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第76話 虐殺
三の丸街区の人々が場違いな酒の香りを仄かに感じ始めた頃、惨劇は突然始まった。街区を巡る水路の水が勢いよく逆巻いて、濡れた体表を黒々と光らせたオロチが次々に侵入を始めた。八匹のオロチは無差別に住民を喰らい殺戮した。
建築物はオロチの武器で叩き壊されて、炙り出された住民は喰われるか、振りまわされる武器に潰されるか、神経毒で即死していく。
元々起きていた暴動と脱出騒ぎに混乱していた街はなすすべもない。広大な三の丸のすべての街区は阿鼻叫喚の無法地帯と化した。住民は逃げ惑い互いに殺し合いながら二の丸城壁へ押し寄せた。
慌てたカンナビ連邦政府はオロチの退治を条件に、反乱軍の要求を無条件で回答期限も待たずに受諾した。ガスコインはあえなく失脚した。
軍は三の丸を放棄して二の丸に籠城した。水門を閉めて、オロチの巨体が侵入できる大きさの水路や門は土砂で埋める措置がとられた。その頃には、人的な被害は街の総人口の半数を超えた。半ば死体で埋まった堀に二の丸の外壁の上から土砂が放り込まれた。作業に動員された兵と住民たちの沈痛と涙は尽きなかった。




