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カンナカムイの翼  作者: ななじぬぅす
第8章 蛇のカルマ
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第64話 邪眼

 ダルエスサラームは本格的な籠城戦に突入した。全ての経済活動と人流は停止するか政府の統制を受けた。本丸の宮殿には本営が設置されて対策が練られているはずだが、いまのところ指針はなにも示されていない。


 街の外に残された兵士たちを全滅させたオロチが、巨大な城塞の主門に当たる西門の前で蠢いている。とぐろを巻いている個体、威嚇の唸り声をあげる個体、なんのつもりか外壁に巨体を打ちつけて猛っている個体もいる。壁の中に人の気配を感じている様子だった。


 一日中不気味な徘徊を続ける怪物にダルエスサラーム住民の恐怖は募った。力なく事態の推移をうかがう人々。目を血走らせて自らの恐怖を払うように怒声をあげる人々は混乱に拍車をかけている。民衆はなにもわからないまま予測や噂ばかり口にしていた。デモ隊の人数が増えていき、巡回する兵士たちの殺伐とした怒声が響きわたる。


 不満を募らせる民衆の、アカネマルに期待を寄せる声も多かったが、この混乱の渦中彼女は表向き沈黙を維持していた。水面下の手配が多忙を極めていたからだ。


 ガスコインはリーダーシップを喪失している。平和時に陰湿な人間関係の茶番を繰り返しそれを仕事と称してきただけの男が戦時に耐えうるはずもない。閣僚と小役人達はそれぞれの権益のために勝手に動き回り、その失跡や自殺が相次いだ。


 レンジたちは引き続きマムルークの幹部たちと同じ、二の丸区域にある高級軍人用の兵舎を利用させてもらっている。アカネマルに通じているギンのおかげだった。レンジたちだけならそんな厚遇は受けられない。


 再三の訴えもむなしく退けられて、相変わらず外出を制限されているレンジのやることは、ゾーイかチンチラと一緒に海辺に出かけてショコラの手伝いをするか、外壁に設置された櫓からオロチを見物することぐらいだった。


 石造のアーチ橋は二ノ丸外壁の門から三ノ丸市街を貫いて西の外壁まで繋がっている。街区を北と南に分ける、とんでもなく長く大きい石造の橋は二層に作られていて、上の層はいま軍属にのみ通行が許可されていた。


 街区への一人での外出が禁じられているレンジだが、この道なら一人ではなく、マムルークか正規兵の顔見知りと歩いているということになるだろう、と勝手に解釈してほとんど日課になっているオロチ見物に出かけていく。


 眼下の広大な街並みにはデモ隊や整列している兵士の姿が目についた。運河の船のほとんどは係留されていて動く様子もない。


 街の外に広がるサバンナには、大河を挟んで整然と陣形を整えた反乱軍が幾重にも連なっていた。オロチ八匹を使役して完璧な包囲を形成している。オロチがいる限りこれ以上の野戦も攻城戦も起こり得ない。すでに人間同士の戦は終わっている。反乱軍の陣営に緊張感は見てとれない。



 またあいつだ。


 オロチのなかの一匹、一際大きく黒々とした個体がじっとレンジを見上げている。決して視線をそらさなかった。櫓にくるとなぜかいつもそいつはレンジを見つけて、その暗い目を不気味に向けてきた。


 気持ちが悪い、それでも目を逸らすことができない。


 オロチの魔法に貫かれたときに感受したのは重苦しい怒りと見境のない暗い衝動。それはオロチの心だったのか、現世に置いてきたつもりの自分の心だったのか、いまはもうわからない。


 危険な兆候は自覚していた。この気分と衝動には馴染みが深い。昨夜久しぶりに夢を見た。よくは思い出せなかったが現世の夢だった。


 悪夢だった。目を覚ました時のあの体の重さ、暗い渦巻銀河の奈落に落ちていく、内側に潰れていくような苦しさ。


 オロチの目線を意識からはずすことができない、あの赤い光にまた貫かれたい。呼吸が浅くなって汗が止まらない。


 あの神経毒魔法の赤い閃光は現世のどんな薬よりも効いた。その目線でまた俺の頭蓋を震撼させろ。


 引かれる意識と反駁する意識が交差する。全身の神経が悲鳴をあげていた。


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