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EP237 新たな拠点 <キャラ立ち絵あり>


「ほんの一部にはなりますが、以上が世界の歴史。その黎明期に当たる時期です。

 人種・民族・宗教・思想・身分・・・対立は長く、激しく、幅広く発展しました。

 その果てに大小500を超える国が生まれ、この小さな大地にて、今も戦い続けています。」


 女王が語ったのは、あまりにも愚かな物語。

 1000年前の些細な仲違いから始まった、疑心暗鬼と憎悪。人々を取り巻く負の感情は、輪廻を描きながら時代を創った。


 それこそが、千年戦争。

 未だ見ぬ"夜明け"を目指す、命の叫びだった――。


「1000年も・・・そんな事を!?」


 にわかには信じられなかった。

 彼女が語ったのは、世界の黎明期の出来事だけ。

 だが、その後も戦乱が途切れる事無く続いたのは、容易に察せられた。


「はい・・・なんとも、お恥ずかしい話です。」


「どうして、戦争は終わらないんですか?

 そんなに戦ってるなら、いつかは安定するんじゃ・・・。」


「いずれかの国が隆盛を極めた時、ソレを打ち砕くほどの力・・・俗に言う"無双級能力を持つ転生者"が、必ず現れるのです。

 その者が就いた国は、圧倒的な武力で他国を虐げる。すると、ソレを制する転生者が再び現れ・・・と言う具合に、この世界の歴史は続いて来ました。」


「なるほど・・・。」


 英雄は、戦いを勝利に導く。

 だが、戦時中の両国に英雄が居たのなら、戦いはズルズルと続く一方だ。


「転生者の力は圧倒的で、昔は彼らの力だけで、国の盛衰が決まったようです。

 しかし今では、その転生者を打ち負かすほどの力を持った者たちが、原住民からも現れ始めました。」


「それは凄いですね・・・どんな訓練を?」


 征夜は純粋に、一人の戦士として知りたかった。

 強大な力を持つ転生者を破るほどの実力、その出どころは何なのか。気になって仕方がないのだ。


「ある国の王は、神々に自国の娘を差し出して子を設けました。

 別の国の王は、魔族を優遇する法律を作り・・・強力な戦士を作ったのです。」


「たとえば?」


「えっ・・・えっと・・・。」


 言葉を濁した女王であったが、征夜は更に踏み込む。

 しかしすぐに、聞いた事を後悔するような回答が返ってきた。


「強姦を合法化したり・・・とか。」


「うわぁ・・・。」


 聞いた方も、聞かれた方も、気まずい空気になった。

 魔族と人間のハーフは、それだけで強力な戦士になる。"半人半魔の友人(セレアティナ)"など、その最たる例だ。


 確かに混血を進めるなら、それが最も手っ取り早い。

 ただ、そこに当事者たちの納得が有ったかは、別の問題だろう――。


「勿論、苦渋の決断だったと思います。

 ですが、そうでなければ死んでしまう。私たちの世界は常に、そんな痛みを背負って来ました。」


「マジで終わってますね・・・。」


 普段は丁寧な征夜の言葉遣いが、思わず俗っぽくなるほど、この世界の状況は酷かった。


 征夜には、戦争が分からない。

 実際に経験した事は当然無いし、授業で習った事もアヤフヤで、殆ど覚えていないのだ。


 だが、女王の言葉は一言一句に至るまで、彼の心に深く染み込んで来る――。


(人間って、追い詰められるとここまで・・・。)


 "温室育ち"の征夜は、前世で苦労を知らなかった。

 それは彼だけに限らず、小中高を共にした仲間たちも、大抵が親の七光りに守られた存在だった事に起因している。


 だが彼はこの一年で、"極限状態の人間"の恐ろしさを学んだ。

 剣士としての修羅場をくぐる度に、人間がいかに冷酷で、いかに弱いか知ったつもりだった。


(これが・・・戦争なのか・・・。)


 しかし今となっては、それすらも氷山の一角に過ぎないと理解した。

 人間の悍ましき本性は不滅であり、一皮剥けば生存本能に赴くままに暴れる、獣に過ぎないのだ。

 

「あの・・・大丈夫ですか?」


「あっ、すいません続けて下さい。」


 深すぎる感慨に浸り、自分の世界にのめり込んでいた征夜を、女王は現実に引き戻した。

 そして彼女は、暗い影に覆われた顔を更に曇らせながら、重々しい調子で"本題"に入る。


「群雄割拠の国々が、しのぎを削り合って泥沼に足を突っ込む。そんな戦いが700年続きました。

 しかし今から300年前、突如として"時代が変わった"そうです。」


「時代が・・・変わった?」


「栄枯盛衰を繰り返して、一向に終わらない戦乱。

 そんなイタチごっこが、ついに終わりを告げたのです。」


 ゴクッと唾を飲む音が、女王の首から鳴った。

 並々ならぬ雰囲気と共に語り出す彼女の姿を見て、征夜の心も一層引き締まる。


「天界の武神ですら太刀打ち出来ず、幾多の転生者を一刀の下に斬り伏せた猛者・・・いえ、"怪物"が現れたのです。」


「まさか・・・それが()()・・・。」


 天界の女神から、"覇王"と呼ばれる男の存在は聞いていた。そして、それが今回の目標であり、倒すべき敵だとも知っている。

 だが、詳しい事は何も知らない。名前も、素性も、年齢に至っても、女神からは何も聞かされていないのだ。


(この人・・・震えてる・・・。)


 女王の凛々しい顔が引き攣ったのを、征夜は悟った。

 美しく光る白い肌に汗を滴らせ、カタカタと震えながら目を泳がせる彼女は、まるで別人のように弱々しく見える。




「彼の名は・・・神宮殿(しんぐうでん) 雁月(がんげつ)。」




 一瞬、時が止まったかのような錯覚と共に、征夜の思考は停滞した。


(な、名前の・・・迫力が・・・。)


