侵入者
毒に倒れてから3日。
次の日には目は開けられた。
最初にサラを呼んだら、泣いて喜ばれた。
しかし、身体はまだ重く、動きづらかった。
毒とは厄介な物だ。やはり少し、慣らしとくか?
……やめとこう。兄様とサラが怖い。
そんな不便な生活も3日もすれば、普段通りだ。
「そろそろ部屋から出てもいいかしら?」
「絶対ダメです!」
「外の空気が吸いたいの」
「窓からで我慢してください」
この調子で部屋から一歩も出れない。
部屋どころか、ベッドからも出してもらえてないが?
一度脱走を試みたが、サラに本気で泣かれてしまった。
それ以降、ベッドから下りることすら許されない。
──下手なことするんじゃなかった。
コンコン
「ミレーナ様、今大丈夫ですか?」
「はい、お入りください」
入ってきたのはソニア。
倒れてから、ちょくちょく部屋にやって来ては体調を気にしてくれる。
「体調はどうですか?」
「ええ、だいぶ身体も動くようになりました」
「それなら良かったです。良くなったら、一緒に街にお買い物でも行きましょうね」
「はい、楽しみにしております」
やはり原作通り優しい人だ。
あの勘は、やはり間違いだったらしいな。
※
皆が寝静まった深夜。
──誰だろうね?
使用人ではない者の気配で目が覚めた。
昔から人の気配には敏感で、すぐに目が覚める。
それは、この身体になっても変わらない。
この身体になって、気を張ることも無かろうと思っていたが。
昔の体質は元に戻そうとしても、中々戻らないもんだね。
今回はその体質が役立ったけどな。
──賊は一人か。
ゆっくりと、こちらに向かってくる。
しかし、このセルヴィロ家の警備をくぐり抜けて来るとは中々だね。
それなりの訓練を受けてきたとみえる。
だけど、相手が悪かったね。こっちはただの令嬢じゃないんだよ。
──さぁ、お客人をもてなすとするか……。
バサッ!!
ギリギリまで近づかせといて、シーツで視界を奪う。
「なに!?」
賊はビックリするが、もう遅い。
ドカッ!
「こんな深夜に女の部屋に侵入するとは、夜這いかい?」
馬乗りになり、首には小刀を突き立てる。
賊の男は、まさか令嬢に馬乗りにされるとは思いもしなかったろう。
こちらを見てビックリしている。
「なんなんだよ!?お前令嬢じゃないのか!?」
「一応侯爵家の令嬢だが?……今はな」
「こんな令嬢見たことねぇよ!!」
同感だ。私自身も見たことがない。
「戯言はいいんだよ。誰に頼まれた?」
「言うと思うか?」
「……思わないね」
この手の奴は中々に口を割らない。
そういう時に、口を割らせるためにする事と言えば……。
こっちではあまりやりたくなかったことだが、仕方がない。
片方の腕を逆の方向へ思い切り曲げる。
鈍い音と同時に男の断末魔の様な叫び声。
「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
「……悪いね、私はそんな優しくないんだよ。しかも、気が短くてね。さぁ、もう一度聞く。誰に言われた?……次は喉仏にいくよ」
「言う言うよ!だから命だけは……」
男が涙目になりながら訴える。
「俺は……!!」
パンッ!!!
男が言おうとした瞬間、銃声と共に男の頭を銃弾が撃ち抜いた。
「なに!?」
誰だ!?他に仲間がいたのか!?
銃弾の飛んできた方を見たが、誰もいない。
……逃げたか。
辺りには火薬の臭いだけが残った。
しかし、こいつは仲間じゃないのかい!?
仲間を簡単に殺せるのか!?
信じられん。仲間は身内同然だ。助けることはあっても殺す事など絶対しない!
仲間を大事にしない組織など、ろくな組織じゃないね。
「あんたも、こんな死に方したくなったろうに……」
ドタドタドタ……
「レーナ!!叫び声と銃声が聞こえたけど!!……これは!?」
「きゃあああ!!」
兄様達が部屋へやって来た。
そして、惨状を見て侍女達は悲鳴をあげた。
それもそのはず、床には腕が変な方向に曲がり、頭を撃ち抜かれた死体。そこから溢れ出る血で血溜まりが出来ている。
あげく、私は血だらけ。
「何があった!?怪我は!?」
「ありません。この男が寝込みを襲おうとしてきましたが、返り討ちにしたところで主犯を聞こうと、尋問中に他の奴に殺られました」
「傭兵は何をしている!?ああ。レーナ、怖かったね。すぐ駆けつけれなくてごめんよ」
兄様が抱きしめて頭を撫でる。
「兄様、汚れてしまいます。この程度、問題ありません」
──腕を折ったのは私だが、言わないでおこう。