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2.地雷原とはなんぞや。

 つよキャラ双子は善い文明。



 地雷とは何か。

 簡単に云えば、踏んだら爆発して人間を殺傷する兵器である。

 地雷原とは、その地雷がいっぱいに埋まった場所の事。立ち入り厳禁、入ったら死ぬと思え、誰も助けてくれないぞ。そう云う場所だ。

 では人を地雷と呼ぶのはどのような場合か。――関わったらあかん人の事を指すのである。百害あって一利無し、関係性を持っても損をするだけ、相手をするだけ莫迦らしい。つまりは侮蔑の言葉である。

 ――その人間地雷に関わりまくっている人や、一人で沢山の地雷を抱えているような人格破綻者を、地雷原と呼ぶわけだ。

 ランヴァルトは周囲から、地雷原公爵と呼ばれている、らしい。初めてアルヴィドから聞いた時は「どっちの意味かなぁ……」と遠い目をしてしまった。アルヴィドは気にするなと笑っていたけれど。

 今なら分かる。“どっちもだ”、と。



 *** ***



「ラン様、聞いて下さい。あのお方は酷いお方です」


 ベッドの上で泣いている少女がいる。年の頃は十七。ふんわりした栗色の髪と、大きな桃色の瞳が愛らしい。少し痩せ気味で肌の色も病的に白い。仕方ない、事実体が弱いのだ、彼女は。不健康そうに見えるのに可愛いと云う感想を抱かせるのだから、健康ならば美少女に違いあるまい。

 幸薄そうな少女が健気にハラハラと涙を零している。誰もが庇護欲をそそられそうな姿だが、ランヴァルトの心は凪いでいた。

 いや、困ってはいる。しかし、その発言に同調して慰めようとか、宥めようと云う気は起きない。

 幾らランヴァルトが情けない男でも、少女の涙に負けて自分の恩人にして憧れの人を悪く云う事は出来ないかった。少女がそれを望んでいても、無理なものは無理だ。

 少女――モニカの母親ベック夫人やメイド達の視線は冷たいが、知らんぷりを決め込んだ。


「酷いとはどう云う事だい? エルヴィーラ様ほど慈悲深く優しい方を、僕は知らないけれど」

「ラン様は騙されています! あの方はわたし達を追い出そうと企んでいるのです! その証拠にホラ! わたしも母も古くから居る使用人のみんなも母屋から追い出されて、こうして離れに押し込められているではありませんか!」

「離れをわざわざ君の療養用に改装して下さったんだよ? 君が寝ているベッドも着ている服も、栄養価の高い食事や腕の良いお医者様だって、エルヴィーラ様がお金を払って手配してくれたものだ。感謝こそすれ、そんな疑念を抱くなんて以ての外だよ、モニカ」

「た、確かに仰る通り、ですが……。で、でも、母屋は今、完全にあの方の手に落ちています。新しい使用人は皆あの方の手の者じゃありませんか!」

「君が生活しやすいように、慣れている者達を離れに移動させたんだ。それに、給金は今までの五倍以上支払われているよ。それでも離れで働くのが厭なら紹介状を書くって、僕も云ったけれど」


 そう云うと、メイド達はさっと冷たい視線を逸らした。モニカに同調しないランヴァルトを酷い主人だと云わんばかりの目で見ていたのに、給金の話をされたらこれだ。まさに現金な事である。何も上手くなかった。悲しい。

 当のモニカは裏切られたような目でランヴァルトを見ている。どう云う心の動きでそんな目をされるのか、ランヴァルトには分からなかった。事実しか云っていないのだけれど。


「で、でも、ラン様は大変なのでは? 慣れている使用人は、ルーカス以外私の元へ居て。お寂しい思いをされているのでしょう?」

「いや、あまり。家令ルーカスは執事になって以前より僕の側に居てくれるし、覚える事が沢山あって忙しいし、エルヴィーラ様は毎日顔を見に来て下さるし。寂しい事なんてないよ」

「……」


 モニカが絶句している。しかし、モニカの物差しでランヴァルトを哀れまれても困る。

 確かにモニカの云う通り、元家令、現ランヴァルト専属執事のルーカス以外の古参使用人はみんな離れへ移された。彼以外、公爵家の使用人として使い物にならないと、現家令と現侍女頭が判断したからである。「ルーカス殿以外の使用人は公爵家の恥になりかねません。母屋から出して下さい」と云われ、ではモニカの世話と離れの維持にとお願いした。

 侍女頭からは「辞めさせてもいいのでは?」と冷たく云われたが、ランヴァルトが生まれる前から勤めている使用人も多い。若年の者は彼ら彼女らの子供達である。辞めさせるのは忍びなかった。事情を話せば侍女頭は冷たい目を引っ込めて微笑み、「ではそのように」と納得して、古参使用人達を速やかに離れへと移してくれた。

 中には母屋から出る事に難色を示した者達も居たようだが、命令に従えば給金を今までの五倍にすると云う話をしたらすんなり従ったそうだ。それについてエルヴィーラは、「金に従わない人間の方が珍しいですから」と云っていた。莫迦にするでもなく蔑むでもなく、自然の摂理だと云う態度で。

