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カンナカムイの翼  作者: ななじぬぅす
第7章 ダルエスサラーム
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第60話 まむし女

 元々はザンジバル島の議事堂にあったカンナビ連邦最高評議会は、臨時にダルエスサラームに置かれていた。


 本丸区域にある宮殿は、この地域伝統の美意識の粋と贅を凝らした、街で最も古い時代の建築様式を残している。連邦に属する部族、王国、共和国の元首クラスから選出された閣僚たちが集結していた。


 いよいよ本格的な戦争が始まると、連日の会議はようやく緊張感を増して新たな議題を取りあげることになった。



 帝政時代の貴族様式は採光が少なくて、アカネマルの気に入らなかったが、メイクでも隠しきれない軽蔑の表情を狸どもにさとられにくいところが妥協点か。


「総統、ご無事でなによりです」


 会議が始まってから口火を切るのはいつもアカネマルだった。居並ぶ為政者たちは、最初になにかを言ったり行なったりすることはない。それが責任を回避することを至上とする連中の骨の髄まで染みついた渡世の作法だった。


 かつての謁見の間に置かれた広いテーブル中央に座るキンミヤ・ガスコイン総統は機嫌が悪い。反乱軍の包囲を破って入城したアカネマルの民衆人気はガスコインを霞ませている。


 反乱軍の要求がどんなものであれ、まず第一に現総統の地位は失われる。ガスコインは他人に注目されないことをなによりも嫌う、屈辱の青春時代を思い出すからだ。


 なにをやっても一番にはなれなかった。教室の隅で、組織の隅で縮こまりながら、いつも華やかに毎日を謳歌する連中の失敗を願って生きてきた。


 あの頃の惨めに戻るのは耐えられない。いま、ようやく上り詰めたこの地位を失うことは恐怖だった。


「あのマムルークたちは? 数が多い、大丈夫なのか?」


 労いの言葉もなくさっそく牽制してきた。嫌われたもんだわ。


 結果的に、マムルークの過半をオアシスに残してきて正解だった。この男の病的な猜疑心をかわすことができる。いよいよ確かに政敵に認定されている。元々公然ではあったが、閣僚たちの前でも不仲を取り繕わなくなっている。


「メンフィスの好意で、訓練課程を終えたマムルーク全員を借り受けることができました。私が統帥する契約になっています。元々カンナビ正規軍の数が限られましたので助かりました」


 ガスコインが、アカネマルにつける兵力を渋ったことへの嫌味も忘れない。


「オロチの退治で随分と犠牲が多かったし、結局のところ反乱軍に街の包囲を完成させてしまった。鎮西作戦は失敗だ」


「はい、もうしわけありません」


 凡庸でわかりやすい男ではある。敵と味方を分けたら、ガスコインはもう二度とアカネマルの実績を認めたり褒めたりすることはない、人前では特に。あらゆる難癖をつけて貶める。


 秘書官から、現段階でわかっている反乱軍の動静とカンナビ現有戦力の発表が行われた。


 人気の回復を急いてガスコインは反乱軍の討伐に積極的だった。自ら指揮するつもりでいる。


 反乱軍とはいえ、カンナビ連邦最大の貿易都市の破壊が目的ではない。政治的な要求をしてくるはずで、その前に撃って出るのは事態の収拾を遠ざける。まずは反乱軍に内偵を入れて内情と要求を探ってから交渉に持ち込むべきだと誰もが考えていたが、会議はガスコインの保身に向けて早期決戦の案に進み、誰もそれをさまたげなかった。


「マムルークにも戦力を提供させる」


 ガスコインはまるですでに決まっている事柄のようにさりげなく切りだした。自分にその権限があるかのように。


 アカネマルは間髪入れず返答する。


「自らの武力で国難を切り抜けられなかった場合、メンフィスをはじめミスライム連合王国の干渉を招きます。マムルークの恒久的な駐屯や不利な安全保障条約を求められる可能性が考えられます」


 メンフィスのマムルークは、アッティラ家の出資も受けながら莫大な時間と金をかけて養った、事実上アカネマルの私兵だった。


 子飼の武力をガスコインに貸す気はない。根回し済みの閣僚達から、正規軍で討たなければ、とアカネマルに寄せた意見がでる。


 蝮女。ガスコインはますます険悪の表情を浮かべる。


 アカネマルの謀略では、反乱軍との戦闘は最終的に痛み分けを想定している。そうすればマムルークを擁する自分がカンナビで無双の軍事力を保持することになる、そのために万全の布石を打ってきた。


 アカネマルはガスコインにだけわかるように、その赤紫の唇から侮蔑の印象を送り続ける。


 この玉なしは、すでにやることが決まっている事柄に恐れをなして行為を先延ばしにしている。やることが決まっているならあとは、一秒でも早く上手くどうやるか、だけなのに。


 会議が長引くにつれて、アカネマルは、政敵が臆病と無能を晒すことの有利よりも嫌悪感が際立ってきて、吐き気がしてきた。

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