第80話 天守閣の魔人
ランボーとパトラッシュは本丸宮殿の天守閣に呼びだされた。宮殿からは貴重な文化財や装飾品がすでに持ち去られていて、上階へあがるほど閑散の様子だった。
三の丸は壊滅し、ダルエスサラームの全兵力と住民は二の丸から海にかけて押し込められている。カンナビ連邦政府は、ジギラニラゾと反乱軍に、軍事的にも政治的にも完全な敗北を喫した。条約の調印にあたって儀式張ったことは省かれて、双方の次官級が事務的に処理をおこなうのみだった。
「団長、いい話なわけないぜ」
天守への階段を登りながらパトラッシュがぼやいた。
「わかってる」
いつもどおりランボーは飄々としているが、まずいことが起こりそうな予感はあった。
アカネマルはカンナビ伝統の死装束をベースにした、白を基調の衣装にきめていた。髪は純白に染めなおされている。いつも以上の邪悪な笑みを浮かべて、特大の鉞を背負ったその姿は陽気な死神にしか見えない。不穏で不吉でまずい予感はいや増した。
例によって何の前置きもなく命令を下してきた。
「カンナビ正規軍の指揮権を与える。アムリタの搬入を確認したら、反乱軍と現行政府の首長と閣僚全員を拘束、生死は問わない」
ランボーの予感はもちろん的中した。
「ショコラを救出、抵抗勢力と自警団はまとめて焼き殺しなさい。遺体は二の丸の堀に捨てて目撃者は残さないように」
パトラッシュは、この人は天守閣に住み着いた魔人か邪神のたぐいだと半ば本気で思った。
「終わったら、二の丸の門からイズモ神殿まで、オロチの導線上の暴徒を武力で鎮圧して排除しなさい。あたしはカラマーゾフ倶楽部を制圧して、イズモ神殿の境内からオロチとの決戦を指揮する」
アカネマルは勝負にでる、マムルークの二人は分岐に立った。命令を断れば殺される、クーデターに加担すれば彼女と共に新しい人生を歩むことになる。
「総統は?」ランボーが聞いた。
「レンジが斬ったわ」
事態はもう動いていた。レンジの抜け駆けは二人の背中を押すことになった。




