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馬車が停まったってことは、休憩場所に着いたのかな。
じゃ、降りますかね。
「ユウリ様、お待ち下さい。」
ん?どした?
「まだここは街道と極秘ルートにの間です。どうやら、フェルが異変を感じ取ったようでして、これから私が様子を見に行ってまいります。」
え、シルバくんだけで様子を見に行くとか危なくないか。
ワオーン!
割りと近い場所から狼の遠吠えのような声が聞こえる。
みんなに緊張がはしる。
「なんだか随分近くで聞こえましたね。」
「この様子では偵察するより、少しでも広い場所に出た方がよいでしょう。フェル。」
「わかった。」
フェルくんが馬車を出発させる。
今までのようなのんびりしたスピードではなく、お馬様に頑張ってもらいかなりのスピードではしる。
荷台もかなりの揺れに襲われ何かに掴まっていないと転がってしまう。
現にわたしはレオくんに体当たりをかました。
すまん。
馬車の走る音の中にあちこちからガサガサという音が混じり始める。
音がすぐそばで聞こえた気がしたとき、馬車が広い場所に出た。
直後現れたのは人を乗せた大きな銀色の狼を筆頭に同じように人を乗せた大きな狼3頭と人を乗せていない狼が十数頭。
突然の襲撃にパニックにるわたし。
「ユウリ様は荷台の奥へ!」
あ、あい。わかった。
相変わらず馬車は爆走しているので、這って移動する。
わたしが移動している間にシルバくんが弓で狼を狙い撃ちし、レオくんが荷台に近づいて来た狼を槍で薙ぐ。
ワオーン!
銀色の狼がひと吠えすると、人を乗せていない狼がスピードをあげて馬車の前に回り込む。
狼に驚いた馬が止まってしまい、馬車が止まる。
止まったわたしたち目掛け狼が一気に距離をつめる。
フェルくんは馬車の運転席から飛び降りて狼を蹴散らす。
シルバくんが風の魔法で牽制しながらレオくんが隙をついて飛び出してくる狼を薙ぎ払う。
荷台からこっそり前を見ると狼が馬を襲おうとしているのが見えた。
おいおい!なにをするつもりじゃ!
とっさに荷台から運転席に飛び出しお馬様の元に向かう。
そして、お馬様に抱きつき渾身の力を込めてわたしは風の魔法を発動した。
練習ではわたしの半径1メートルに風を発生させるのが精一杯だったが、火事場の馬鹿力によるのか遠くで発生させることができているような気がする。
必死に暴風の壁をイメージする。
ただ、荷台の方からしちゃいけない音がしたのは気のせいだと思いたい。
5秒程発動させていたが、一瞬意識が遠くなりかけ風の壁を維持できなくなってしまった。
恐る恐るお馬様に押し付けていた顔を上げると周りは竜巻に襲われたかのように荒れ果て、何故か狼たちが倒れていた。
どうしてこうなった?
どうしてこうなったかというと、
確かに発動した魔法はかろうじて馬車を覆えるほどの狭い範囲だったが、魔法が消える瞬間風が外側に放出されたようで、馬車を取り囲んでいた狼たちを襲った。
狼たちは突然の出来事に対応出来ず暴風をもろにくらい、ズタボロになって倒れた。
知らないのは魔法を発動していた本人だけだった。