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魔女の道々  作者: 川獺右端
第五章 迷宮島マーヨル
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第27話 『山裾の黄金』は最前線に挑む

 次の日は迷宮深部へ、二泊三日の旅であった。

 一人、頑丈そうな男の子が新しく参加していた。


「ヨーナだ、荷物持ちだ」

「よろしくおねがいいたしやす」


 ヨーナはターラーと同じぐらいの年代で、がっしりとして大柄な少年だった。

 とんでもなく大きいリュックを背負っていた。


「よろしくね、ヨーナ」

「へい、ターラー様」


 六人パーティとなって『山裾の黄金』は迷宮を下って行く。

 薄暗い迷宮だったが、ターラーの『灯火』を掛けて明るく下りて行った。


「やあ、ランタンより明るいですね、すばらしいですよ、ターラー師」

「いえいえ」


 迷宮はどこまでも続く自然洞で薄暗い物陰が多い。

 光度のある灯火が無いと魔物の不意討ちの恐れがあった。

 ターラーの『灯火』は大型ランタンほどの光度があり、複数の灯を出す事ができる。


 道中、遠くから魔物を発見し、ゾーヤの『風の刃』や、ターラーの『ロングファイ』で始末していく。


 倒した魔物は、盗賊のルカスや、荷物持ちのヨーナが解体して、価値のある部分だけを袋に入れて大型リュックに入れていく。


 途中、迷宮内で一泊した。

 ちょうど壁龕のようになった場所があったので、ゾーヤとターラーはテントを張り、男衆は毛布をひいて寝転んだ。

 荷物持ちのヨーナが炭火コンロで火をおこしお茶とスープを入れてくれた。

 パンも少し炙って、ソーセージと卵を焼いた。


 少ししめって妙な匂いのする迷宮の中での食事だったが、なにげに美味しかった。


 見張りは男衆がやってくれた。

 ゾーヤは地雷系の風刃陣を寝床の回りに書いた。

 敵が一歩踏み込めば魔法が起動して、相手をズタズタにしてくれるのだ。


 ゾーヤとターラーはテントの中で寝た。

 特に魔物の襲撃も無く、朝を迎えた。

 とはいえ、地の底の事だから、時計だけが頼りの昼夜であったが。


「最深部にぴゅーっと行けるような仕掛けとか無いんですか?」

「無いなあ、歩いて下りて、歩いて上がるしか無いんだよ」

「今日の昼ぐらいに前線といって、迷宮攻略の最前線に到着するんだよ。そこら辺は魔物が手つかずで、強力な魔物も多い、でもその分、希少素材を入手できて稼げるからね」


 どうやら、迷宮探検の実入りの大部分は、前線で狩る三時間ぐらいに集中するようだ。

 往路の狩りはオマケみたいな物らしい。

 厄介な魔物や凶悪な魔物も多いから注意するように、ターラーはチャプランに言われた。


 寝床を片付けてから『山裾の黄金』は最前線へと到達した。


 魔物の密度が道中とは段違いであった。

 凶悪で大型の魔物が群れをなして襲いかかってくる。

 通路を退却し、魔物を誘い出し、ターラーの火魔法で突破し、ゾーヤの風魔法で殲滅する。

 ルカスとヨーナが手早く魔物を解体し、希少部位を袋詰めにする。


「すばらしい、最前線でこんなに安定するなんて」

「やっぱり、ゾーヤ師は頼りになるし、ターラー師の突破力がすごいや」

「ありがとう、えへへ」

「前衛も強くて戦い易いね」

「おそれいります」


 『山裾の黄金』はみっちり三時間、狩りをした。

 途中、陣形が崩れた他パーティを救出したり、巨大な魔物を倒したりして、三時間はあっという間に過ぎた。

 まだまだ戦おうと思えば継続出来たが、荷物持ちのヨーナのリュックの容量が一杯だった。


『山裾の黄金』は坂を上がり、昨晩止まった壁龕に戻り、晩飯を食べて一休みした。


 ヨーナが荷物の整理をしていた。

 今回はかなりの希少部位が取れたらしい。

 男衆がニマニマしていた。


「この調子で三ヶ月か、応えられねえなあ」

「もっと狩りしてえんだけどなあ、荷物持ちがなあ」

「あまり荷物持ちを沢山連れて移動すると、事故の元だよ」

「それもそうですな」


 ゾーヤとターラーは再びテントを張ると睡眠を取った。

 明日は帰るだけだな、とターラーは思った。

 こんな感じに二泊三日で迷宮の深部に潜る生活なのか。

 なかなか過酷な感じだなとも思った。

 三日も暗い洞窟の中だと気持ちが塞ぐ感じがするのであった。


 それでも帰りは上るのが怠いだけで、魔物は少なく、楽であった。

 三日ぶりにゾーヤとターラーは青空の下に出て深呼吸をした。


「明日は一日休み、明後日からまた潜るぜ」

「解りましたよ」

「晩飯を食べに行こうじゃ無いか、美味しいお店に行くよ」

「ありがとうございますっ」


 ゾーヤとターラーはパーティのお金でたらふく呑み喰いをした。

 そのまま、宿に戻り、二人で最上階の温泉で汗を流した。


「三日居ないのに宿を取っておくのはもったい無いですね」

「まあ、そのたびに宿屋を出ると、次の時面倒だし、部屋が空いてるとは限らないからな」

「迷宮都市はお金が掛かりますね」

「まあ、働く場所によって、金が掛かる部分は違うな。戦場は金が掛からないし儲かるが危ない。王都は仕事が楽できちんとした生活だけど、物価が高い。迷宮は色々と物入りだが、稼ぎもでかい。てえわけよ」

「最前線があれぐらいの場所なら、特に危なげなく稼げそうですね」

「いんや、気をつけねえと、今回の私らの働きで、最前線の位置が深くなったぞ」

「あ、そうですか」

「最前線はどんどん下りて行くからな、あと何年もしたら底の階に着いて迷宮は寿命を迎えるんだ」

「そうなったら、この島はどうなるんですか」

「どうもならん、元の田舎島に戻るだけさあ」


 迷宮は気まぐれに生まれたり、死んだりする。

 洞窟それ自体が大きな魔物の一種で、百年の生涯を過ごすともいわれている。

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