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フラグがおかしいこの世界《ギャルゲー》で、俺はどんな恋をすればいいんだろう?  作者: しょぼん(´・ω・`)
第三章:ヒロイン達も色々おかしい

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第二十三話:か、可愛くなんてないっす!

「か、可愛くなんてないっす!」


 夕焼けに染まる褐色の顔がより赤く色づくやいなや、詩音が慌てて両手を振り強く否定した後。


「僕なんて……か、可愛くなんて、ないっす……」


 恥ずかしさが限界を迎えたのか。囁くようにそう呟き、その場で身を小さくしたまま俯き固まった。


 ……これはこれで可愛い。うん。可愛い。

 間違いなくそう思う。だけど、そんな褒めたい以上に、今の俺にはやらかしたって気持ちが強くなっていた。


 彼女もまた間違いなく好感度が最高。そこに可愛いなんて言えば、こんな反応にもなるだろ。

 俺だって、別に詩音の恋愛感情を刺激したかったわけじゃない。でも結果としてそうしてしまったのは、完全に自分の落ち度だ。


 やっぱ、恋愛経験がない男の浅知恵なんてこんなものか。

 大人な対応かと自信満々だった、さっきの俺を殴ってやりたいぜ……。


 予想外の反応に何も言えなくなっていると、困った様子のまま、頭から湯気が立つ勢いで真っ赤の詩音がちらっと上目遣いにこっちを見てくる。


「可愛くなんて、ないっすよね?」


 ……いや、可愛いだろって。

 僕っ子でサバサバしてるイメージの彼女が、こんなしおらしい態度を見せてくるというギャップ。こんなのを見せられたら、きっと俺の親父だって同じ気持ちになるはずだ。


 自信なさげに、おずおずと小声で問いかけてくる詩音。

 勿論そこは本音で応えてやりたい。だけど、現段階で付き合うとか、それこそ攻略するなんてつもりは毛頭ない。

 ここで変にこっちが恋心を持っているんじゃ? なんて勘繰られるのは悪手。

 だとすれば……。


「いや、可愛いと思うぞ。こんな妹がいるんだから、きっと颯斗も鼻が高いだろ」


 悩んだ末、こっちが恥ずかしがらないよう自然な笑顔を心がけながら、敢えて詩音の兄の名を出し、自然体で返事をしてみた。

 事実は事実として口にしながら、こっちが颯斗同様、兄のような視点で見ているよう演じてみる。

 表向き必死に平常心を貫いているものの、上手くいっているか自信はまったくないけど……これでどうだ?


 内心ひやひやしながらあいつの反応を伺うと、俺の言葉を聞いた詩音がまた俯いてしまう。表情が見えにくいな。答えはどっちだ──ん? なんだ?


 俺の思考がそこで止まったのは、遠くから歓声が聞こえたから。

 思わず顔を上げそっちを見ると、それは間違いなくスタジアムの方から聞こえてくる。


 あれ?

 そういや、寝落ちしている内に夕方になってたけど、今何時だ!?

 慌てて公園内の時計に目をやると、既に午後四時を超えている。


「しまった! 詩音! コンサート!」


 俺が慌てて立ち上がろうとした瞬間、詩音が俺の腕をぐっと掴んだ。


「いいっすよ」


 思わず振り返った俺に、あいつは夕焼けに照らされたまま、じっとこっちを見る。


「なんでだ? 始まったばかりだし、今から行けばまだ間に合うだろ?」

「そうですけど。盛り上がっている中で遅れて入るのは、他のお客さんに申し訳ないっす。それに……」


 ふっと詩音が苦笑いすると。


「今、足が痺れてるんで。動けないっすから」


 そんな正直な感想を口にした。


 そうか。ずっと俺を膝枕してたから……。

 ったく。一体何やってたんだよ。彼女にとって大事なイベントでやらかすなんて。

 詩音だって絶対楽しみにしていただろうに。


「悪い……」


 ぐしゃぐしゃっと頭を掻きむしりながら、俺はぐっと奥歯を噛む。


「先輩。気にしないでくださいよ」

「そうはいかないだろ。お前だって行きたかったんだろ?」

「まあ、楽しみではありましたけど。元々友達が好きなバンドで、僕自身はそこまでファンってわけじゃなかったんで」

「そう言ったって。行きたかったからこそ俺を誘ったんじゃないのか?」


 彼女の計画を無駄にしてしまった後悔に、あいつの顔を見ながらネガティブな言葉を吐いてしまう。


「うーん……」


 そんな俺の態度に、詩音は少し目を空に向け顎に指を当て少し考え込むと。


「行きたかったってより、逢いたかったからっすかね」


 そう言って、気恥ずかしそうにはにかんだ。


 逢いたいから……。

 そこに主語はない。だけど、それはバンドに対して言ったんじゃないのは明らか。断言されたわけじゃないのに、俺はそう感じていた。


 キュンメモで登場機会が一番少ないサブヒロインは、満月にしか逢えないリーゼロッテ。

 詩音は一年目が中学と高校というのもあって、彼女に次いで登場機会が少なかったりする。

 だからこそなのか。スチルイベントじゃない、ゲーム内の会話での何気ない一言にも、この言葉がよく使われる。


  ──「同じ高校ですし、これからは沢山逢えるっすね」


 主人公が高校二年に進学し、詩音が入学してきたことで発生するイベントではこんなことも言うし。


  ──「久々に逢えて嬉しいっす」


 久々のデート時限定ながら、こう口にすることもある。


 逢えるという言葉の端々にあるのは、主人公への恋心。

 それをはっきりと感じながらも、俺はすぐに気が利く言葉を返せなかった。


「でも、流石にもう夕方っすし、今日はこれでお開きっすかね」


 沈黙を嫌ってか。はたまた、余計なことを言ったと後悔したのか。

 少し苦笑いした詩音が、少し残念そうな声をあげる。

 

