第24話 王都出発、南へ
「もう行ってしまうのか、ターラー師、できれば常駐でずっとここに居て欲しいのだけど」
「いやあ、旅をするのが道々の魔女なんで」
「給料ももっと上げるし、アパートメントも支給してもいいよ」
「良いお話ですけれど、また来年に来ますよ」
若旦那トーマスは惜しい惜しいと言いながらターラーにこれまでの給料を渡した。
契約していたお給金よりも大分金貨の数が多いようだ。
「色々とお世話になったし、ボーナスを付けておいたよ。ハンナ師もサリー師もあなたがいなければ成長しなかったろうし。是非また来年来て欲しい」
「あい、また来ますよ」
ターラーはにっこり笑って工房の事務所を後にした。
外では、ハンナとサリー、そしてセンター班の魔女達が待っていた。
「いっちゃうのね、寂しくなるわ」
「また来年、きっと来てね」
「うん、ありがとう、また必ず来るわよ。今度は魔導炉の最高温度更新に挑みましょうよ」
「そうね、ありがとう、ターラー」
サリーは涙ぐんでいた。
ハンナはふんわりと微笑んで、花束をターラーに渡した。
センター班の魔女達が笑顔で拍手をした。
ボストン親方や、バリー親方、板ガラス工房の親方などもターラーを見送ってくれた。
「また来年な、まってるからよ」
「ガラス細工の腕を磨いているから、また来てくれよ」
「はい、また来年来ますよ、親方たち」
ターラーは工房の敷地から出て、ゾーヤと合流して王都の南門を目指して歩いた。
何度も何度もふり返り、ガラス工房『ガンドール』の姿を目に焼き付けるようにして見た。
凄く良い工場だった。
良いお友達も沢山出来て、楽しかったなあ。
と、ターラーは思った。
胸に小さな空洞ができたように少し寂しい。
「なあに、また来年来ればええさ」
「そうですね、師匠」
二人は王都大手門の軍用のゲートから外に出て、南に向かって歩き始めた。
なんだか旅も久しぶりで、ターラーは忘れていた何かを思い出すような気がした。
王都の南街道を一日行って、宿場街でテント泊をして、次の日から、ゴロント川を川舟で下る。
川舟は馬よりも速いし、座っていられるので快適だった。
船は山々の間を抜けて行き、早瀬や小滝を乗り越していく。
船からの景色はとても綺麗でターラーは満足した。
川宿場のラリンで一泊し、その後は徒歩で街道を延々と歩く。
秋がどんどん深まっていき外気温は下がるが、南下することで温度の低下は和らいでいく。
色々な山、色々な瀬や湖、沢山の綺麗な場所を見てターラーは感動していた。
綺麗な景色は沢山あるんだなあと、嘆息したものである。
街道を行き、次は大河リンツ河を客船で下る。
レストランもある大型船で個室を借りて三日の旅だった。
ちょっとターラーは船酔いで参ってしまったが、それでも船は速い、好晴洋を望む河口の港街テーメスに着いた。
「うわあ、これが海ですかー、変な匂い~~」
「おう、海はこんな感じだ、目指すのは迷宮島マーヨルだ、明日渡し船で渡るぜ」
「海船ですか、楽しみです」
「今日は海産物でも食べて、宿に泊まって休むべい」
ゾーヤとターラーは港街で豪華な海鮮料理をたらふく食べ、エールを飲んで寝た。
宿の清潔なベッドで、ずっと波の打ち寄せる音を聞きながら眠りについた。
翌日、大きな海船に乗り好晴洋を渡って二日、迷宮島マーヨルに着いた。
甲板から見る迷宮島はゴツゴツした青い島だった。
意外と港街は発展していた。
「マーヨル迷宮は三十年前に発見されて、大分探索が進んだ迷宮だ。結構深くまで潜るが、その分獲れるお宝も大きいよ」
「ふわー、迷宮なんて始めてですよ、ずっとあるものじゃないんですね」
「ああ、迷宮には寿命があってな、底まで探し尽くされたら死ぬ。どこかでまた新しい迷宮が生まれる。大体の寿命は百年ぐらいと言われてるな」
「良いですね、なんだかワクワクします。ロマンですね」
「まあなあ、だがまあ、儲かるかどうかは博打みたいな所があんな、面白れえけど、儲からねえ時は儲からねえから覚悟はしとくんだよ」
「あい」
海船は港に接岸した。
降りる客はみなゴロツキのような荒くれ者ばかりだった。
街の治安も悪そうだ。
「泊まりはテント泊ですか?」
「いや、上流の宿屋に泊まるよ」
「お金が掛かるんじゃないですか?」
「ああ、でも、テント泊とか安宿とかだと、かならずゴロツキと揉めたりすっからね。上流の宿の方が結局は安かったりすんのよ」
「ほえー、治安が悪いんですねえ」
「迷宮の街だからな」
そう言ってゾーヤは上級の小綺麗な宿で三ヶ月の前金を払って二人部屋を借りた。
わりと良さそうな部屋であった。
「でも、アパートメントとか借りたら良いんじゃないんですか?」
「ああ、駄目駄目、アパートメントなんざ、盗賊が毎日くるぜ」
「げ」
「ある程度、良い宿じゃねえとな」
これはある程度荒稼ぎしないと、赤字になる職場という事だなあ。
と、ターラーは理解した。
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