 つまり、使用人達を離れへ移す決断をしたのはランヴァルトである。それで寂しいとか云ったらただの阿呆だろう。

 さらに云えば、これまでは名ばかり公爵だったので、王家主催の催し物や式典へ少し顔を出す程度で許されていたが、エルヴィーラの夫となるからにはそうも行かない。既に今の時点で、これまで没交渉だった家々から茶会や夜会への招待状が山と届いていた。そこへ行く場合、ランヴァルトは公爵らしい振る舞いをしなくてはならないのだが、現状は無理だった。

 母から王侯貴族の常識や礼儀作法を、祖父から多少の帝王学は学んでいたが、公爵としてすべき言動の実践は出来ていないのだ。ようは頭でっかち状態。これまで正しく公爵として扱われた事もないので、「何が分からないのか分からない」みたいな状態だ。

 これには現家令もエルヴィーラの秘書、執事、護衛たちも頭を抱えていた。エルヴィーラだけが微笑んで、「丁度良い教師に心当たりがあります。すぐに手配しましょう」と云ってくれたが。

 そうしてやって来たのがノルデンフェルト前公爵だったので、ランヴァルトは卒倒しそうになった。

 御年六十六歳。内政の要職に就くのが当然と云われているノルデンフェルト公爵家歴代の中でも、とびきり有能だと云われている方だ。現役を退いたものの、国王の相談役として登城する事も多いと云うのに、わざわざランヴァルトへ「公爵として振る舞う為に必要な事」を授業するためグランフェルト家に滞在してくれている。それはノルデンフェルト家とグランフェルト家が懇意であると示すようなもの。人脈をほぼ全て失ったグランフェルト家にとって、こんなに有り難い事はない。

 当のノルデンフェルト前公爵は「エルヴィーラ嬢への恩返しついでだから気になさるな」と云っていた。エルヴィーラにも前公爵にも頭が上がらないし、足を向けて寝られない。そしてノルデンフェルト家にまで、当たり前のように恩を売っているエルヴィーラが凄すぎた。侯爵令嬢かのじょの一声でグランフェルト家へ他家の前公爵があっさり来るとか。「どう云う事なの……」と心と体が震える。エルヴィーラの前では爵位など些細な問題だと云われる理由が分かった。

 そのエルヴィーラの事は、云わずもがなだ。

 昨夜の晩餐を思い出して顔が赤くなりそうなのを堪えて、ランヴァルトはモニカへそれらの説明をした。何も心配する必要はないどころか、モニカはランヴァルト同様、エルヴィーラへ深く深く感謝しなくてはならないと。


「妙な事を考えないで、自分体を労るんだ。早く元気になってね、モニカ」

「……元気になったら、わたしはどうなるんです?」

「ん? 君はまだ若いし、エルヴィーラ様が良い縁談を探して下さると」

「わたしを変な男の元へ嫁がせる気ですね?! やはりあの方は酷い方だわ! わたしとラン様の仲を裂こうとお考えなのです!」

「えっ」

「……え?」

「君と僕の仲って……兄妹みたいなものだろう。裂くも何もないような」


 モニカが過剰なほど嘆きながら云った言葉に、ランヴァルトは首を傾げた。

 ランヴァルトとモニカの関係は子供の頃からの知り合いだ。ベック夫人の実家である子爵家に、ランヴァルトの曾祖母の従姉妹のさらに従姉妹の孫が嫁入りしていたので、遠い遠い親戚でもある。まぁ王国内の貴族は大抵どこかで繋がっていて、広い目で見たら大体親戚だ。なので基本、三親等までしか身内扱いしない。歴史の長い所は四か五親等くらいまで親戚扱いするそうだが。

 つまり世間の常識から云えば、ランヴァルトとモニカはあくまで子供の頃からの知り合いでしかない。ただランヴァルトは幼少期、彼女を妹のように思って可愛がっていたので、今も妹分と見なしていた。

 兄妹はどこまで行っても兄妹だ。例えモニカが健康体になりよそへ嫁いだとしても、ランヴァルトは妹分として目を配るだろう。引き裂かれるような仲ではない。

 モニカがぽかんと涙で濡れた目でこちらを見た。メイド達も唖然とした顔をしている。ベック夫人だけ、何故か顔色を青くしていた。


「モニカがどこへ嫁いでも、僕は君を妹分として大事に思うよ。だから大丈夫。何も心配しなくていい」

「ら、ラン様……」

「ん? どうかした?」

「わたしは、ラン様と、けっこん」

「え?」

「ランヴァルト様ッッ!」

「うわ?!」


 呆然とした顔で妙な事を云い出したモニカの声を遮って、ベック夫人が大声を出した。元々男爵夫人であった彼女は、貴族に必要な礼儀作法を習得している。なのに、突然の大声である。驚いて、ランヴァルトは思わずのけぞった。


「ど、どうしたのベック夫人。貴方らしくもない」

「い、いえ、失礼致しました。……娘も突然環境が変わって、色々戸惑っているのです。健康になった後の話など、上手く理解出来ないでしょう。今日の所はお引き取り下さいませ。お願い致します」

