ」


 ゾーヤは竜巻の飛行魔法を唱え、ターラーと共に飛んだ。

 たちまちクランクは小さくなった。


「ちっきしょう、帰ってきたなっ、ゾーヤ、ターラー、明日から楽しみだなーっ!!」


 クランクは空にむけて、とても嬉しそうな良い笑顔で、そう言った。


「ひい、なんて規格外の魔女なんですか、あの人は」

「まあ、一人で十年、戦線を維持する魔女だからな」


 二人はクランクに追いつかれないほどの戦場の奧の方で着陸して、陣地に帰った。

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― 新着の感想 ―
ざーんねん、クランク師には通じなかったか。この人以外は大抵殺れそうではあるんだけどねえ。 ターラーちゃんも高みに上りつつあるな。後々まで残る芸術品になるほどにねw ゾーヤ師が生きてる間に孫弟子を見せて…
強っ ヤバっ 怖っ
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