EP243 無双級能力
「た〜すけてくれ〜!!!アーニキーッ!!!」
「なんでお前を助けにゃならん!」
「ひでぇよ兄貴!大切な舎弟の頼みだろぉッ!」
「くそっ、かったりぃな!」
捕まったユリエラーは、半笑いのまま魔族の集団に拘束されていた。
後ろ手を縛られたまま助けを求める彼だが、そこに危機感は無い。シンの方も、余裕綽々といった調子だ。
(うわっ!懐いなこの感じ!)
舎弟が人質にされ、兄貴分が出張る。
これはシンたち賦遊理威のメンバーにとっては、ごく当たり前な光景。
あまりにも慣れ過ぎた危機的状況に対し、互いに感覚が麻痺してるのだ。
しかし、当の本人たちは飄々とした調子で振る舞っているものの、見ている者たちは大慌てである。
「大丈夫ですか江螺斗さん!?」
「なんて卑劣な事を!騎士として許せない!」
「ユリエラーがんばぇ〜!一応お墓作っとくね〜。」
「うぅ・・・鼻が・・・痛い・・・。」
いや、よく見れば意外と慌てていない。
"リリー"と"アンネ"だけは真っ当に心配しているが、蜜音は既に墓標を立て始め、イーサンに至っては自身の鼻頭を押さえて半泣きになっている。
そんな中、アメリアは敵に槍を向け、勇ましく睨み付けていた。
「アンタが魔界の傭兵・・・!」
「・・・そうだが、お前は誰だ。」
魔界の部隊を率いるのは、若い魔族の傭兵。
長い黒髪を風に靡かせながら、軽やかな甲冑を身に纏う彼の背は陽光に照らされ、かなりハンサムに見える。
大方、この世界の人間に雇われて、手下と共に暴れるように命じられたのだろう。
その雇い主は誰なのか。それを知る為にも、打ち負かして尋問する必要がある。
「トリトネンシア王国陸軍・独立治安維持部特務科・Rebelion wolf隊・アメリア班部隊長・宙道アメリア大佐だ!」
この世界に、名刺という文化があれば良かったのに。そう思わせられるほど、彼女の肩書きは長かった。
「ちげぇよ!シン班だ!班長は俺!」
「あ"ぁ"ッ!?この部隊の副隊長は私!だから私の班でしょ!」
「俺が班分けを提案した!お前はオマケだ!」
「なんですって!?」
魔界の傭兵と、彼が率いる大勢の部下を前にして、シンとアメリアはいがみ合いを始めた。
「お、おい・・・俺の話は・・・。」
「うるさいッ!蜜音!アイツら黙らせて!」
「あいよぉッ!」
<突撃じゃぁ"ッ!マグロ軍艦ッ!!!>
それは、何とも形容し難い光景だった。
蜜音の背が七色の後光に包まれたかと思えば、光の奥から大量の"寿司"が現れたのだ。
そのネタは当然ながら――。
「はいやぁッ!マグロ軍艦千貫お待ちィ!イイイヤッハアァァァーーーッ!!!!!」
フワフワと宙を漂う大量の寿司。
マグロ軍艦の大群は陣形を組み、名乗りを上げた。威勢の良い咆哮を上げ、即座に"敵の口"へと特攻していく。
「うぉっ!?なんじゃこりゃ!?・・・うぉぶっ!?」
突如として現れた寿司の大群に襲われ、戦闘は一瞬で終わった――。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
「マグロって美味しいねぇ!」
「いでぇよぉッ!なんで食うんだよぉッ!!!」
「君たちは既に、マグロではなく寿司なのだ!黙って食べられなさい!」
「ちくしょぉ〜ッ!」
攻撃に使われたマグロ軍艦の末路は、2つに1つ。
敵の口に飛び込んで、そのまま食われる。敵に当たらずに済んだ場合は皿に盛り付けられ、部隊の昼食になる。
「アンネ様、このスシという料理、とても美味しいですね・・・♪」
「まさか、生魚がこんなに美味しいとは!意外な発見ね!」
「食うなぁ〜!いでぇ"よぉ"〜!!!」
「申し訳ありませんスシ様。ちゃんと味わって食べますので・・・!」
聖女と騎士は向かい合い、マグロを食べている。
断末魔を上げる寿司に懺悔しながらも、中々に良い食いっぷりだ。
もはや誰も、"寿司が喋っている事"を気にしていない――。
「・・・食べる?」
「は?・・・い、要らないぞ!生魚なんて食えるか!」
「そう言わずにさぁ!」
「お、おいやめろ!ぶむぅ"っ!?・・・うまっ!なんだこれ!」
蜜音によって、寿司を口に押し込まれた魔界の雑兵。
その反応を見るに、日本国が世界に誇る文化は魔界にも通じるようだ。
「じゃんじゃん食べちゃおう!あと950貫あるからね!・・・責任を持って食うのだぞ!?君たちが悪いんだからな!」
「ひぃ〜・・・!」
蜜音は怯える魔族の口に寿司を突っ込んだ。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
見渡す限り、全ての魔族が捕縛されていた。
女も男も口に寿司を押し込まれ、呪文の詠唱も出来ない。息も苦しいが、窒息はしない。そんなギリギリの状態で戦えば、たとえ人間が相手でも遅れを取る。
