第26話 迷宮の浅層を徘徊する
詳しい契約が終わり、ゾーヤとチャプランは契約書にサインをした。
「ターラーもここにサインだよ」
「あ、はい……」
契約書の文章を読んで見ようと眺めて見たが、難しい単語が並んでいてよく解らなかった。
ゾーヤを信頼して、指定された場所にターラーは名前を書いた。
やっと自分の名前は書けるようにはなっている。
金釘流でガクガクしたサインだが。
「やあ、これで、三ヶ月、僕たちはパーティの仲間となったよ、ターラー師、よろしくね」
「よ、よろしくお願いします……」
やっぱり契約の書類とかはすらすら読んで自分で判断したい物だな、と、ターラーは思った。
今は文字を覚え始めた所で、絵本ぐらいしか読めない。
それでも知らないお話を絵本で読むのはワクワクして楽しい体験だった。
ゾーヤとターラーを混ぜて、五人となった『山裾の黄金』は迷宮に足を踏み入れた。
大きな入場施設があって、切符を買って迷宮に入る。
浅い階でも薄暗く、子供達がスライムなどを狩っていた。
「子供だ、危なく無いのかな」
「危ねえよ、わりと死ぬ、けど、子供でも稼げるからなあ」
ターラーの疑問に盗賊のルカスが答えた。
ルカスはにこやかな小男で、明るいが、どこかひやっとするような冷たさもあった。
「ターラーさんは、灯りの魔法は使えますか?」
『ライト』
杖の前にボッと音を立てて火球が現れた。
割に光量があって、ランタンよりも明るい。
「これは良いなあ、助かります」
「いえいえ」
にっこり笑って言うのは戦士のランドルだった。
イケメンだったが頬に斬り傷があって痛々しい。
大きな丸盾と片手剣を腰に下げていた。
石でできた自然洞をグネグネと曲がりながら地下に潜っていく。
階層が深くなると、魔力も濃くなり、ゴブリンや山犬などの魔物も現れた。
『山裾の黄金』はさすがに一流パーティだけはあって、雑魚モンスターは難なく倒して行く。
倒した魔物から売れる部分を盗賊のルカスが剥ぎ取り、鞄に入れた。
かなり深くまで潜ってきた。
出現する魔物も大きくなってくる。
足が六本あるトカゲのような魔物。
とんでもなく大きなカエル。
溶解液を吐く赤いヘビ。
色々な魔物が物陰から出て来てパーティを襲った。
だが、事前にゾーヤが大気感知の魔法で出現を読んでいたので手こずる事も無く倒していく。
ターラーも『ロングファイ』で狙撃をして魔物を倒す。
小さくて発射速度の高い『ロングファイ』が迷宮では有効と考えての選択だった。
数が多かったら『ファイガトリング』が有効そうだ。
ターラーはゾーヤの戦い方を観察しながら、そう思った。
ゾーヤは見えにくい無色の風の刃を中心にして攻撃していた。
時々『眠りの風』や『煙幕の風』で魔物を弱らせてから、男衆にとどめを頼んだりしていた。
風属性はかなり搦め手の魔法があるのだが、火属性の魔法は基本的にまっすぐ飛ぶ物ばかりで、相手を弱らせたり、動きを止めたりする魔法はあまりなかった。
「いやあ、さすがはゾーヤ師とターラー師だ、こんな能率的に狩れるとは」
「明日からは、もっと深い所が狙えるな」
「まったく助かるよ、ゾーヤ師、ターラー師、ありがとう」
男衆は狩った魔物を解体しながらそう言ってくれた。
ターラーはなんとなく、誇らしくて嬉しい。
沢山の戦利品を持って、『山裾の黄金』は迷宮を登って行く。
「こいつは荷物持ちを雇った方がいいかもなあ」
「まあ、俺達も手伝うしな」
「深い所の換金率の良い部位を狙おうぜ」
五人は迷宮から出て、キリリンの酒場に戻った。
ルカスは市場に戦利品を卸に行った。
「いやあ、本当に凄いですよ、明日からの本狩りが楽しみですぞ」
換金してきたルカスを交えて、五人はエールで乾杯した。
なかなか男衆も親切で頼りになるし、良い感じだな、とターラーは思った。
ルカスとランドルは、ターラーに、これが美味いぞ、これを喰えと、料理を勧めてきた。
男性と飲むのはなかなか心が浮き立つ感じで楽しかった。
「楽しいですね、師匠」
「そうだな、『山裾の黄金』は扱いが良いやな」
「褒められて光栄ですよ、ゾーヤ師」
リーダーのチャプランもニコニコして酒杯を重ねた。
すっかり酔っ払ってゾーヤとターラーは宿に戻った。
すっかり千鳥足なのだが、ゾーヤはたまに手を振って『風の刃』を出して暴漢を牽制した。
「治安悪いですねえ」
「酔っ払いは鴨だからなあ、気を抜いちゃあいけねえよ」
「あい」
二人でふらふらしながら宿へと入った。
ゾーヤはベットで寝てしまったが、ターラーは最上階の温泉でひとっ風呂浴びた。
マーヨル港の繁華街は不夜城のように煌びやかで、遅くまで街の灯は消えなかった。
良い肌触りの温泉に浸かりながら、ターラーは飽きもしないで夜景を見続ける。
「いやあ、ここも天国だなあ」
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