 "覇気"としか言いようのない何かが、征夜の精神を攻撃した。

 たかが名前一つを聞いただけなのに、まるで"何百年も前から知っている"ような感覚と緊張感が、全身を駆け巡るのだ。


「イカつい・・・名前ですね・・・。」


「私も、出来れば口にしたくないです・・・。」


 最初の1文字は“神”、その時点で凄まじいインパクトのある名前。

 そして、それに連なるように、一定のテンポで繰り出される4つの濁音。


(これまでの相手とは・・・格が違う・・・。)


 征夜の脳裏によぎる、強烈な幻影。

 仁王のように屈強な男が、遥かな高みより見下ろして、刀を振りかぶっている。

 身に纏う袴には血の匂いが染み付いて、殺気を滾らせる瞳は、その眼光だけで命を刈り取る。


 気を抜けば魂を抜かれる。

 征夜はそんな威圧感を、既に感じ始めていた――。


「"覇王・神宮殿(しんぐうでん) 雁月(がんげつ)"は自身と同じ名の城、"神宮殿"に巣食う怪物。

 300年前より、怨念と執念だけで生き長らえ、罪無き人々の魂を喰らって生きる。・・・と言われています。」


「・・・言われている?」


「その姿を見た者は、誰一人生き残れない。だから、詳細は何も分からないのです。」


「・・・なるほど。」


 単純明快かつ、説得力に溢れた理由。征夜は容易く納得させられた。


「彼は常に神宮殿・・・紛らわしいので、我々は"鬼岩城(きがんじょう)"と読んでいますが、そこに篭っています。

 鬼岩城と城下町は、彼が持つ"強大な神通力"と妾の悪魔が持つ魔力で作られた巨大な障壁に守られており、攻めるのは不可能です。」


「鬼岩城・・・。」


 名前の響きがトゲトゲしく、心に深く突き刺さる威圧感と圧迫感を征夜は覚えた。


「そして、彼が目指すは・・・"天下統一"。」


「おぉ・・・。」


 ありふれているが、壮大な野望だ。

 "覇王"と呼ばれるからには、それなりの夢が有って当然。その点で言えば、至極真っ当な野望とも言える。


「天下統一されれば、戦争は終わると思いますが・・・ダメですよね?」


「はい・・・ソレが平和な物であると、私には思えないのです・・・。」


 女王も征夜も、同じ意見だった。

 戦争は終わってほしいが、覇王の風評を聞く限り「彼を勝たせてはいけない。」と思えてしまう。


 そもそも、この世界に住む多様な人々を一つの国で纏めるなど、現実的ではない。

 どこかで軋轢が生まれてしまい、更なる混乱が広がる結果は目に見えている。


「・・・以上で、一通りの説明を終えました。何か質問はありますか?」


「えぇと・・・この場所の詳細と、あなたの素性について聞いても良いでしょうか?」


「あっ、申し遅れました。私の名前はルーネルフィア、ルーネと呼ばれています。」


挿絵(By みてみん)


 ルーネは慌てて笑みを作り、深々と頭を下げた。

 見ず知らずの客人に対して傲らず、真摯な対応をする様子は、彼女が賢君であると物語っている。


「この地はかつて、敗走したオーバーロード人の女性が、谷の奥で築いた国。私は、その血を引く者です。」


(なるほど、妙に一人だけ良く伝わってたのは、そういう事か。)


 彼女が語る物語には、オーバーロード人に贔屓目な要素が多かった。

 それも、彼女の祖先が当事者であると考えれば、不思議ではない事だ。


 話が本当に歪曲されていたかは別として、彼女に落ち度がある訳ではない。

 恐らく、先祖代々に伝わる話として、悪気無く語っているだけだろう。


「我が国の目的は、1000年前より同じ。世界から戦乱を除き、光ある未来へ導く事。

 その為に各地で起こる紛争へ介入して、民間人の保護や当事国の仲裁などを行なっています。

 時には、弱小国を守る為に兵を出したり、危険な国家の監視をしたりなど、戦争を未然に防ぐ活動もしています。」


「凄いですね!」

(この国は余裕が有るんだな。)


 口では大袈裟に称賛する征夜だが、心の底では少し冷めた反応をしていた。

 それもその筈、彼は前回の旅の途中で「権力者は信用出来ない」と、思い知ったからだ。


(この人は信頼して良いのか?そもそも、この人も騙されてるんじゃ・・・?)


 疑心が疑心を呼び、信じる事が億劫になった征夜。

 "天界の民"に対する落胆は、彼の心に暗い影を落としていた――。


「この国は戦争をしないんですか?」


「はい。知っての通り我が国は、霧に隠されています。

 1000年前に私の先祖が張った結界が今でも機能し、招かれざる者は霧を抜けられない。そのように、外敵の侵略を防いで来ました。」


(自分たちは侵略しないって事か。・・・取り敢えず、ここに居れば花は安全だ。なら、拠点にして良いかな。)


 正直、完全に信頼した訳ではない。

 だが、最低限の安心感は有るうえに、表向きは善良な国家だ。暫くの間は滞在して、様子を伺ってみようと征夜は思った。


「僕の名前は吹雪征夜。女神の命を受けて覇王を倒す為に、この世界に来ました。

 右も左も分からない新参者ですが・・・もし良ければ、この国に助力させて下さい・・・!」


「まぁ!女神様の遣いの方でしたか!

 こちらこそ、よろしくお願いしますね。勇者様・・・!」


 ルーネと征夜は互いに頭を下げ、力強く握手した――。

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