 ……逢いたいなんて言葉に、絆されたらいけないと思う。

 攻略なんて考えてないなら、尚更余計なことはするべきじゃないと思う。


 だけど、本来のキュンメモでは経験できないこの状況で、ゲームとは思えない、心を持っている彼女を前にして、俺は思ってしまった。

 詩音がデートを無駄にした。そんな後悔だけはさせたくないって。


「悪い。ちょっと電話するな」

「え? はい。いいっす、けど……」


 突然の言葉に戸惑う詩音をそのままに、俺は携帯を取り出し電話帳に登録されているある相手に電話をかけた。

 数回のコールののち、電話が繋がる。


『もしもし。葛城です』


 向こうから届いたのは、聞き覚えのある男の声。

 彼女の兄、颯斗だ。


「颯斗。俺だけど」

「え? 兄貴!?」


 隣から詩音の驚いた声がするけど、俺はそれを無視して電話を続ける。


『おー。翔じゃないか。今のは詩音の声だよな? どうだ? 楽しんでるか?』

「ああ、と言いたいところだけど」

『ん? 何かあったのか?』


 俺の真面目な雰囲気が伝わったのか。颯斗の声が少し低くなる。

 ここから先、うまくいくかはあいつ次第。


「悪いんだけど、お前からご両親に、彼女の帰りが遅くなってもいいか、聞いてもらえないか?」

『は?』

「え?」


 言葉は違えど、綺麗に重なった兄妹の声。

 だけど、俺はそのまま颯斗との会話に集中した。


『どういうことだ?』

「お前、今日の昼頃、ワン吉のことで色々あったのは知ってるか?」

『勿論。で?』

「その関係で詩音との合流がかなり遅くなって、まだそれほど一緒にいられてないんだ。で、折角彼女に遊びに誘ってもらったのに、少し会っただけで帰らせるってのも、何か申し訳なくってさ」


 流石に中学生を遅くまで連れ回すなんて、リアルでも絶対したくない。

 俺だって中身は社会人。道徳的にどれだけ問題があるか理解しているし、相手の親御さんに心配をかける、不誠実な行動なのもわかってるから。


 ただ、それでも俺は意思を曲げなかった。

 ゲームだからってわけじゃない。ただ、詩音のためを思って。


「夕食も一緒に食べるつもりだけど、遅くても九時までには家に帰すし、俺が責任を持って家まで送っていく。だから、何とかご両親を説得してほしいんだ?」


 真剣さを崩さず、そんな無謀なお願いを口にすると、電話越しに聞こえたのは感心したような声だった。


『へー。こりゃ、学校一の美少女と仲良くなれるわけだ』


 ……ん?


「なあ。それって今の話と関係あるのか?」

『大アリだろ。ま、その話は置いといて。妹も喜ぶだろうし、ここは友達としてひと肌脱いでやる。きちっと話はつけておくから任せとけ』

「本当か?」

『ああ。その代わり、ちゃんと詩音を楽しませてやってくれよ』


 上機嫌に話す颯斗。

 ゲームでここまでのイベントはなかったからこそ、うまくいくかはわからなかったけど。流石は妹思いの兄貴。頼りになるな。


「悪い。助かるよ」

『いいって。あと、今度何か奢れよ?』

「わかったよ。折角だし望と三人で何か食べに行こうぜ」

『お、それいいな! 楽しみにしとくぜ。じゃ、妹と仲良くな』

「ああ。それじゃあ」


 ふう……。よかった。

 電話を切り、胸をなでおろしていた俺が詩音を見ると、呆然とこっちを見ていた彼女が、ゆっくりと口を開いた。


「今、兄貴に電話したんすよね?」

「ああ」

「その……もう少し、先輩といても、いいんすか?」

「そういうこと。颯斗がご両親には話しておくって言ってくれてたし、そっちの心配もないさ」


 俺が笑顔でウィンクしてやると、喜びがふつふつと湧き上がってきたのか。詩音の表情が少しずつ嬉しそうなものに変わり、目が少し潤む。

 嬉しい気持ちが勝ってるみたいで良かったけど、流石に泣かれるのは困るな。


「それに、これで足の痺れが落ち着くのを、ゆっくり待てるだろ?」


 冗談交じりにそう言うと、


「……そうっすね」


 目尻の涙を指で拭った彼女が、普段通りの眩しい笑顔を向けてくる。


「頼りがいのある兄貴に、後でお礼を言ってやれよ」

「普段はそんなことないんで。でも、今回だけはそうします」


 ……うん。これでいいよな。

 どこか楽しげにも見える詩音の姿を見て、俺は内心ほっとしたんだ。

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