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カンナカムイの翼  作者: ななじぬぅす
第6章 大蛇
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第55話 凪

 西日に長い影を引きながら、軍隊は順次アルーシャの街へ移動する。街に入らないと負傷者がもたない。


 神経毒魔法にやられた兵士たちは無残だった。まだ息のある兵も、脳を焼かれて自分で動くこともできず言葉も喋れない廃人になってしまった。長くは生きられそうにない。


 パトラッシュと一緒に退却の殿を務めて戻ってきたゾーイに、ギンは声をかける。


「ゾーイ、チンチラは?」


「手裏剣探しにいったよ」と答えながらゾーイはレンジを見ている。


 そういえばこの娘はいつもレンジを見ているな、と思いながら彼女の目線の先に目を向ける。


 レンジはマムルーク達と談笑しているところだった。ランボーと一緒に上半身裸になってオロチの返り血を洗っている。



 レンジは自由に使っていいと渡された水の入った皮袋を受け取って存分に飲んだ。美味い。


 ランボーがオロチの体液でぱりぱりになったレンジの短髪を後ろに立って洗いながら、先の戦いを褒めてくれた。


 戦場の後処理に駆けまわるマムルーク達とも声を掛け合って健闘を讃えあう。


「オロチが振り回してたあの巨大な武器とかなんなんだよ?」


 レンジは近づいてきたギンに聞いた。


「製法が失われているから高く売れるぞ。大体が古代由来の系統不明で強烈な魔法とか呪いがかかってることが多いから、下手に扱うと発狂したり、子々孫々まで病気に罹って不幸になったり、あっさり死んだりするけどな」


「こわ~」


 ランボーが「魔導士か霊能士の鑑定が済んでからじゃないと危なくて扱えないよ」とレンジの頭に水をかけながら言った。


「チンチラにも伝えとかないと、きっと触っちゃうよ」ゾーイがみんなに声を掛ける。


 レンジが短髪をかきまわして跳ねた水はオレンジの夕日に燦爛とした。



 チンチラとゾーイは、アカネマルの計らいでアルーシャの街の宿に泊まることができた。レンジとギンはオーパーツを積んだ荷物の手配に深夜まで駆け回ってから、マムルークの幹部たちと一緒のテントに眠った。翌朝早くにダルエスサラームへ向けて進軍が開始された。


 とくになにか話があったわけではないのに、成り行きからアカネマルの軍隊に同行している。文句ひとつ言わずに粛々と隊列を組んで進む軍人さんたちの手前、レンジは弱音を吐くこともできず、眠気と戦いながら馬の背に揺られていた。


 いつのまにか真横に馬を並べてきたアカネマルが、レンジの肩に無言でげんこつを繰り出した。


「いて……」


 前をいく馬上のゾーイに顎をしゃくって言った。


「見てあのケツ、食べたいわ」


 馬の歩調に合わせて、ゾーイの肢体が揺れていた。


「あんた前にいって乳も見てきなさいよ」


「……」


「揺れてるわよ、ぽよん」


 両手で自分の胸をあげながら、楽しくてしょうがないという風にレンジをからかった。この人は立場上きっと一睡もしていないだろうに、なんでこんなに元気なのだろう。


 チンチラが横に並んで「ねえ、なに話してるの?」と笑顔で聞いてくる。


「なんでもな……」


 話題を遮ろうとするレンジにアカネマルが言葉をかぶせる。


「レンジがゾーイのお尻食べたいって」


 チンチラが目と耳を吊り上げてレンジを睨む。


「レンジ! 君ほんとにそればっかりだよ最近、じろじろじろじろいやらしい破廉恥将軍」


 後ろで騒ぐ三人に気がついたゾーイが、どうしたの? と言いながらいつもの屈託のない笑顔を向ける。


 チンチラが「ゾーイ聞いて! レンジがねぇ」とさっそく馬を寄せていく。


「ゾーイ! おしりおしり、触らせて」とアカネマルが後を追う。


 レンジも追ってゾーイに弁解しようと思ったが、もう遅い。ゾーイを挟んでチンチラとアカネマルが楽しそうにニヤニヤしながらレンジを振り返る。なにを話しているのかは想像がつく。ゾーイはきっと顔を赤くして困っている。きまりわるい。


 ゾーイをからかって楽しんだあと、アカネマルとチンチラの二人はなにか真剣な表情でお互いの上腕を見せ合っている。この二人は片時も落ちつくことがない。


 ゾーイが馬の歩みをゆるめてレンジの横に並ぶ。わずかな上目遣いで、困ったような咎めるような満更でもないように見えなくもない表情を浮かべて笑いかけてくる。最近彼女はますます艶かしく見える、意識しすぎかな、言い訳する気もなくなった。よく見ていたのは間違いないし。


 ゾーイといると強烈に欲望を刺激されることがある、胸が高鳴ってうまく喋れなくなるぐらい。また時に、なにを話すわけでもなく、ただ一緒に時間を過ごしているだけで穏やかになることもある。こんな風に二人並んで近くにいるときは心に平和が訪れる。すごい力だと思う、不思議な力。


 ゾーイはレンジの心がめずらしく凪いでいるのを感じる。遠慮がちに気を遣いながら肌に送られてくる目線は不快ではなかった。彼の腕に触れてみる。会った頃よりも随分たくましくなって好ましかった。


 レンジが腕を撫でるゾーイの手を握ろうとためらってから、自分の手綱に手を戻す。彼の照れた顔を見てゾーイは嬉しくなった。ゾーイはレンジの腕にその細く白く長い指を這わせて、彼の手を握って微笑んだ。


 若い二人を後ろで馬を並べるギンとランボーが眺めている。絵になる二人だと思いながら。


「いいな」ランボーがつぶやく。

「あぁ、いい」ギンが相槌をうった。


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