とある一日
「ところで、あんたは何でまだいるんだい?」
「え?」
目の前でお茶を飲んでいる、エリオに問いかけた。
あの事件以降、エリオとサラには素で話せるようになった。
二人とも事情を深く聞かずに受け入れてくれた。
素で話せる仲間がいると思うだけで、気が休まる。
「エリオの役目は終わったはずだろ?」
そもそもソニアの件が終わったんだから、情報収集役兼護衛のエリオはお役御免のはずじゃないのかい?
「一応終わりましたよ?」
「じゃあ、なぜまだいる?」
「単純に言ったら、ミレーナ様の側にいた方が面白そうだから、ですかね?」
確かに、単純な理由だったねぇ。
だが暗躍部隊を離れて、こんな令嬢一人の世話をしている場合ではないと思うが?
「……エリオ、もしミレーナ様の妨げになる様ならば、命はないと思いなさい」
サラ、真面目な顔して何物騒なこと言ってるんだい!?
「そう言えば、サラとエリオは知り合いなのかい?」
この間の会話から、知り合いだと判断したが。
サラが暗躍部隊出身と言う、爆弾発言には驚いた。
そんな素振り、いままで一度も見たことがなかったからな。
「ええ。同期の仲間です。元ですが」
「サラが辞めるって言った時は、みんなが止めたんですよ?」
そうなのか……。
そうだよな、侍女にしとくのは勿体ない。
サラは相当な腕前だった。
私なんてまだまだヒヨっ子。
「私はミレーナ様のお世話がしたくて辞めたんです。暗躍部隊もそれなりに、楽しくやらせて頂きましたが、それよりも私が選んだ方の側にいたいんです」
そうか、私……イヤ、ミレーナはサラに選ばれたのか。
選んでもらったからには、それに応えなきゃいけないね。
「……俺はミレーナ様に会うまで、サラの言ってることが正直、分からなかった。なぜ令嬢ごときにそこまで想えるのか不思議だった。けど、ミレーナ様に会ったらそんな思い吹き飛んだよ。……だから、俺はここに残ると決めた。俺の意思で」
まったく、どっちもバカだね。王宮の仕事を捨ててまで来るなんて。
けど、嬉しいと思ってしまう自分もいる。
──ま、いいさっ。居たければ居ればよし。
私は来る者は拒まず、去る者は追わずの人間だからね。
「アレン様は知ってんのかい?」
「殿下も承知してますよ。むしろ率先して、送り出されましたけど?」
どいつもこいつも私の意見は無視だね。
一度ガツンと言ってやろうかね。
「アレン様が知ってるなら大丈夫だね。じゃあ、改めてよろしく頼むね」
「こちらこそ」
──その腹立たしい笑顔だけは、やめて欲しい。