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06 理解には程遠くて

「はぁ〜、」


 セリフの確認をするが、昨日の柊弥さんの顔が頭から離れなくてため息が出る。このままじゃ集中出来ないそう思い、頭を振る。そして、台本へと目線を向けた。すると、近くに居たスタッフの会話が耳に入ってきた。


「最近多いですよね?若い女性が殺害される事件。今回は広島だって」

「昨日の朝、発見されたんでしょ?噂によると、全員ロングの黒髪の女性らしいよ。警察は発表してないけど、連続殺人なんじゃない?」

「え〜怖いこと言わないで下さいよーっ」

「大丈夫。お前黒髪じゃねーから」

「噂ですよね?だったら分からないじゃないですか」


 そういえば、柊弥さん広島に一昨日まで行ってたって言ってたな。…あーもう!柊弥さんの事はもう考えるな!


「瀬野ちゃん。ちょっといい?」

「あ、はい」


 台本に目線を戻すと監督に呼ばれ、頭を切り替えて返事をして席を立った。





 撮影が終われば急に事務所に呼ばれ、社長室の扉をノックした。失礼しますと言って入ればすぐに柊弥さんがソファーに座って居るのが見えて、戸惑いながら後ろを振り返り扉を閉めた。

 社長に座ってと言われ返事をして、彼の隣へ間を空けて腰を下ろした。


「昨日、警察から連絡があって話を聞きたいから許可を貰えないかと言われました。どういう事ですか?」


 どう話せばいいか分からず何も言えないでいると、彼が口を開いた。


「この前SNSに上がった動画があったの覚えてる?」

「うん。もちろん」

「あの動画に写っている女の子が一週間前から行方不明らしい」

「え?」

「あの日、最後にあの子と別れたのは俺で。でも、ちゃんと自分の車で送り届けた。だから、そこからは知らない」

「凛は?」

「私は、あの後事務所に台本を取りに行かなきゃいけなくて、その場で別れた。それからは、私からも彼女からも連絡は取ってない。だから、いなくなった理由は知らない」

「そっか。じゃあ、それを話に行こう。今、警察に連絡してもらうから」


 社長はそう言って部屋を出て行った。二人だけになった空間に気まずくて俯いた。


「ごめんっ」

「え?ちょっと、柊弥さん、?」


 突拍子も無く頭を下げて謝った彼に驚いてそう言って固まった。そんな私を知ってか知らずか、彼は顔を上げて私の顔を覗き込んだ。


「許してくれる?」

「え、あ、はい、」

「本当?良かった〜」

「あ、あのっ、」


 昨日の彼の行動や涙の理由が知りたくて、脚を組んで座り直した彼に体を向けながらそう口にした。しかし、部屋に戻って来た社長が扉を開ける音でそれは遮られた。





「んーっ、はぁ〜、」


 明るい時間に警察署に入ったはずなのに、聴取が終わった時にはもう日が沈みかけていた。何時間経ったのだろう。暦の上ではもう秋だからか、昼間とは違って気持ちのいい風が頬を掠める。長時間硬いパイプ椅子に座らされていた私は、欲していたかのように伸びをした。


「お疲れ様。柊弥がまだだから車に乗ってなさい」

「うん」


 こんなに時間が経っているのに、まだ彼は聴取を受けているのかと少し驚いたが、返事をしてすぐに車に乗り込んだ。

 一番後ろの窓際に腰を下ろした私は、靴を脱いで膝を抱えた。そして、さっきの聴取を思い出す。

 柊弥さんが言っていたように、彼女は彼によってあの後自分のマンションまで送ってもらっていたらしい。でも、部屋には帰らずすぐに駅方面へと歩く彼女の姿が防犯カメラに映っていた。しかし、最寄り駅には彼女の姿は一切なくてしかも、それまでの道には防犯カメラが一台も無いらしく、警察は手詰まりになっていると言っていた。

 彼女は途中でタクシーを拾ったのだろうか。いや、それは無い。警察が都内全域のタクシー会社にその日彼女を乗せた車はいないか聞き込みをしたが、一台もいなかったと言っていた。じゃあ、彼女は徒歩で一体どこに行ったのだろう。

 そんな探偵みたいな事を考えていると、車の扉が開いて柊弥さんと社長が乗り込んできた。


「お疲れ様です」

「うん。お疲れ」

「すみません。私が巻き込んでしまったばっかりに、柊弥さんにご迷惑をお掛けしてしまって」

「最終的に彼女と会うって決めたのは俺だから」

「でも、それは、」

「それよりさ、この後ご飯行こうよ。この前の約束覚えてるよね?」

「覚えてますけど、今日は、」


 彼女のことを鬱陶しいとさえ思ってはいたがやはり、行方不明になったと知れば少なからず心配で、。それも、長時間拘束されていたから疲れていてご飯に行く気分ではない。


「なんで?」

「すみません、ちょっと思った以上に疲れてしまって」


 そう言って、真横に座っている彼を見た。

 すぐに心臓が跳ねて、息が止まった。なぜなら、昨日見たあの目の彼がまた居たからだ。泣いてはいないものの目付きは鋭くて苦しそうで、私はその目を離せない。


「凛から送って行くので大丈夫?」


 しかし、社長のその言葉にハッとして、彼から目を逸らした。


「あ、」

「ご飯行くから俺の家で降ろして」

「え?」


 彼を見るともうあの目はしていなくて、腕と脚を組んで身体を椅子に預けていた。そして、私を見て「何食べる?」と嬉しそうな顔をした。

 もう、彼を理解する事は出来ないのかもしれない。

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