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お祈りも終了したので、もうこの町に用はない。
外で待ってくれているみんなと合流しようと教会を出れば、何やら見たことあるようなないような人物がミーナさんに絡んでいた。
もう、次から次へと勘弁してくれよ。
近づくいていくと、絡んでるのは10代の若い男の子で顔をみた瞬間わたしは絶句した。
最悪。あれ英雄の1人やんけ。
ミーナさんに絡んでいたのは、召喚された英雄5人の内の1人だった。
教国で英雄が絡んでくるんじゃないかと思ってはいたが、まさか首都ではない場所で遭遇するとは想定外だ。
しかも、寄りによってミーナさんに絡んでるとか。
どうしてやろうかなぁ。
色々考えていると、わたしの横を黒い物体がものすごいスピードで駆け抜ける。
ヤバい!アセナ!
わたしの声にアセナ飛び出し、黒い物体を制圧する。
ナンパに夢中な英雄くんには、気付かれず物体=カルトを回収する。
お前仮にも暗部とかいう組織の人間でしょうに、感情的になりすぎとちゃうか。
「・・・」
みっちりと叱っておきたいが、今回はミーナさんの救出の方が先だ。
アセナとエリーザさんにカルトを任せて、わたしはミーナさんのともに向かう。
「「「「・・・」」」」
アセナが動いたとこで、待機組はわたしたちが教会から出てきたことを知ったようで、異様な緊張感が漂っている。
「オレの声きこえてるよね?シカト?シカトしてんの?」
そんな中で、全く空気を読まずベラベラと喋り続けている英雄くんを無視してわたしはみんなに声をかける。
用事は済んだから出発するよー。
みんなは、少しホッとした様子でいそいそと準備を始める。
それでもまだしつこく美人さんに話しかける英雄くん。
「オレ英雄なんだけど、そんなオレに声かけられて嬉しいよね?あ、嬉しすぎて声がでないのか!」
いやぁ、さっきから話しかけてる内容が酷い酷い。
とんだ勘違い野郎ですな。
「ねぇ、俯いてたら顔が見えないんだけど。こっち向けよ。」
しまいには、肩をつかんんで無理矢理話しかける。
お触りは流石に許せませんわ。
トントン。
わたしは、注意をするべく、英雄くんの肩を叩いた。
振り向いた英雄くんは、わたしの顔を見て肩に乗っているわたしの手を振り払うと、
「あ、なに?俺に構ってほしいの、おばさん。悪いけど今忙しいからどっか行ってくんね。」
とぬかして、また美人さんに話しかけ続ける。
おう、どうやら突然選ばれし者になったもんだから、なにをしても許されるとか自分が偉い人だとか思っちゃってるようだ。
あいたたたー。
トントン。
「なんだよ!しつけーな!」
わたしは再度英雄くんの肩を叩くと、振り向いたその頬に人差し指をぷにっとしてやった。
「・・・ババァ!」
グイッ。
英雄くんは、一瞬何が起きたのかわからなかったようだが、状態を把握したとたんわたしの胸ぐらを掴んできた。
わたしは胸ぐらにある手をつかむとババァと失礼なことを言う英雄くんをソイヤとぶん投げた。
ダーン。
・・・
仰向けで倒れる英雄くんはもちろん、わたしを助けようとしていたみんなも驚きのあまり開いた口が塞がっていなかった。
いやぁ、護身術習っといて良かったわ。
「ふざけんなよ、クソババァ!」
我に返った英雄くんが立ち上がったと思ったら、殴りかかってきた。
ただ、完全に頭に血が上っているのだろう。
大きなモーションで振りかぶってきたので、避けながら足を引っ掻けてもう一度地面と仲良くしてもらう。
ダーン。
顔面から突っ込んでいった英雄くんは、再度立ち上がってわたしに向かってくる。
ありゃ、鼻血出ちゃってる。
英雄くんの鼻に一瞬気をとられ、避けるのが間に合わない。
仕方ないと、避けることを諦めて歯を食いしばる。
バシッ!
音がしたが、英雄くんの拳はわたしに届くことはなかった。
わたしの顔の前には英雄くんの拳を受け止める手があったから。
視線をずらして、手の持ち主を確認する。
げっ!こいつも英雄やん。
手の持ち主はわたしと同年代と思われる、胡散臭い笑顔を張り付けたイケメンだった。
「おいっ!なんで止めんだよっ!」
「急にいなくなったと思ったら、何をしているんですか?」
わたしを殴り損ねた英雄くんが仲間である英雄さんに食って掛かる。
どうやら、2人は首都に向かう途中だったようだが、英雄くんが勝手に行動して、探すはめになったようだ。
「ああ?そんなのオレの勝手だろう!なんでテメェの言うことを聞かなきゃなんねぇんだよっ!」
「どうやら、大人しくしてくれないようですね。」
ドスッ。
英雄さんは戯れ言を聞き流しながら、笑顔を崩す事なく、いきなり英雄くんのお腹にパンチをして気絶させた。
・・・は?
「ご迷惑をおけいしたしました。」
そう言って英雄さんは何事もなかったように、英雄くんを担いで去ろうとする。
ちょ、待てよっ!
「なんでしょう?」
英雄さんは律儀に立ち止まってくれたが、その顔には明らかに苛立ちが見えた。
多分、気づいたのはわたしだけだろうけど。
わたしは、英雄さんにお礼を言って、英雄くんにヒールをかけておく。
鼻血出てたし、顔も結構傷だらけだったからね。
英雄さんはわたしがヒールを使えることに驚いていたが、
「ありがとうございます。もういいですか?」
と言って立ち去ろうとする。
わたしとしてもこれ以上関わりたくないのだが、そうはいかない。
ここで会ったが百年目、教国に来た理由をズバリ聞く。
こういうタイプは遠回しに聞くと答えないとだいたい相場が決まってるんやで。
英雄さんはわたしの直球に少しだけ驚いたようだが、胡散臭い笑顔をさらに深くした。
さて、狐と狸の化かし合いといきましょうか。