「お母様、わたし、ラン様と」

「モニカ、落ち着きなさい。その話は、今すべきではありません」

「……」


 モニカは戸惑っている様子だが、それならランヴァルトも戸惑っている。普段ランヴァルトとモニカの会話を微笑んで聞いているベック夫人らしからぬ態度だ。しかし部屋の時計を見ると、丁度よい頃合いだった。


「では、今日はこの当たりで。モニカ、しっかりご飯を食べて、よく寝て、薬もちゃんと飲むんだよ」

「ラン様」

「ランヴァルト様もお体を大事に。ご無理はなさいませんように」

「ありがとう、ベック夫人。それじゃぁ」

「あ……」


 まだ何か云いたげなモニカに手を振って、ランヴァルトは部屋から出た。扉は元から開いていて、廊下にはエルヴィーラにつけられた護衛が二人待っている。

 一人はにやにや嗤いながら、もう一人は感情の読めない微笑を浮かべ、ランヴァルトは苦笑い。「お待たせしました」と声をかければ、どちらも頭を下げてランヴァルトを迎えた。


「母屋へ戻ります。……けど、その前に、少し裏庭へ」

「承知致しましたぁ~」「承知致しました」


 トーンは違えど、どちらも同じ言葉をランヴァルトへ返す。

 家の中でも護衛がつくような状況に、背中のむず痒さを覚えながら、ランヴァルトは言葉の通り二人を連れて裏庭へ向かった。



 *** ***



「やっべぇクソうけんだけど!」


 前庭ほどではないが整えられた裏庭にて。

 にやにや嗤っていた護衛が、今度は体を曲げて大笑いしていた。それに対してランヴァルトはやはり苦笑い。もう一人の方は微笑のままだ。


「ヤバくね? あのお嬢ちゃん、あんたと結婚する気だよ?! うちのあねさん差し置いて!」

「ヴェルト、あまり大声で云ってはいけません。あのご婦人の気遣いを無駄にしてしまいます」

「ヘイスだって笑ってんじゃん! いや世間知らずって云うか夢見がちって云うか脳内お花畑って云うか! この状況で自分が正妻になれると思える神経がスッゲェわ! 幾らなんでもヤバいってウケる~!」


 ぎゃははと大声でヴェルトは笑う。豪快な笑い方に、ランヴァルトは新鮮な気持ちになった。これまで自分の周囲に、こんな大笑いするような人はいなかったので。

 ヴェルトとヘイスは双子の兄弟で、元はエルヴィーラの護衛だ。婚約が成立した日から、ランヴァルトの専属護衛として側に居る。常に護衛が側に居ると云う状況にランヴァルトは中々慣れる事が出来ないが、二人とも話しやすい人柄なので辟易まではしていなかった。少々癖はあるが。

 どちらもキャラメル色の髪に明るい檸檬色の目をしているが、性格の違いから見分けがつく。穏やかな微笑を浮かべる優しげな方がヘイスで、にやにや嗤いが似合う豪快な方がヴェルトだ。ちなみに、ヘイスが兄であるらしい。

 二人の父親が熊人族な為か、身長が高く引き締まった体をしている。肉体構成は人間の母親へ似たようで、ぱっと見た感じは人間と変わらない。しかし後ろからを見ると、腰の少し下あたりに丸い熊の尻尾があった。獣人用のしっぽが出せるタイプのスーツを着ているので、ランヴァルトはその可愛いしっぽを見放題である。

 二人とも大変顔立ちがよく、いわゆるハンサム、イケメンと云うタイプなので、可愛いしっぽが似合っていないような、逆にとても似合っているような。


「で、だんなさまはどうなの」

「どう、とは?」


 白いベンチに腰掛けたランヴァルトを見下ろして、ヴェルトはにやにや嗤ったまま云う。


「あのお嬢ちゃんの事ー! 憎からず思ってるとか? 本当は嫁に行かせないで妾にしちゃうつもりとか? 姐さんとの結婚、実は厭だとかぁ?」

「ないです」

「つまんねー。そこは慌ててよ、だんなさま」


 思っても居なかった事を云われたので、慌てたり困ったりする以前に、すんっと感情が落ち着いた。あり得ない事を云われると、人は落ち着くものらしい。


「モニカは妹みたいなもので、嫁だとか妾だとか考えた事もないです。エルヴィーラ様との結婚は、僕なんかには勿体ない、最高の良縁だと思っています。厭だなんてあり得ません」

