表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
イヴの子供たち:オリジン  作者: 神海みなも
第2章 癒傷の少女
21/25

21 懐かしい再会

 王宮の城壁に近づくと車輪の音が石畳の上を転がる硬い音に変わった。


 馬車が停止し衛兵が手綱を引く音と馬がブルルと鳴く声が響く。私は馬車の扉を開け、ゆっくりと外に出た。目の前には見上げるほど高い城門がそびえ立っている。


 古びた灰色の石でできた城壁は所々苔が生え、長い年月の経過で風化し所々修復した跡も見える。門の両脇には青と金の旗が垂れ、かすかに風に揺れている。ずいぶんと雨風にさらされたのか旗の端が少しほつれているのが目に入った。


 城門の周囲には小さな花壇が設けられており、赤と白のチューリップが朝露に濡れて鮮やかに咲いている。門の近くには衛兵用の詰め所があり、その窓から衛兵が顔を出したかと思うと私を一瞥してすぐに視線を外した。


 私は深呼吸して城門の前に立つ。足元の石畳は少し凹凸があり、歩くたびに小さな石が音を立てる。リアが私の肩から飛び降り、羽を忙しなく動かし周囲を見回した。


「すごいところね、モニカ。なんか緊張する」


 リアが小さな声で呟き私もそっと頷いた。確かに王宮の雰囲気は独特だ。衛兵たちの視線が鋭く、どこか張り詰めた空気が漂っている。


 けれど今回はちゃんと呼ばれて来たんだから堂々としていればいい……よね? 私は自分に言い聞かせ背筋を伸ばした。


 するとその時、城門の脇から軽快な少女の笑い声が聞こえてきた。私は思わず声の方に目をやる。


 そこにはピンクの髪色した少女が立っていた。ポニーテールにした髪が腰下まで伸びている。彼女は私より少し背が高く、動きやすいチュニックを着ていた。


 チュニックはピンクと白の色合いで、裾に桜の刺繍が施されていている。彼女の手には三十センチほどの木製の杖が握られており、杖の中心に嵌め込まれたルビーが光っている。


 確か高級ブランドか何かの杖だったと思う。桜の木が使われていて一目で分かる特徴的なブランドの装飾が施されていた。


「おっ、やっと会えた! さすがエリーゼ先輩、時間通りに来るなんて偉い! あぁ、コホン。ワタシのこと覚えてる? 先輩が魔法学校で見習いやってた時の後輩。みんなからは『春風のルナ』って呼ばれてるの」


 そう言いながらルナがニヤリと笑い近づいてくる。彼女の声は明るく、どこかからかうような響きがあった。


 魔法学校の後輩? 私は一瞬記憶をたどった。ああ、確かに、魔法学校で実習の時に世話を焼いてくれたピンク髪の後輩がいたっけ。いつも私の魔法の実演を見て、目をキラキラさせながら「先輩、すごい!」って言ってた子だ。


 でも、こんな雰囲気の子だったかな……? 私は少し首をかしげながらルナに声をかけた。


「……ル、ルナ、久しぶりね。でも、あなた、なんか雰囲気変わった?」


 私がそう言うと、ルナは杖をクルッと回してニヤリと笑った。彼女のピンク色の髪が風に揺れ、朝日を受けてまるで桜の花びらのように輝いている。


「ふ~ん、先輩ってば相変わらず真面目だね! まあ、魔法学校じゃまだワタシも子供だったからさ、まあ色々成長したってわけ! でも、先輩は変わんないね。『雷鳴のエリーゼ』って呼ばれてるんだって? 何だかかっこいい響き! さっすがワタシの憧れの先輩!」


 ルナがからかうように言うと、私は少し顔を赤らめた。……憧れって、ちょっと大げさじゃない? リアもルナを見て目を丸くしている。


「ちょっと、あなた誰よ? エリーゼに馴れ馴れしく近づかないでくれる? それにあんた後輩なんだから『先輩』には敬語を使うべきでしょ!」


 リアが小さな身体でルナに近づき、彼女の周りを飛びながら抗議する。ルナはリアを見ると目を細めてふふんと笑った。


「へえ、守護精霊ちゃんだ! かわいいな~! ねえねえ、名前は? ワタシはルナよ。まあ、私のほうが付き合い長いからあなたもワタシの事を『先輩』と呼ぶべきじゃないかしら? 『後輩』ちゃん、ふふ。……まあ、先輩を独り占めするのは難しいかもだけど、仲良くしましょ?」


