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カンナカムイの翼  作者: ななじぬぅす
第11章 鳳凰
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第88話 異世界を去る時

 オロチはカンナビの古代人が戦争に使役するために当時の魔法で創造した魔物だった。コシの遺跡に生きたまま封印されていた。人が作った兵器であれば、その管理と万が一の事態への対策も、幸いにして、賢明なるカンナビの古代人は用意してくれていた。


 コシの遺跡から真西に位置する内陸のケツァール遺跡に、鳳凰と呼ばれる伝説の聖獣が、その顕現儀式魔法の秘技と共に封印されている。


 ザンジバル島にあった魔導局の資料がドラゴンの破壊によって失われたため、アカネマルは部下のガブリエルをアレクサンドリアに派遣して、鳳凰を顕現させる方法を調べさせていた。ついでにジギラニラゾの暗殺も指揮させたが彼女はしくじっている。


 海外からの第一便の船荷が運び込まれたのはイズモ神殿裏の敷地だった。そのまま駐屯地になってオロチの監視を続けている。神官の居住地を接収してマムルークとレンジたち一行が詰めていた。イズモ神殿の庫裡に使われていた建物に集まってオロチの対策会議が開かれている。



 ガブリエルが手配した船の、到着するタイミングが絶妙すぎる。彼女はジギラニラゾの反乱軍とアカネマルの運命を天秤にかけて時期を測っていた様子がある。なかなかのもんじゃないの、アカネマルはむしろあっぱれと思い、見直した。しかし今回も詰めが甘い。


 鳳凰の幼鳥は見つけられても、顕現魔法に使う触媒の土偶は見つけられなかった。ケツァール遺跡も調査済みだったが、土偶はすでに持ち去られたか、破壊された後だったと報告にある。


 さらに最新の便りによると、ガブリエルはアレクサンドリアの留置所に収監されていた。なぜか鳳凰の幼鳥はミューズの農学部が管理する地味な動物たちの檻で発見された。彼女は、児童に親しまれていた孔雀を盗んだ鳥泥棒の容疑で、学長のラディン・アイユーブに訴えられていた。もちろん図書館司書も解雇されていた。カンナビでの身分を明かすわけにもいかず、アカネマルの名前をだすわけにもいかず困り果てていると、泣き顔イラスト入りの手紙で嘆願をよこしていた。


 霊能局か調査局の次期局長候補として考えていたが、アカネマルは腹の中でいったん保留の人事評価を下した。


 アカネマルが、最後の切り札と考えていた鳳凰顕現の望みが断たれたことを発表し終わると、一同から落胆のため息が漏れ、レンジはまずい予感に戦慄した。この手の予感には昔から馴染みがあった。悪事やいたずらがばれる直前のあの感覚だ。遺跡、幼鳥、土偶ときたらさすがに思い当たる。


 不意に、尻をはたかれた。チンチラがレンジの背後四十五度の死角からなにかを訴えかけている。


「チンチラや」レンジは周りのみんなに聞こえないようにそっと声をかける。「どうやら俺は異世界を去る時がきたようだ」


「そのようだね」チンチラが答えてその気配が消えた。


 ゾーイはまだなにも思い出していない様子だった。ギンは、頭を抱えていた。レンジはそっと後ずさりして、この場を離れようとすると、

「レンジ、待ちなさい」とアカネマルがその鋭い瞳を向けてきた。


 この人は逃さない、こういうことは絶対に逃さない。


「話は終わってないわよ」じっと睨まれている。

「あんた、なんか知ってんの」


 レンジは不審な挙動で目線を走らせた。チンチラはすでに全員の死角に入って姿が見えない。助けを求めてギンを見ると口の動きで、だめだ、無理だ、と伝えてくる。アカネマルに目を戻すと、こっちへ来い、と手振りで呼ばれている。


 レンジが恐る恐る彼女に近づいていくと、ゾーイが「あっ」と声をあげて、

「幼鳥ってツクネかな」と思い出してしまった。


 レンジは全てを白状させられることになった。



「それで、土偶はどこよ」


 アカネマルの威圧による恐怖でしどろもどろになりながら、レンジは説明した。


「土偶様ね、部屋に飾ってたんだ、そしたらさ、夜になると目開けるんだよあの土偶様。それで怖いから壁の方向かせといたら、朝起きるとこっち向いてるんだよ、ほんとに、何回やってもだよ。それで袋かぶせて置いといたら、今度はいつの間にか枕元に立ってるんだよ」


 さっきから船便で届いた木箱の中が騒がしい。ばたばたと中でなにか生き物が動いているようだ。みんなが不審がっている。あの木箱の中身はツクネに決まっている。レンジの声に反応して騒いでいるに違いない。


「それでゾーイにお祓いしてもらったんだけど効かなくて、夜ずっとごとごと動いてるし、夢のなかにまででてくるようになってもう不気味で。それで土偶様はアレクサンドリアの骨董市で売っちゃったんだ。売りました、それっきりですね」


「くっそぉ!」おそらくツクネが入っているであろう木箱を蹴りあげてアカネマルは叫んだ。「あと一歩でカンナビをかっさらえたのに!」


 自らの野望を隠そうともしない。薄々みんな気づいてはいたにしても。


 なんだかんだで戦闘では目覚ましい働きをしたレンジに対する敬意は失われ、マムルークたちのため息や舌打ちと共に非難の視線が集中した。


「だから言ったじゃねぇか、ああいう遺跡にあるものは下手に動かしちゃだめなんだよ、遺跡荒らしかおまえは」ギンとは、もはや怒られる以外の会話がない。


「あんたって子はなんであっちこっちで余計なことするのよ、あたしの仕事どれだけ増やしたか知ってる? ブサイクだったら殺してるわよ。あぁもううるさい!」


 アカネマルはばたばたと音をたてて揺れる木箱を怒りに任せてまた蹴ると「これもう開けて」と手近な兵士に命じた。


 あんまりみんなに責められてレンジは逆上した。


「あぁ、わかったよ悪かったよ! 土偶の野郎を探してくればいいんだろ、行ってやろうじゃないか、おにぎりだ! おにぎりをもってこい!」


「土偶があっても顕現儀式の魔法も解読しないとわからないし、わたしもツクネ食べようとしたから」ゾーイがレンジを慰める。「ね、おにぎりはいまないよ」


「みんなしてあんなに言うことないじゃないか」レンジは半泣きでゾーイに訴えた。


「ゾーイ、レンジを甘やかすな」ギンが言う。「こいつにはそろそろ深刻な回心が必要だ」


「爆弾公爵」


 レンジはギンに渾名をつけた。


「なんだとこのやろう!」


 ぷはっ! っとゾーイは笑いをおさええられなかったが、なんとか二人を仲裁した。


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