「その謙虚さ。大事にして下さいね、旦那様」


 ヘイスがにこりと微笑んで云った。目が笑っていない気がする。口元が綺麗に上がっているだけに、なんだか怖かった。


御前ごぜん――エルヴィーラ様は私たちを専属へつけるほど、貴方様を想っていらっしゃいます。そのお心に背く事がないよう、願う次第です」

「勿論です。エルヴィーラ様をがっかりさせないよう、頑張ります」

「よいお心がけかと」


 にこり、またヘイスが微笑む。今度は目も笑っていた。ランヴァルトの言葉は、彼にとって及第点だったようだ。


「あー、でもさぁ、だんなさま。マジでなんで、あの二人引き取ったの? そんな無駄金なかったでしょ」

「余裕はありませんでしたが、僕が色々我慢すればなんとか」

「なんでそこまでしたわけー? 意味わかんないんだけど」


 ランヴァルトの前にしゃがみ込んだヴェルトが、本気で不思議そうに云う。

 確かに、端から見たら意味が分からないだろう。自分の面倒も見切れない、落ちぶれた公爵家をどうにも出来ずに居た人間が、余計な荷物をわざわざ背負ったようなものだ。

 聖職者からは慈悲深いと云って貰えたが、普通の視点で見れば「何やってんだこいつ」になるのだと、アルヴィドから教えられて分かっている。


「惚れた腫れたでもねぇなら、マジで意味分かんねーわ。何の得があったの、あんたに」

「そう……ですね。……母の思い出に浸る為、と云いますか」

「え、あんたマザコン?」

「まざこん?」

「ヴェルト」


 ごつん、とヘイスの拳がヴェルトの脳天に落ちた。ランヴァルトから見ても手加減された一撃に、ヴェルトは「いてーんだけど」とぶつぶつ文句を云って、殴られた所をさすさす撫でる。


「お気になさらず。平民の俗語スラングです」

「はぁ。……どう云う意味なのでしょう?」

「ママがいなくちゃ何も出来ない奴って意味~」

「う゛っ」


 ズキっと胸が痛んだ。まさに自分の事ではなかろうか。

 母がいなくては、家一つまともに運営出来ていない。


「ヴェルト。……ご安心を。母親の事を大切に想う場合は、孝行息子とか母親想いとか云われますから。旦那様はそちらの方かと」


 ヘイスがフォローを入れてくれた。また拳が一つヴェルトの頭に落ちる。今回のは結構痛かったようで、ヴェルトは頭を抱えて唸り声を上げた。熊っぽい。


「ありがとうございます。……母の事は敬愛しています。遠く離れて、今や手紙のやりとりくらいしか出来ませんから……寂しくもありますね。……母の思い出話が気軽に出来る相手は、少ないんです。その少ない中に、モニカとベック夫人が含まれていました」

「ふぅん。そんだけぇ?」

「後は……こんな自分でも善行が出来るのだと、示したかったのかも知れません。……父のような男にはならない、と」


 つい視線が下がってしまう。母の話は微かな痛みと共に優しい気持ちが湧き上がるが、父の話はとにかく不快感しかなかった。

 癖のように、首を摩る。過去の苦痛が蘇り、息が詰まった。

 全てを知っているアルヴィドやルーカス相手の時にはこうならない。父親の事をよく知らない相手に話す時だけこうなった。きっと、相手に甘えられないからだろう。実に情けない男だ、自分は。


「あー。あんたの親父さん、かなり駄目な奴だったらしいねぇ。話聞いた時、筆頭秘書プリムラねぇさんがブチ切れてたし。あんなに切れたねぇさん、久々に見たわ」

「お恥ずかしい限りで……」

「え、別に、あんたが恥じる必要なくねー? もう縁切れてっし、あんたの親父がやった事はあんたには関係ないじゃん。親は親、子は子ってやつ。あんたは真っ当にやってたんだからいいじゃんかー。貧乏こいてたけど」

「……」


 ぱちくり、瞬きをする。

 親は親、子は子。父親は父親、ランヴァルトはランヴァルト。そう云ってくれたのは、親しい付き合いのある人だけだった。

 貴族は基本、一族単位で物を見られる。得に家父長の不始末は家全体の不始末と同義だ。散々なやらかしをした父を引き合いに出してランヴァルトを悪く云う方が、貴族社会としては当然なのである。

