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目が覚めるとそこは馬車の荷台だった。
覚えのある身体の重みに視線を動かせば、わたしのお腹にしがみついて寝ている女の子がいた。
なんかよう分からんが、可愛いやないか。
わたしは女の子を起こさないようにゆっくり体を起こす。
寝ている様子にほっこりしていると視線を感じた。
発生源はガルくん。
とっても恨めしげな視線を送っていた。
顔コワッ。がルくんのときとは対応が違うことが納得出来ないのかな?
でも流石に5才くらいにしか見えない女の子に、お腹で寝たくらいで怒れないよ。
あまりの熱視線に若干の恐怖を感じ、ガルくんから視線を外してみんなを見渡す。
あれ?アセナとカルトは?
「外におりますよ。」
外?
なんと馬車のあとをアセナに跨がったカルトが着いてきていた。
わたしよりちゃんと乗りこなしてるやないか。
ちょっとだけ、嫉妬したのは内緒だ。
ま、向き不向きがあるから仕方ない。
「ユウリ様、そろそろ日暮れとなりますので泊まる場所を確保したいと思います。」
そうだね。色々と確認とかしないといけないしね。
程なくしていい感じの広場を発見したので、今夜はここで一晩を明かすことになった。
人数が多いので設営はあっという間だし、すぐにご飯の準備も完了した。
ぐるるるー
いい匂いに案の定わたしのお腹が唸りをあげたと同時に、今までわたしのお腹にしがみついて寝ていた女の子が目を覚ました。
目が覚めた女の子が顔をあげてわたしを見つめる瞳は綺麗な青色だった。
あなたのお名前は?どこからきたのかな?
女の子は首をかしげるだけで、わたしの問いに答えることはなかった。
どうやら音が聞こえず、話すことが出来ないようだ。
おい、あたしのお腹。
どんだけ振動しながら鳴ったのさ。
くるるー
そして、女の子のお腹からもかわいらしい音がなった。
・・・とりあえず、ご飯を食べましょうかね。
女の子の前にご飯を置くと、わたしとご飯を交互に見てくる。
わたしがどうぞという意味を込めて笑顔で頷くと、どうやら伝わったようで物凄い勢いでご飯を食べ始めた。
お世辞にもあまりお行儀がいいとは言えない食べ方に、ちょっと驚いたが、美味しそうに食べて笑顔でわたしを見てくる姿にキュンキュンした。
食べ終わったらクリーンをかけようね。
わたしにも母性はあったようです。
ご飯も食べ終わりクリーンをかけてあとは寝るだけと言いたいところだが、そうもいかないのよね。
だって、ブラックシャドウからの報告聞かないといけないし、カルトお前にはしっかり言い聞かせなきゃいけないこともあるからな。
その前に船をこいでいる女の子を寝かしつけようと荷台に連れていこうと思ったのだが、わたしのお腹にしがみついて離れないのでこのまま会議することにした。
すぐに寝息が聞こえてくる。
ガルくん、そんなに見られたら穴が開いちゃうからね。
まずは、ブラックシャドウから話を聞こうと思ってら、いきなり土下座された。
「申し訳ございませんでした。」
おう、急にどうしたよ。
話を聞けば、英雄たちの行動を報告する前に接触することになってしまったこと、あと実はミーナさんが絡まれてる時にあの場にいたそうで、様子を伺っていて止めなかった事について謝られた。
うーん。タイミングの問題もあったと思うし、護衛とか頼んでるわけでもないから謝ることないんじゃない?
過ぎたことはどうしようもないし、もし自分の行動に後悔があるならこれからどうするかの方が重要だからね。
だから、土下座はやめようね。
「は、はい!精進いたします!」
よし。じゃ続きといこうか。
「はい。魔獣に襲われた村での紙の所在についですが、すでに村には残っておりませんでした。すでに回収されたのではないかと思われます。」
良かったかどうかは微妙だが、村に無いことが確認で来たということでとりあえずは一つ心配事が消えたぜ。
そして一番重要な帝国の動きだが、今回英雄たちが町にいたことで向こうの予定も狂っているそうだ。
なぜなら。
英雄たちは帝国に断りもなく教国に来ていたからだ。
理由は英雄くんが聖女様に会いたかった。それだけである。
え、待って。聖女様に会いに行く予定なのに、ミーナさんをナンパするとか…
分かってはいたが、最低野郎だな。おい。
本来であれば、帝国としても色々準備をした上で教国に英雄を送り込もうとしていたようだが、英雄くんの暴走でてんやわんやしているらしい。
これは、千載一遇のチャンス?
こりゃ救出は今しかねぇですな。
最低野郎だが、グッジョブ。
首都の到着予定は?
「2日後の夕方頃になるかと。」
2日後ね。
じゃぁ、そろそろ本格的に作戦を立てていきますか。
みんなに少し情報整理をしてもらう間にカルトを呼び出す。
ゴンッ!
わたしにしては珍しく拳骨をおみまいした。
そして、耳元で次はないぞと言うと、カルトは涙を流しながら無言のまま物凄い勢いで首を縦に振った。
今回と同じことされたらたまったもんじゃない。
アセナさんが近くにいなかったら止められないからね。
って、ちょっと待って、涙じゃない水分も飛んでるから!
頷きは一回で十分じゃい。止まれ!
パシッ!
まったく止まる気配がないので仕方なく、今度は頭をはたいて止めた。
拳が痛くて2回目は無理でした。