第72話 食べて寝て遊んでたまに戦争
石造の橋の上にさらに橋を渡して二段組になっている。カンナビの伝統様式は南のジャングルから切りだされた木材を主に使うことが多い。流通と経済が発展してからは遠方の大理石を使う様式も発展していた。レンジは二重橋の上段を途中まで歩いて、橋の途中に設置された石の腰掛けに座っている。
橋の下に目をおろすと、土台に白い柱だけが何本も立っている、建設途中の神殿が見える。暴徒なのか自警団なのか見分けもつかない連中が怒声をあげながら走りまわっていた。ところどころ火の手があがっている旧市街から煙が流れてきていて視界が悪い。
手拭いを綺麗にたたみ直して膝に置いて、長い影を引く宮殿の尖塔を眺めた。
あの人は現世の大人とは違うんだよ。だから、あんな感じの大人になりたいと思って、手拭いをおそろいにすることから始めたのに、バカなこと言ってまた怒らせてしまった。
しばらくへこんでいると、橋の欄干の上を危なげなく歩いてチンチラが姿をあらわした。遊んでいるように見えて、探しにきてくれたのがわかる。欄干から石の腰掛けに音もなく飛び移って立つと、レンジの横で踊りのステップを踏んだ。
「なぁ、ギン博士まだ怒ってる?」
チンチラは笑ってレンジの横顔を尻尾ではたいた。
「俺、やっぱりどっかに放り出されちゃうかな?」
「大丈夫、レンジのいたいところにいられるよ」
本丸区域に連なる宮殿を囲む旧市街は、白壁に薄い赤の屋根の街区と、緑の屋根の街区に分けられている。何時の日差しを照り返しても心地よい趣があったのに、発煙筒と火事の煙でだいなしだった。折々の花を咲かせていた軒先の鉢植えや花壇も仕舞われていて残念。
連なる屋根の景色から思い出した。昔、幼稚園を脱走して隣の集合住宅の屋上で警察に保護されたことがある、その頃から、
「どこいっても、馴染めないなぁ」
レンジはつぶやいて、深くため息をついた。
チンチラは石の腰掛けから欄干に飛びうつってふり返る。煙にネコマタが踊る朧な影が揺れた。
「食べて寝て遊んでたまに戦争、それ以外にやることある?」首をかしげて聞いてきた。
あるようなないような、そもそも俺はなにをしているんだ。
「あると思うなら、少し休んだほうがいいよ、どっか悪いんだよ」
チンチラは足場が細くて高いところに必ず登りたがる。それからしばらく不思議なリズムと歩幅でステップを踏みながら欄干を行ったり来たりした。
チンチラの気がすんで、「帰るよ」とふり向くとレンジがいない。
「あれ、どこいった」
煙に巻かれてレンジの姿が見えなくなった。
マムルークの溜まり場にチンチラが駆け込んできた。
「ボクが踊ってるあいだにレンジがいなくなっちゃったよぅ!」
アーチ橋方面を探しにいったゾーイはもう戻っていた。
ランボーとパトラッシュがレンジを探す協力を申し出ると、
「だめだ」ギンは言下に断りを入れる。
「マムルークが動けば、それを口実に兵舎が囲まれて火が放たれる。ガスコインの謀略に嵌まるわけにはいかない」
ギンはゾーイとチンチラに武装してついてくるように指示した。