 彼もそう云う考えかと思っていたら、違ったようだ。透き通った檸檬色の目には、嘲りも見下しの色も混ざっていなかった。


「ヴェルト。さっきからお口が過ぎますよ?」

「いでででででで耳ひっぱんな!」

「しっぽじゃないだけ優しいと思いなさい」

「まぁまぁ……」


 優しく微笑みながらヴェルトの耳を引っ張るヘイスを宥める。ヘイスはため息をついて、ヴェルトの耳から手を離した。


「旦那様も、もっと怒って宜しいのですよ。ヴェルトは気安すぎます」

「正直な所、その気安いところが助かると云いますか……。丁寧に傅かれるのにはあまり慣れていなくて……」

「それも困りものなのですが……。貴方は公爵ですから、王族の次に尊ばれる立場なのですよ?」

「金と権威のない貴族とか、下手な平民より惨めじゃん」

「ヴェルト」

「しっぽ握り絞めんな莫迦力! 潰れる!」

「世界の損失!」

「は?」「は?」

「いや、あの、可愛いしっぽは保護されるべきではと云う、あ、ちが」

「だんなさまの新しい一面見たわ」

「しっぽがお好きですか。エルヴィーラ様に奏上しておきますね」

「やめて?!」


 何か不名誉な誤解が発生した気がするし、それがエルヴィーラにまで波及しそうだったので慌てて止める。二人は笑っているだけで何も云ってくれない。不安しかない。

 別にしっぽに対して変な思い入れなどないのだ。ただ、二人の腰下でぴこぴこ動く丸いしっぽが可愛いなと思っていただけで。


「まぁ俺が云うこっちゃないけど、だんなさま、俺に怒んないよね~。無礼者って殴ってもいいんだけどー?」

「いえ、先ほども云ったように、気持ち的に助かってますので……。これまで使用人とは身内に近い距離感でしたから、新しい使用人の皆さんに緊張してしまうと云うか……」

「皆さん出来る方たちばかりですからね。主従の範囲を超える事はないでしょう」

「姐さんが選びに選んだ奴らだから、粗相の心配はねーわな。てかだんなさま、新しい連中とも家族みたいになりたいわけ?」

「それはまた違うんですけど……。母の教えもありますから、今の状況が正しい事は分かっていますし。ただまだ慣れていないので緊張するから、こうしてお二人と話していると気が休まると云いますか」

「あぁなるほど……」

「だんなさま繊細だねぇ」

「お恥ずかしい……」


 そう、モニカに云ったように、新しい使用人達との距離感に寂しいと云う気持ちはない。これが当然で、今までが異常だったのだと分かっているからだ。

 長年勤める使用人とは疑似家族のような関係になる事もあるが、それはプライベートでの話。仕事中は主従として適切な距離を保たなくてはならない。

 それが出来ないのが、古くから居る使用人達だ。

 ランヴァルトが産まれる前から務めている者が多い。彼ら彼女らは、ランヴァルトを「主人」ではなく「坊ちゃま」と見てしまう。赤ん坊の頃から知っているのだ、仕方ない部分もある。だがプロならば、公私混同は避けなくてはならない。忠誠心はそのまま、では家族として、公では部下として振る舞う。それが出来る使用人と云う物で、公爵家に仕える以上は出来て当たり前の事だ。

 そしてランヴァルト自身も、間違えてしまう。彼ら彼女らには、恩がある。思い出がある。情がある。つい甘やかしてしまう。仕事で失敗してもなぁなぁで済ませ、まともな指導が出来ない。

 それでは今後困るのだ。エルヴィーラの夫として、真っ当な公爵にならねばならないのだから。


「朝起こされてお茶を淹れて貰えるのも、着替えを手伝って貰うのにも、少しずつ慣れてきてはいるのですけれど」

「前はどうだったん?」

「自分で起きて白湯飲んでましたし、着替えも自力で出来ます」

「平民じゃん。俺、緊急時以外で姐さんが一人で着替えてる所とか見た事ねーわ」

「貴族は自分で出来る事でも他人にやらせるのが当たり前ですからね。それが出来ないと、下に見られると云いますか」

「仰る通りで……」

「まぁ、慣れてきているなら宜しいかと。これからもその調子で、公爵として当然の環境に慣れて行って下さい」

「はい……」


 神妙に頷くランヴァルトに、ヘイスはにこりと笑った。少し優しい笑い方だったように思うが、気のせいかも知れない。


「さて、そろそろ頃合いかと。母屋へ戻りましょうか、旦那様」

「あ、はい。そうしましょう」

「……あれ、ルーカスのじっちゃんじゃね」

「え?」


 ヘイスに声をかけられ立ち上がると同時に、ヴェルトが母屋の方角を見ながら云った。釣られてそちらを見ると、確かに元家令現執事のルーカスが、丁寧な歩き方ながらどこか慌てた様子でこちらへ向かって来ている。

 祖父の代から居る最古参使用人のルーカスは、既に孫もいる五十八歳。翁呼ばわりは当然ではあるが、赤の他人であるヴェルトからの「じっちゃん」呼びには難色を示していた。ランヴァルトは可愛い呼び方だなと思うが。

 今日もきっちりお仕着せを着こなした、古参の中で唯一母屋勤務続投を許された執事は、ランヴァルトを見つけると足早に近付いて来た。そうして適切な距離で立ち止まり、一礼する。


「やはりこちらでしたか、旦那様」

「すまない。今戻る所だったんだが……何かあった?」


 急いでいる様子なので先を促すと、ルーカスは恭しく頭を下げた。


「至急執務室へお戻り下さい、旦那様。王宮より使者の方がいらしてます」

「王宮から……」

「玉簡を携えての、正式な使者様です。……封蝋は恐れ多くも、国王陛下の紋章でございました」

「ミ゜ッ」

「え、だんなさま、今の声どっから出た?」


 ヴェルトが本気で驚いた様子で聞いて来たが、ランヴァルトにも分からない。自然と出た。

 恐れていたものの一つが、来てしまったと云うべきか、やっと来たと云うべきか。

 フロード王国国王からの玉簡。

 さて、国王陛下の立場からなのか、祖父としてのものなのか。それによってランヴァルトの胃痛の種類が変わるのである。


(ぜーったい、エルヴィーラ様との婚約についてだけど……)


