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前日譚ー秘め事

「奥様、奥様!

 どうかされたのですか?」


 呼びかけられた声に意識が覚醒する。

 机の上の時計を見れば時間は16時。

 2時間ほど眠ってしまっていたようだ。


「ええ、大丈夫よ。

 ちょっとうとうとしていただけ。

 ありがとう」


 ここから普通の家庭なら夕食の支度をするのかもしれないけれど、ここ北上家のような歴史ある裕福な家ではそれは私のような次期当主の妻がやるものではないらしい。

 そもそも、私は学生時代から魔法・魔術ばっかり研究してきた人間なので料理を急にしろと言われても難しいのだけれど。

 私の名前はや……北上(きたがみ)(しずく)

 これでもそれなりに名の知れた魔法使いで、その実績を見込まれてか、容姿でかはわからないけれど、北上家の次期当主となる夫、北上誠一に見染められて北上家へと嫁入りした、もう一年もしないうちに母となる女。

 子供を授かることができたのは、一人の女性としても、また北上家の中での立場を安定させることができるという意味でもうれしいことではあるのだけれど……私の悩みの原因もまたおなかの中にいる子供()

 私自身は元が一般庶民であり、世間で言われている双子が縁起が悪いなんていう話なんてどうでもいいとは思っていたけれど、北上家のような由緒正しい家となれば話は別。

 私の旦那様は優しい方ですし頑張れば認めてもらえるかもしれないけれど、恐らく現当主のお義父さまは無理。

 旦那様の理解を得られたとしてもやはり現当主の理解が得られなければ北上家としては意味がない。

 あまりこういうことを言いたくはないのだけれど、相当頭は固いもの。

 私が魔法で調べた情報によれば、お腹の中の子供たちは男の子と女の子。

 おそらく、このことがばれて露見してしまえば良くても女の子の方がどこかの里親に引き取られることに、悪ければ女の子の方が暗に殺されてしまうかもしれない。

 今の私にとっては悪いことに北上家はそれを可能にするだけの権力がある家なのである。

 ああ神よ、何故私にこのような罰をお与えになるのですか?

 やはりあの神社で行った実験が……いや、お寺でやった方かもしれないわ。

 それとも教会を利用してやったあのテストが悪かったのかしら。

 でも当時は私もお金がなかったし、そもそも主導したのは師匠……。


 いや、そんなことは関係ないわ。

 とにかく今はせっかく授かった子供たちを何とかして守り抜かないと。

 せっかく授かることができたんだもの、絶対に私が守って見せるわ。

 一先ずは来週呼ぶといっていた医者をどうにかしないといけないわね。

 確かお医者様が使うソナー魔術の細かい原理はあの本に載ってたはず。

 対抗呪文だと打ち消しになっちゃってそもそも見れないってことになっちゃうから、何とかして子供が一人だと錯覚させなくちゃいけないわね。

 そうなると、ソナーの対象を限定、もしくは変更させることができればいいのかしら?

 いえ、一番簡単なのはお医者様事態に幻惑魔法をかけて錯覚させることよね。

 でも、お医者様の魔法耐性が思ったより高かったりすると問題になってしまうわ。

 今の私の状況だと保険が効かないし……。

 そうだわ!

 お師匠様に来てもらいましょう。

 そうすればいざという時の保険も……。

 呼べるとなればやっぱり一番簡単なのはお医者様本人に魔法をかけることよね?

 でも、興味もあるしせっかくだから対象限定・変更の魔法も開発してみようかしら……。

 う~ん、時間が足りないわね。

 妊娠してはいるけれど少しぐらい夜更かししても、大丈夫よね?

 私の子だもの、きっと少し環境が悪くなったとしてもしぶとく……。


 この夜、北上家では優しいと評判の次期当主が珍しく怒る声が聞こえたとかなんとか。




 ◇




「経過は順調なようですね」

「そうですか」

「ええ、それはもう。

 まるで、医師の教科書に載ってそうなぐらい順調に成長していますよ」

「ほう、それは良かった。

 なぁ、雫」

「えっ、ええ。

 そ、そうね。

 本当、元気に育ってくれているみたいでよかったわ。

 それじゃあ、私は師匠の見送りをしてくるわね」

「ああ、行っておいで」


 半年ほどが経ち、だいぶお腹も目立ってきた頃。

 経過観察にやってきた医者の対応をした後、旦那様と別れて師匠と二人きりになる。

 一応言っておくとお師匠様は一応女性なので不倫とかそういったことはない。

 その女性という性別を活かして私のアドバイザー的なポジションとして何度かこの屋敷に足を運んでもらっているのである。

 まぁ、これ以外に師匠が女性という性別を活かすことはないだろうしたまには……ゴンッ


「痛ッ!

 師匠!私これでも妊婦さんなんですよ?妊婦さん!

 大切な子供の命も私が守っているんですから、大事にしてくださいよ」

「なら、私を敵に回すようなことをしないことだねぇ。

 さもないとお前の子供は私の研究所に永久就職になるかも……」

「すいませんでした!

 お師匠様!

 お師匠様は、どことなく母親としての雰囲気があるのでつい甘えてしまうのですよ!」

「ん?

 そうかい?」

「ええ、そうなんですよ」

「ふむ、まぁいいか。

 それよりも今回はお前が子供を産んだ後の話だろ?

 幸い、私の知り合いに産婆をやってるやつがいる。

 そいつが手伝ってくれるそうだから、お前の知り合いということで話を通しておけ」

「わかりました。

 子供の貰い先については?」

「そっちも問題はないさ。

 私の知り合いに子供を育ててみたいって言っている奴がいる。

 山奥で仙人みたいな暮らしをしている奴だが、あいつなら子供を変なことには使わないはずさね」

「そうですか、良かったです!

 師匠みたいな人が貰い先じゃな……ゴホン。

 お師匠様みたいな優しい人が貰い先だったら我が子でも安心して預けることができます!」

「お前はもう少し子供のために骨を折った私に敬意を払おうという気はないのか?」

「流石です、お師匠様!」

「……」


 微妙な顔をした後、座布団に乗って帰っていく師匠を見送り、部屋の中へと戻る。

 計画としては男の子の方をこちらに残して育て、女の子の方をお師匠様の知り合いという方に託して育ててもらうというもの。

 実際、お師匠様はとても優秀なので変な人を選んだりはしていないだろう。

 なんだかんだ言ってお師匠様は身内に優しいので信頼しても大丈夫なはず。

 後は旦那様にいつ頃カミングアウトするか……。

 幸い片方が女の子ということなので家督争いがおきたりすることはないわけで、後でばらしても問題はないと思う。

 問題は隠し事をしているという私の後ろめたさとばらすのでは無く、ばれてしまった場合についてだけど……。


「女は隠し事がある方が美しく見えるものだっていうし、旦那様に隠してる秘密なんて山ほどあるし、大丈夫よね?」


 北上雫、御年??歳。

 女というのはかくも秘密の多いものなのである。

 のかもしれない。

生まれる前から母親に迷惑をかけるだなんて……主人公め、なんてひどい奴だ!

えっ?父親の方が可哀そう?

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