 ルナがからかうように言うと、リアはムッとして羽をバタバタさせた。……ルナ、結構ずる賢い性格になってる。魔法学校の時はもっと素直だったのに。私は小さくため息をついてルナに尋ねた。


「それで? ルナ、あなたも円卓会議に呼ばれたの? 私の記憶が正しいなら魔法学校にまだ在学中のはずよね? よく参加できたわね」


 私がそう言うと、ルナは胸を張ってニヤリと笑った。彼女のチュニックの桜の刺繍が朝日を受けてキラキラと光る。


「ふっふーん! そこはワタシの頭の良さってやつだよ、先輩! ヤドリ持ちだし、魔法学校の推薦枠で参加資格もらったの。お仕事で活躍すれば単位も貰えるし、面白くない座学ともおさらばできるしで一石二鳥ってやつね! さっすがワタシ、賢い選択したと思わない?」


 ルナが得意げに言うと私は少し呆れた。……確かに『したたか』だわ。単位のために円卓会議に参加するなんて普通は思いつかない。私はやれやれと首を振って話を続けた。


「なるほどね。じゃあ、円卓会議ついても詳しかったりする? 何か知ってたら教えて。例えばユリアンって人とか。どんな人?」


 私が尋ねると、ルナは少し真面目な顔になった。


「『暁のユリアン』で名が通ってる。ユリアン様はね、若いけどめっちゃ頭いい人だよ。金髪で顔も整ってるから女子にすっごく人気があるの! でも、ちょっと冷たい感じがするかな? イヴの再封印のために各国から魔術師を集めてるらしいけど、なんか裏がありそうな雰囲気もするし……。まあ、『優秀な』エリーゼ先輩なら本心を見抜けるよね?」


 ルナがニヤリと笑いながら言うと、私は一瞬イヴの名前で身体が硬直した。イヴの再封印……。私はイヴを再封印するためにここに来た。


 でも、イヴが協力的な態度を見せているのがどうしても引っかかる。絶対何か企んでる。私は心の中でイヴへの敵対心を再確認しルナに答えた。


「イヴのことは信用してない。世界を滅ぼそうとした魔王なんだから、どんな企みがあってもおかしくないわ。ユリアンにも気をつけるつもりよ」


 私がそう言うと、ルナは目を細めてニヤリと笑う。


「さすが先輩、警戒心バッチリだね! でさ、ちょこっとワタシのヤドリ見てみたくない? 先輩のこと、もっと元気にしてあげられるよ? ブルームパルス!」


 ルナがそう言って杖を軽く振った。すると彼女の周囲に淡いピンク色の光が広がり、まるで桜の花びらが舞うようなエフェクトが現れた。光が私の身体に触れると、なんだか気持ちが少し軽くなった気がする。……これは?


「これ、ワタシのヤドリ『ブルームパルス』なの! 感情の高ぶりを伝播させて、味方の能力を一時的にアップさせる力だよ。……どう、先輩。ちょっと元気になった?」


 ルナが満面の笑みを浮かべながらそう言うと私は驚いて彼女を見た。確かに、さっきまでの緊張が少し和らいで心が軽くなった気がする。


「ルナ、すごいじゃない! ありがとう、私なんだか元気が出てきたわ!」


「でしょ? ワタシのヤドリ、結構役に立つんだから! でも、使いすぎると疲れちゃってナイーブになっちゃうの。感情が高まって泣いちゃうこともあるから、そこはちょっと恥ずかしいんだけどね」


 ルナが少し照れ笑いしながら言うと、私は思わず微笑んだ。ルナのトリッキーな性格は気になるけど、このヤドリは確かに頼りになりそう。イヴの企みに対する警戒心は消えないけど、ルナの存在が少しだけ心強いと感じた。


 私達は城門の衛兵に頼んで門を開けてもらうことにした。門が重々しく軋む音を立てて開き、王宮の中庭が姿を現した。中庭には色とりどりの花が咲き乱れ、遠くには大理石の柱が並ぶ回廊が見える。


 ルナが私の腕を軽く引っ張り、からかうような声で言った。


「さあ、行こうエリーゼ先輩! ワタシがいるから円卓会議も怖くないよ! ま、ワタシの単位のためにも頑張ってよね?」


 私はルナの言葉に軽く笑いながら王宮の中へと足を踏み入れた。朝の光が中庭を照らし、花壇の花々が風にそよぐ。王宮の空気が再び緊張感を帯びてきたけれど、ルナのユーモアがそれを和らげてくれる。私は心の中でイヴへの決意を新たにした。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