 苦言を貰うのか、からかわれるのか、はたまたただの祝福か。

 ランヴァルトは祖父こくおうの顔を思い出しながら、戦々恐々と執務室へ向かうのだった。



 *** ***



 本日の晩餐の席。ここ半月ほどで当たり前になった光景。

 ダイニングルームにて、広いテーブルの上座にエルヴィーラ、角を挟んだ隣りにランヴァルトが座っての晩餐会。もはや家族の食事会のような気持ちでいるランヴァルトは、大分気が早いに違いない。

 食前酒の段階で、ランヴァルトは本日王宮より届いた手紙の話を切り出した。エルヴィーラ相手なので、国王陛下からの手紙も直接見せる。

 本来なら他家の人間に国王から賜った自分宛の手紙など見せるものではないが、エルヴィーラは特別である。ランヴァルトの心情的にも、国としても、そして国王陛下からしても。

 自国に住まう世界一の大富豪である。国王がエルヴィーラを重用し溺愛している事は、平民の子供だって知っている話だ。そしてエルヴィーラも、祖父同然に国王を慕っていると噂で聞いた。

 自分の祖父と婚約者が親しい事実に、安堵すれば良いのか嫉妬すれば良いのか。ランヴァルトとしてはちょっと面白くないな、と感じている。不遜な話だが。


「陛下も相変わらずですこと」


 国王直筆の手紙を読むにあたり、食事のため外していた手袋をはめ直し、口元へ絹のハンカチを当てていたエルヴィーラは、ランヴァルトへ手紙を返すとそれらの装備も外した。

 するりと抜ける手袋に妙な色気を感じて、さっと目を逸らす。前からそうだが、エルヴィーラを意識しすぎな自覚はあった。仕方ない事だろうと、心の中で誰かへ云い訳をする。

 ランヴァルトも手紙を執事へと渡し、改めてエルヴィーラの方を見た。


「相変わらず、とは……?」


 ランヴァルトは手紙を読んだ所で、「呼び出し食らった怖い」くらいの感想しかなかった。別に怒りが文字へ滲んでいたとか、厭味が書いてあった訳ではないのだが。むしろ、優しく丁寧な文体であった。けれど名君である祖父からの呼び出しは、理由がなんであれ小心者ゆえ身構えてしまうのだ。

 正直な所、実の孫であるランヴァルトより、エルヴィーラの方が国王と会っている時間が長い。間違いなく。

 ランヴァルトも母が居た子供の頃は、彼女に連れられてよく王城へ顔を出していた。しかし母が嫁いでからは、行事以外で王城へ行く回数は年に二、三回ほど。それに引き換えエルヴィーラは、ご機嫌伺いで月に一度は必ず登城していると云う。

 呼び出しも多いそうだが、それに一々対応していたら週三で登城する事になるから断りまくってるらしい。王の呼び出しを断って大丈夫なのかと心配したら、「陛下が私に何か出来るとお思いで?」と傲慢笑顔とセットで云われた。

 それはそうだ。なんと云っても彼女は、国一、大陸一ではなく、”世界一の大富豪”なのだ。一国の王の呼び出しくらい、平気で蹴れるのだろう。

 ただ、弱々貴族なランヴァルトからすると、ひょえ、と妙な声が出てしまうくらい恐ろしい話なだけで。


「お手紙には、三日後、茶会を開くので来るようにとありますが」

「ありますね」

「私は明日からテンペスト帝国へ出張ですから出られません」

「あ」

「前々から決まっていた事ですし、流石にこの段階で予定を変えると皇帝陛下の顔に泥を塗ってしまいます。今後の事を考えると宜しくありません。特に今回は、こちらから謁見を申し出ておりますので」

「そ、そうでしたね……」


 云われて思い出す。明日から五日間、エルヴィーラは国を空けるのだ。

 ランヴァルトの予定をエルヴィーラは全て把握しているが、ランヴァルトも一部とは云えエルヴィーラの予定を知らされている。全てではないのは、エルヴィーラの予定が密過ぎて聞いた所で覚えきれないからだろう。ただし、エルヴィーラがグランフェルト家へ来られない日や、仕事の都合で国を空ける時期などはしっかり知らされていた。

 陛下からの手紙で思考が一度吹っ飛んだとは云え、そんな大切な事を忘れてしまうとは。自分の記憶力が残念すぎる。


「陛下も、私が国外へ行く予定などはご存じです。つまりこの茶会。私が出席しない事を分かった上でのお話。まったく。普段は別に要件がなくても呼び出して来る癖に、貴方一人を王宮へ招くとは。国王陛下もお人が悪いこと」

「あの……一応、子供の頃から参殿していますので、一人でも大丈夫ですけれど……」


 まるでランヴァルトが一人では登城も出来ないような云い方なので、つい口をついて言葉が出てしまった。ランヴァルトは顔が良いだけの情けない男だが、登城くらいは出来る。現にこれまでしている。問題行動を起こした事もない。