幸いにも、両陣営共に死者はいない。
ただ捕縛され、繋ぎ止められている魔族と、優雅に昼食を摂る人間だけ。
そんな現状を見て、シンはご満悦だ。
「・・・蜜音が鬼つえぇ!!!このまま逆らう奴ら全員ブッ殺しに行こうぜッ!!!」
「残念だけど、それは無理よ。」
「は?なんでだよ?」
異様にハイテンションなシンに、間髪入れず水を差すアメリア。
「あの子の能力には弱点がある。」
「と言うと?」
蜜音の能力について、彼は何も知らない。
ただ一つ分かるのは、彼女の能力が人智を超えた物である事。つまり、"何も分からない"。
「よく見なさいよ。やられた連中を。」
アメリアは呆れたような調子で、シンに辺りを見渡すように促す。だが、拘束された魔族に特異な点は見当たらず、特殊な傷跡なども無い。
「・・・何も無いぞ?」
「そういう事よ。」
「は?どういう事だよ。」
「あの子には、"二つの能力"がある。
一つ目は"大地を操る力"。コレもそこそこ強いけど、普通の能力よ。」
字面だけなら凄そうだが、それは至って普通の能力。
女神に頼めば付けて貰えるし、属性魔法でも再現できる。
問題は、"二つ目の能力"である――。
「二つ目は?」
「・・・"無双級能力・ギャグ補正"。」
「ギャグ補正?なんだそりゃ!そんな能力あんのか!?」
ニワカには信じられない能力。
世界広しと言えども、こんな能力が存在するとは、想像もしていなかった。
「言ったでしょ?コレは無双級能力。平たく言えば"チート能力"よ。
あの子の周りでは、常に信じられないような事が起こる。それは彼女が意図的に起こしたり、自然と発生する事だったり、色々とね。」
「ふむふむ。」
「異世界にAmaz◯nが来たら面白い。
投げ付けた柿が喋ったら面白い。
寿司が襲い掛かって来たら面白い。
"彼女がそう思う可能性が少しでもある"なら、その想像は"現実"になる。」
「すげぇなッ!」
発動条件の緩さと、不釣り合いに強烈な効果。
今回は寿司が襲って来るだけで済んだが、彼女の想像力が続く限り、その効果は天井知らずだ。
「ここからが本題。ギャグ補正はね、威力は凄いの。
建物だろうが何だろうが、その気になれば簡単に壊せる。それこそ、チョップで世界を割く事も出来る。」
「ア◯レちゃんかよ・・・。」
世界を割くほどの攻撃が、簡単に繰り出せる。
それだけ聞くと、欠点など何も無いように思える。ルーネが彼女を"最強の戦士"と言った理由も、今ならよく分かる。
「でも、所詮はギャグ。ギャグ補正を使った攻撃をする限り、"生命に対するダメージは殆ど無い"。
せいぜい、タンコブが漫画みたいに大きくなったり、爆発で髪がアフロになる。相手を殺すなんて論外よ。」
「なるほど!ギャグだしな!」
ギャグ漫画で、人は死なない。
一部例外はあるものの、大抵の作品はそうだ。
人を傷つけて笑いを取るのにも、限度がある。
蜜音がそれを面白いと思わない限りは、決して相手を傷つける事はない。
「たとえ世界を破壊したとしても、今度はギャグ補正で元に戻る。
宇宙に放り出された人たちは、何の影響も無く戻って来られるわ。」
「平和過ぎだろッ!」
ギャグ漫画であれば、物を激しく壊しても次回には直っている。
たとえ怪我をした人がいても、次回では何事もなく過ごしている。
例外はあるものの、それが"お約束"なのだ。
彼女の能力も、ギャグの名を冠するにあたって、その鉄則には準じている――。
「あの子、チャランポランだけど根は良い子よ。
"友達も仲間も敵も、みんな笑っててほしい。"そう思うような子だから、この能力が付いたんでしょうね。」
「なるほどなぁ・・・それじゃ、仕事するか!」
パァンッ!
「え?」
アメリアは、何が起こったのか全く分からなかった。
大切な仲間の能力と性格を、新参の男にそれとなく紹介する。そうする事で、今後の活動が円滑に進むと思った。
だが、シンは適当な相槌を打っただけで終わり。
反応の淡白さにも驚いたが、それを上回る衝撃が鼓膜を通じて突き抜ける――。
「うぐあ"ぁ"ぁ"ッ!!!!!」
「・・・え?」
足元に捕らえていた"魔族の傭兵部隊長"が、突如として絶叫する。
勢いよく噴き出した血飛沫がアメリアの顔にまで跳び散り、彼女の白い頬を染める。
視線を上げると、シンは"拳銃"を握っていた。
カランと音を立てて吐き出された薬莢が足元に転がり、硝煙を吐く銃口は青年の腿に向けられていた。
「拷問は俺がやるぜ。」
先ほどとは打って変わり、感情を見せない無機質な声だった。
突如として"冷淡"な思考に変わったシンは、青年に向けて再び撃鉄を引いた――。
(解説)
*無双級能力
・俗に言うチート能力。
・女神に頼んで付けてもらえる能力の限界を超えた才能を持っている。
・保有者が出現する確率は非常に低いが、生まれつき持っている者もいる。




