アジト
あれから、一旦ダンテ達のアジトへ移動した。
町外れの廃れた屋敷がアジトらしい。
そこで、見たのは酷いものだった。
中高生ぐらいの奴が一番下っ端かと思ったら、まだ十代にもならない子供もいた。
その子らの服装もボロボロ。頬はコケて明らかに栄養が足りていない。
それなりに歳のいった女達が、ここで子供達を見ているらしい。
それでも手が足りないんだろう。小さい子が小さい子をおんぶして面倒を見ている。
3歳ほどの子が、皿を洗っている。
手は荒れ、血が出でいる。
──こんな小さい子まで……!
涙が出そうなのをグッと堪え、馬車の中から食料をありったけ渡す。
カナリヤはその光景に涙している。
サラは怪我をしている子の手当をし始めた。
「なんだって、こんなに子供が多いんだ?」
「全員親に捨てられたり、親が殺されたりして孤児になっちまった奴だ」
「孤児院はどうした?」
「孤児院にも限界があんだよ。ここら辺には一つしかねぇから」
なるほど、孤児院にも入れない子達をここに連れてきてたのか。
それにしたって環境が悪すぎる。
子供を引き取ってるのは立派な事だが、環境面を考えてないのは褒められたことじゃない。
「エリオ、兄様に伝達を頼めるかい?」
「なんですか?」
「ああ、至急食料と衣服、それに屋敷の者数人をここに寄越してもらうよう頼んできてくれ」
「……理由を聞かれたら?」
「理由は後回し!後でいくらでも兄様に怒られる覚悟は出来てるから」
3時間でも4時間でも説教されるよ!
それよりも今はすぐにでも、ここの改善をする事の方が大事だ!
「分かりましたよ。行ってきます」
そう言うと、エリオはその場から出て行った。
なんだかんだ言って、頼りになる。
エリオが出て行った方を見ていると、スカートをクイクイと引っ張られる感覚があった。
「ん?」
「お姉ちゃんはお姫様なの?」
そこには小さな女の子が立っていた。
3、4歳ぐらいか?
「こら!リリ!汚い手でお嬢様の服を触るんじゃない!」
ダンテが慌てて止めにはいるが、そんな気にするもんじゃない。
「いいよ。リリってのかい?どうしたんだい?」
「お姉ちゃんはお腹すいてないの?リリのあげる?」
そう言って、先程配ったパンを差し出してきた。
こんな小さいのに、他人を思いやれるなんて偉いね。
「私はお腹すいてないからリリがお食べ。まだあるからね」
「分かった!」
頭を撫でながら答えると、ニコッとしてからみんなの元へ走っていった。
──可愛いねぇ。
「お嬢様、ありがとうございます」
「おいおい、そのお嬢様ってのやめてくんないかい?」
お嬢様って言われる度に、むず痒くなる。
慣れていないんだよ。
「じゃあ、お嬢でいいか?」
「えっ……?」
懐かしい響に思わず思考が停止した。
「ダメだったか?」
「イヤ、それでいい……」
まさか、またそう呼ばれるとは思っていなかった。
だけど、また呼ばれるのも悪くない。
「そうか!それじゃ、今更だけど自己紹介するわ。俺はダンテ、ここを取り仕切ってるもんだ。そんで、こいつがマウロ。俺の補佐をやってくれてる」
隣にいた奴の肩を組みながら言った。
ああ、ダンテを庇った奴か。
「マウロです。お嬢、これから宜しく頼みます」
「ああ、私はミレーナ・セルヴィロ。一応侯爵家の令嬢だ」
「お嬢、侯爵家の人間だったんですか!?」
「見えねぇ~!」
失礼な奴らだねぇ。
黙ってればちゃんと令嬢に見えるだろうが。
「後の奴らは、おいおい聞いてくよ。中々の大所帯だからね。全員覚えられるか不安だが」
「あははははは!俺もたまに間違えるから気にするな!」
「ダンテはたまにではないでしょう?」
「そんなことないぞ!!」
ダンテとマウロがジャレ始めた。
──これは、楽しくなりそうだ。