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お姫は大変賢くて、ある意味最強だった。
まずクロ◯ズ作戦について大変疑問をお持ちで、常々テッペンだなんだと騒ぐ周囲に様々な代案を出したり、現状に不満をもつ女子たちをまとめて一大派閥を作ったりと、かなり知性的で女子から絶大なカリスマ性がおありだった。
いくら刺客を炙り出すためとはいえ、女子には理解できない作戦だわな。
そして、脳筋の塊のような兄を大変心配していた。
少年の話になると顔を赤くしてとにかく色々話してくれた。
うん、かなり兄ラブのブラコンなのが分かった。
そんな兄の後を追ってここまで来たというのだから行動力まであるわけだ。
そして、兄の護衛として常に側にいるおじさんズが疎ましくて仕方ないそうで。
うん、うん、わかるよ。
こんなに周りに脳筋ばっかりでたいぶ苦労したのだろう、愚痴が止まらなかった。
話したいことが一段落したところで、お姫にいくつかお願いをすることにした。
まず、わたしの温泉宿と闘技場案についてプレゼンをする。
「まぁ!それは楽しそうですわ!」
お姫はノリノリだったので、これから来るプロにぜひ協力して欲しいとお願いした。
「かしこまりましたわ。」
つぎに、トップとして国としてのかたちを整えること。
これはもちろん、周りの大人と一緒に頑張ってもらう。
「もちろんですわ。」
最後に少年を預からせてもらいたいとお願いした。
「それは・・・」
なんでわたしがこんなことを言ったのか賢いお姫は理解していた。
今ここで地盤を固めなければまた帝国に付け入る隙を与えてしまうことになる。
そのためには、トップの人間は分かりやすく一人だけの方がいいのだ。
頭では理解しいる。
ただ、心はそう簡単に理解できるはずもなく、お姫は声を出さずポロポロと涙を流しながら頷くのが精一杯だった。
そんなお姫を慰めていると、目を真っ赤にした少年が寄ってきて、お姫を抱きしめた。
これが2人とって、暫しの別れを決意した瞬間だった。
せっかくの感動のシーンの裏側では兄妹たちよりもおじさんズや周りの大人の号泣する声がBGMとなり、見たらトラウマになるかもしれない光景が広がっていた。
わたしはその光景を2人に見せないようにそっと立ち位置を変えるのだった。
そうと決まれば、行動あるのみ。
わたしたちは明日の朝出発することに決めた。
国の再建にはスピードが重要だし、時間が経つほどに別れがたくなってしまう。
でもお姫のことだから次の帝国の刺客が来る前に体制を整え、返り討ちにすることだろうて。
わたしも預かる以上、お姫の活躍に負けないよう少年を鍛え上げなければならない。
少年の旅道具はレティサラ教国で揃えることにする。
国の再建や宿などの建築に寄付が出来ない代わりにそれくらいはやらせていただきます。
ゼロスさんたちだけじゃなくて、お姫にも丸投げで本来に申し訳ないと謝れば、
「謝らないで。こんな素敵な提案と助っ人をご用意いただけるだけで十分ですわ、お姉様。」
と言われた。
姉御の次はお姉様ときたもんだ。
どっかのアホな創造神やババァと言ったものたちに爪の垢を煎じて飲ませてやりたいと心底思いましたよ。
そして、その夜は少年の旅立ちとお姫の女王就任を祝してささやかな宴会が開かれた。
そして、翌日。出発のとき。
これが、今生の別れではない。
誰もが涙を堪えながら、笑顔で少年を送り出した。
見送りの中心では、小さな少女が腕が千切れんばりに手を振っていた。
後に少女は最強の女王と呼ばれ一代でカーザ復興を成し遂げる。
そして、その側には陰ながら支える謎の騎士の存在があった。
みたいな感じになればいいなと思った。
新たに仲間になった少年はガルディアン。年は13才。
ガルくんと呼ぶことになり、わたしのことは様付けすることはないが姉御と呼ぶ。
うん。いいけどね。様付けより…
いや、どっちもどっちだな。
そんでもって、皆さん。
勝手に少年を引き取っちゃってごめんなさい。
お願いだからチベットスナギツネみたいな顔しないで。
謝罪もむなしく、結局丸1日みんなからのチベスナ顔攻撃は続いた。
ガルくん、真似しちゃいけません。
これは、修行でもなんでもないからね!
いや、まてよ。
みんなもわたしに相談なしでクロ◯ズごっこしてたのに、なんでわたしだけこんな仕打ち?
腑に落ちない気持ちのまま馬車は一路、レティサラ教国へ向かうのでした。