 確かに祖父に会うのはちょっと怖いが、怖いだけで逃げたいとか止めたいほどでは無いのだ。だから大丈夫だと云う気持ちを込めての発言である。

 エルヴィーラはパチリとゆっくり一度瞬きをすると、ふふ、と含み笑いをした。


「エルヴィーラ様……?」

「いえ、云い方が悪かったですね。貴方が一人で王城へ行く事も出来ない人だと、云っている訳ではないのです。……今の貴方は私の婚約者。これまでヒソヒソ陰口叩くだけだったゴミもとい宮廷雀たちも放っておかないでしょう。雀どころか腹を空かせたピラニア並に食いついて来ますよ。取り入ろうとするくらいなら可愛いもの。貴方を懐柔して私の弱みを握ろうとしたり、直接的に害そうとする輩もいるでしょうね」

「え……」


 人をゴミ呼ばわりした気がしたが、多分気のせいだ。エルヴィーラはそんなこといわない。たぶん。

 自分の今までの「居ても居なくてもどうでもいい」立場を思うとまさか、と云いたくなるが、確かにエルヴィーラの云う通りだった。ランヴァルトに、ではなく、"エルヴィーラの婚約者”と云う立場にはとんでもない価値がある。

 エルヴィーラの財力は云うまでも無く、国王陛下の大のお気に入り、他国の皇族・王族にも厚遇され、聖地相手ですら意見を通せる。そのような人物の婚約者だ。周りが放っておく訳がない。少しでも恩恵に預かりたいだろう。

 アルヴィドやヴェルト達から聞いた話だが、グランフェルト公爵邸の大改装から凄い噂になっているらしい。まだ婚約者の立場なのに億単位の金をエルヴィーラが貢いだだとか、屋敷の中でランヴァルトが目に入れても痛くないほど溺愛されているだとか。後半の噂に頬が熱くなるが、否定し切れないところはある。

 エルヴィーラを妬んだり恨んだりしている者たちは、彼女へ直接手出し出来ないならばランヴァルトを狙うだろう。

 ずっと屋敷にこもり切りだったので、あまり実感がわかないが。ランヴァルトは今、時の人と云う奴なのだった。


「まぁ、それでも問題ないように、ヘイスとヴェルトをつけているんですけどね。……そう云えばそこの莫迦二人、ランヴァルト様に無礼は働いてませんか?」


 食前酒へ口をつけて、エルヴィーラが云う。

 壁際で気配を消して立っていたヘイスとヴェルトが、「げっ」と云わんばかりの顔になった。ヴェルトはともかく、ヘイスのそう云う顔は珍しい気がする。


「実力はありますし、忠誠心も疑っていませんけどね。少々甘やかして育ててしまったので、貴方への態度だけは心配です」

「えぇ、大丈夫ですよ。二人とも気さくで優しくて、とても助かってます。同じ年なので、あまり緊張しないで済みますし」

「……そうですか。ならば良いのですが」


 チラリとエルヴィーラの視線が二人へと走り、ヘイスは頭を下げ、ヴェルトはへらっと笑った。それから二人とも、ランヴァルトへ目礼をする。こちらはちょいと手を振って応えた。

 別に二人を庇った訳ではないし、嘘もついていない。ランヴァルトの護衛として、執事のルーカスよりも側に居てくれるのがこの二人だ。ヘイスは何かと気にかけてくれるし、ヴェルトは何だかんだ親切だ。

 確かにヘイスはエルヴィーラへの信奉からランヴァルトを試すような発言もするし、ヴェルトの言葉遣いは悪いけれど、それを厭だと思った事はない。むしろ、二人の態度はアルヴィドを思い出して嬉しかったりもする。だからエルヴィーラが心配する事は何も無いのだ。

 そこで、ふと気付く。

 エルヴィーラは今、甘やかして育ててしまった、と云った。


「あの、エルヴィーラ様」

「なんでしょう?」


 前菜が運ばれて来る。白い皿に、五種類の前菜が品良く盛られていた。

 その内の一つ、花の形になった生ハムへフォークを伸ばしながら、ランヴァルトは疑問を口にする。


「ヘイスとヴェルトは、ラーゲルフェルト家で育ったのですか? 二人はバックリーン子爵家の縁者だと聞いていますけれど」

「あぁ、細かく話してませんでしたね。彼らは二人とも、セーデル村の農民の子です。私が十歳の時、商談ついでに村へ寄った際に見つけましてね。見所があったので、引き取って護衛として私が育てました。良い仕上がりになったので、バックリーン子爵に相談して後見人になって貰ったんです。子爵以上の貴族関係者でないと、王城に入れませんから」

「なるほど……」


 納得したが、少し驚いた。ルーカスや給仕人など他の使用人達も、軽く目を開いて二人を見ている。

 ヘイスの慇懃な態度は完璧に貴族のもので、ヴェルトは言葉遣いこそ荒いが発音そのものは綺麗だ。農村部では発音が訛っているものらしい。濁っていると云うか、王都住まいのものが聞くと違和感を感じるそうだ。その王都から出た事がないランヴァルトが何も思わなかったのだから、相当綺麗な発音である事は間違いない。

 所作に関してもヘイスは完璧だし、ヴェルトも言葉遣いはともかく下品な行動はしない。元々貴族だと思っていたと云うか、農民だったなんて発想すら出なかった。

 それをエルヴィーラが育てた……いや待て、育てた?

