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魔女の道々  作者: 川獺右端
第四章 王都のガラス工房
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第21話 『算』の魔女に相談に行く

「遅い、ランチの時間では無くなったよ」

「ごめんなさい師匠、なんかミリア師がヤクザと一緒に恫喝に来てて」

「おお、それは大丈夫だったかい?」


 ターラーは事の顛末をゾーヤに話した。

 ゾーヤはふんふんとうなずいて聞いていた。


「よくやったね、自分では賠償金せしめなかったのかい?」

「あ、まー、その、そんなに困って無いし、追い返したから」

「ターラーは正義感があって良い子だね」


 ターラーはゾーヤに褒められて目を細めて喜んだ。

 頭を優しく撫でられて嬉しい。


「さて、ランチをちゃっちゃと食べて、午後は国立図書館に行くよ」

「え、なんでですか?」

「新しい魔法を『算』の魔女に相談に行くんだよ」

「あ、忘れてた」


 ゾーヤはパスタソースを温め直して、二人でちょっと遅いランチとした。


 二人で連れ立ってアパートメントを出て施錠した。

 ゾーヤは懐から鳩を出して空に飛ばした。


「師匠、あれは?」

「通信用の鳩だな、道々に今回の事を知らせた」

「そこまでの事ですか?」

「魔女は道々でも都市でも、魔女だ、道々には保護する義務があるんだな」


 道々は、なかなか手厚いことだな、とターラーは思った。


 道々というのは、漂泊をする魔女の団体の事だ。

 主にワルプルギスの夜市を主催している。

 この世の魔力を持つ女子の全てを守る存在としていつの間にか出来ていた。

 一説には『星』の魔女ティラーンが大陸の半分を焼いた時に出来たとも言われている。


 ターラーはゾーヤと並んで王都を歩く。

 久しぶりに一緒に出かけるので嬉しい気持ちで一杯だ。


「師匠、私、明日からセンター時間なんですよ、一緒に工房へ行けますね」

「ああ、そりゃあ良いな、やっぱり時間がずれてると色々と面倒だ」


 国立図書館は王都の文教地区の一角にあった。

 歴史ある巨大図書館だった。


 ゾーヤは受付で図書カードを見せ、ターラーの図書カードも作ってやった。


「えへへ、絵本ぐらいしか、まだ読めませんけどね」

「すぐ読めるようになるさ。係員の姉さん、プラント師は今日はいるかい」

「あの人が外に出るのはワルプルギスの夜市の時だけよ」

「そうかいそうかい」


 ゾーヤは案内も待たずに螺旋階段を下って、国立図書館の底まで降りた。

 鏡を使っているのか、外の日光が地の底まで差していて辺りは明るかった。


 沢山の積んである本の山の中にソファーに寝転んだ眼鏡の子供が居て、大きな本を読んでいた。


「ゾーヤ、久しいね」

「夜市で会ったがね」

「そうだったか、そっちはターラーだったね」


 ターラーは目を細めた。

 どこかでこの子供に会っているような気がした。


「あー、カジノにいた、お金をかっぱいでいたっ」

「いえーす、私が『算』の魔女プラントだ。趣味はひよっこの魔女の小遣いをイカサマ博打で巻き上げる事だ」

「イカサマだったんですねっ!! お金返してっ!!」

「かかか、騙される奴が悪いんだよ、で、今日はなんだい?」

「ターラーが魔法の相談があるそうだよ」

「聞こう」


 そう言ってプラントはチリチリと鈴を鳴らした。

 メイドさんが音も無く現れた。


「お茶を三人前」

「かしこまりました」


 メイドさんは頭を下げて出て行った。

 ターラーはゾーヤの隣に座り込んだ。


 図書館の地の底は本がいっぱいでほこり臭かった。


「えーと、火魔法に垂直に上昇する魔法があるんですが、これを斜めに打ち出して移動魔法としたいんですよ。で、問題は着陸の時で上手く速度を落とせなくて危ないんです」

「垂直発射の魔法な、斜め移動に使おうとして年に三人は死人が出てるよ」

「そんなに……」

「火魔法は愚鈍のようにまっすぐだからなあ」


 そう言ってプラントはカリカリと羊皮紙に数式と図を描き始めた。


「そうすると、ベクトルが、うん、杖を逆さにするよりも、そのままで、足を掛けて移動して、うんうんうんうん」


 プラントは新しい羊皮紙に何やら怪しい器具の図を描いた。


「一軸の噴射で落下を制御しようとするから難しい、四軸の噴射口を作ってそれで制御しろ。この図を鍛冶魔女のところに持って行ってアタッチメントを付けて貰え」

「ええと、ええと」


 ターラーには何が何やら解らない。


「椅子は四つの足があるからどっしりしてるな、噴射魔法は足が一本だからぐらぐらする。四つの足を作ってそれを制御すれば安定して着地出来る」

「本当ですか~?」

「作って練習してみろ、結構簡単なはずだ」


 ターラーは図を見るが、なんだかちっとも解らなかった。


「あ、報酬の方は?」

「四軸ジンバルの魔法が上手くいけば、道々の魔法登記簿に共同開発者として、私の名前を併記してくれ、ロイヤリティーは50%だ」

「それだけでいいんですか」

「いいんだよ、考えるのが楽しいんだからさ」

「あ、ありがとうございます、プラント師」


 お礼を言うターラーに、プラントは興味を失ったようにソファーに寝転んで本を読み始めた。


 ターラーは羊皮紙を持って国立図書館を後にした。


「さっそく鍛冶魔女さんの所に行きましょう」

「おう、簡単に済んでよかったな」

「本当に簡単に着地出来るかやってみないと解らないですけどね」

「ちがいない」


 二人は目を合わせて笑った。

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