表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

コクワガタ

作者: 伊澤 タランドゥス

 コクワガタを三匹飼っていた。夏、アパートに飛んできたものだ。夏が過ぎたら餌は与えなくなったが、現在、2月に至るまでずっと霧吹きだけはし続けていた。虫かごのふたを開け、中を見ることもなく軽く霧吹きで水を吹きかける。コクワガタは越冬することもあるから、まだ生きているかもしれないし、もう死んでいるかもしれなかった。夏が過ぎて、生死を確認することも、霧吹きを止めることも俺にはできなかった。風呂に入る直前、裸でシュッシュッと二回霧吹きをする、そのルーティンだけがずっと俺の中に残っていた。狭い虫かごの中で死なせたことを自覚したくなかったし、あるいは生きているかもしれない虫の世話を放棄することもできなかったのだ。どちらも今の俺には重く、耐えられないような気さえしたのかもしれない。

 さっき風呂から上がり、僅かな上機嫌の間になんとなしに虫かごの中を確認した。ふたを開け中を覗き込んだ時にはいつもの俺に戻っていた。僅かな後悔が俺の中を通り過ぎた。ひっくり返って固まった黒い虫。三匹とも死んでいた。見れば分かる。カラカラになった死骸から察するに随分前に死んだのだろう。もう霧吹きはしなくてよくなった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