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渋々案内されるまま奥の部屋に通されると、想像していたよりもたくさんの人たちがいた。
どういった基準で採用しているのかよく分からないが、かなり個性の強い方たちが多い。
「さ、お譲さま。当商会の精鋭を集めましたのでゆっくりとご覧下さい。」
お、お嬢様…?
時折交わされる父娘の会話を盗み聞きしたところ、どうやらアリサちゃんは私を貴族のお嬢様だと思っているようだ。
いくら可愛い娘の話だとしてもお父さん的には貴族のお嬢様がこんなところにいるわけないと思っていたようだが、しかし、やって来たのは上質な服を着た妙齢?の女性である。
何故私は先に服屋に寄らなかったのか。
物凄く後悔した。
まさか貴族の服屋で買った服が有り得ない誤解を誤解ではなくしてしまうとは…
そうなると常識的なことを知らないのは相当な箱入りだからとか、あれこれいいように解釈されてしまいこの商談が成功すればお貴族様とお近づきになれると思っているとお父さんは私に向かって素直に話してくれた。
昨日のおじちゃんといい、アリサちゃんのお父さんといいこの世界の人は思ったことを言葉にしてしまう呪いでもかけられてるのだろうか。
そんな話を聞いたわたしの目と心が死んでいるのにも気が付かず、お父さんはイチオシ奴隷の紹介を開始した。
岩ゴリラ!みたいな厳ついおじさんや、
枯れ木のようにガリガリでなにかブツブツ呟いている女の子や、今この瞬間にも息を引き取ってしまいそうなおばあちゃんなどなど。
精鋭って言っておいてのこのチョイス、おかしいだろ!
たまたまお店にいた人をかき集めただろうだけじゃないの?!と心の中でツッコミまくった。
しかし、外見は相変わらず目が死んだままの状態の私をみてお父さんは何故か紹介の熱が一段と燃え上がっていく。
なんなら私にはお父さんの後ろに炎が見えた。
変なやる気スイッチが入ったお父さんは出会ったころとは別人のようになっていた。
どんどん熱を帯びていくお父さんは、ひたすら奴隷を紹介するマシンガンと化した。
助けを求めようとアリサちゃんを見ると、お仕事してるお父さんカッコいいみたいなキラキラした目でお父さんを見ていた。
ここに味方はいないことを悟った私は、お父さんの紹介を右から左に受け流しながら部屋を見渡し、少しでも早くこの場から逃走する糸口を探すことにする。
なにかないかとお父さんに気づかれないようにキョロキョロしていると、隅で横になっているボロボロの男性2人を発見した。
おいおい大丈夫か?!よく見たらすごい怪我してるじゃん!
死んでるんじゃいかと気になって近づいたところ、今まで反応のなかった私が興味を持った今が商機と思ったお父さんが怪我人をゴリ押ししてくる。
あまりのゴリ押しに引いていると、何を勘違いしたのかわからないがそんなに言うなら値引きすると言い出した。
いやいや、私一言もしゃべってないからね!
お父さんはついに都合のいい幻聴が聞こえるスイッチまで入れてしまったようだ。
私は無謀に暴走を止めようと男性2人からお父さんの方を向いてその顔を見て後悔した。
お父さんの目は獲物を狙う狩人みたいになっていてすっごく怖かった。血走っている上に瞳孔がひらいていた。これ絶対夢に出るやつや。
そして暴走を止めるために開いた口から出たのは…
買いますの一言だった。