 その云い方では、「ラーゲルフェルト家が面倒を見た」のではなく、「エルヴィーラが個人的に育てた」ように聞こえるのだが。


「えっと、二人は私と同じ年でしたね?」

「えぇ、そうです」

「エルヴィーラ様が十歳の時、二人は六歳で……それを、お育てになった?」

「どっちも泥玉のように転げ回るので、最初はそれなりに大変でしたよ。物覚えは良かったので、三ヶ月くらいでなんとか人前に出せましたけど」

「泥玉……?」


 思わずヘイスを見て唸る。幼児ヴェルトの泥玉は想像出来るが、幼児ヘイスの泥玉はちらりとも想像出来ない。あの綺麗な笑顔の青年が泥玉。転げ回って泥玉。泥玉。

 ヘイスがにっこり、と云うか、に゛っこり゛みたいな笑顔を向けて来た。口の端が引きつっている。それ以上聞いてくれるな、と云わんばかりの顔だ。流石の彼も、幼い頃の話は恥ずかしいらしい。

 反対にヴェルトは片割れを横目に、にやにや笑っていた。彼は特に恥じとか感じてないようだ。


「えっと……凄いですね、エルヴィーラ様は。大して年の変わらない子を、子供の頃からお育てに……」


 言葉を濁す。続きをどう云えばいいか分からない。フォークに刺したままだった生ハムを食べて誤魔化した。ほどよく塩が利いた生ハムはとても美味しい。誤魔化すために食べて申し訳ないまである。

 しかし、自分で云ってて違和感が凄いのだ。子供が子供を育てる。十歳の子供が、六歳の子供を。貴族の令嬢が、農民の泥玉を。ちょっと泥玉がツボに入ってる。

 と云うか、そもそも、村へ寄った理由が商談のついでって。十歳で商談。いや、それについてはランヴァルトにも知識がある。

 エルヴィーラが曾祖父から受け継いだ遺産で事業を興したのは、六歳の時だったはず。十歳になる頃には国一番の資産家になってたらしい。なんせランヴァルトもその頃は母親に甘える子供だったので、詳しくは知らないが。母が「とんでもない子が居ますわね!」と笑っていた事は覚えていた。


「そうですか? 金があればどうとでもなりますよ。私は基本的な事を教えただけで、専門的な事は専用の教師を雇いましたので。まぁ確かに、最初は大変だったんですけど。ちんくしゃ泥玉どもが」

「ちんくしゃ泥玉」


 また話が泥玉へ戻ってしまった。ちょっと、いやかなり見たい。泥玉のヘイスとヴェルトを。特にヘイス泥玉時代とかめちゃくちゃ見たい。見られないのが悔しいレベルだ。


「……」


「翠玉空豆のムース」を食べたエルヴィーラが、嚥下を終えてからニヤっと笑った。

 その笑い方は、ヴェルトと似ている。


「実家にアルバムがあるので、今度持ってきましょうか?」

「是非! ……あ」


 つい思い切り食いついてしまった。しかし見たい。見られるなら絶対見たい。泥玉見たい。

 しかし壁際から不穏な気配がする。ちらっと見れば、ヘイスがむちゃくちゃ厭そうな顔をしていた。ヴェルトも珍しく「えぇ……?」みたいな顔をしている。

 クックックッ、とエルヴィーラが悪役みたいに笑った。なんだか楽しそうだし、嬉しそうだ。


「私が付けた護衛を、そこまで気に入って頂けているとは」

「えっと、その、ふ、二人には本当に良くして貰ってて!」

「ふふ……。予想外ですが……嬉しいですよ、ランヴァルト様。今後も、二人をよしなに」


 そう云って微笑む顔は、ヘイスに似ている。

 もにゃりと、みぞおちの辺りに空気の塊が詰まった錯覚を覚えた。理由は簡単。”嫉妬している”のだ、ランヴァルトは。

 エルヴィーラとヘイスとヴェルトの間にある確かな繋がりに、ランヴァルトは妬いたのだ。そして、それを恥じた。なんてみっともない事だろうか。

 けれど、思ってしまう。


(いいなぁ……)


 ヘイスとヴェルトは、ランヴァルトが全然知らないエルヴィーラを知っているのだ。笑顔が似るほど長く一緒にいて、信頼と重用を受けている。

 たったそれだけの、当たり前の事が、ランヴァルトには羨ましくて仕方なかった。



 つよキャラ双子は善い概念。そう思いませんか!

 外見似てる双子も好きですが、似てない双子も好き。デビ■ビとか。外見ぜんっぜん似てなくて、性格も真逆だけど、お互いの事を大事に思ってる系双子が性癖なのはこの漫画のせい。連載終了2000年だと改めて知って戦慄しましたが。

 後はサブ■ス(ポ■マスで実装来ましたね!)とかリー■兄弟(双子ではない)とか……。

 やんちゃ/乱暴&穏やか/丁寧の組み合わせは善き文明。

 見た目似てようが似てなかろうが、性格違う方が断然好きです。性格まで似てると、その……見分けつけるのに時間が掛かるって云うのも……あるんですけど……。私の頭が悪いから……。

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