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お尻の痛みも消えたことですし、せっかくだからと店内を散策しようと思ったところにゼロスおじさまがやって来た。
「お待たせしてしまってすみませんでした。」
いえいえ、ゼロスおじさま。全くもって待ってなんていませんよ。
おじさまは少し固まったかと思ったら、なぜかわたしを残念なものもをみるような目で見てくる。
えーと、なぜ?
「い、いま、今での呼び方でかまいませんので。おじさまはちょっと…」
どうやらお気に召さなかったようです。
では、お言葉に甘えて今後もゼロスさんと呼ばせていただきますね。
「それでお願いします。あ、荷物は全て倉庫にしまい終えましたので、家にご案内させていただきます。どうぞこちらへ。」
なんとぜロスさんの家は店の裏にあるそうでお店の中を通って裏口らしき場所から出る。
するとそこにはお店の大きさからは想像できないかわいいサイズのお家があった。
「さぁ、お上がりください。」
お邪魔いたします。
案内されて家の中に入ると何となく懐かしい感じがした。
例えるなら田舎のおじいちゃん家に行った時にみたいな感じ。
そして、なんともいえないいい匂いがしていた。
ダイニングと思われるところに通されるとゼロスさんの奥さんのレイアさんが挨拶してくれた。
「はじめまして。レイアと申します。この度は主人を助けていただいてありがとうございました。」
いえいえ、たまたまですので。
こちらこそお世話に"ぎゅるるるるー"
挨拶の途中でわたしのお腹から大きな音が…
「「「・・・」」」
「あっはっはっ!挨拶はこれくらいにしてご飯にしましょう。」
もう、本当に恥ずかしい。穴があったら速攻で入りたい。
「さぁさぁ、こちらへどうぞ。」
レイアさんに案内され席に座ると、テーブルの上には様々な料理が並んでいた。
お料理は全てレイアさんのお手製だそうだ。すごい!
皆でいただきますをして食べた料理はどれも初めて食べたはずなのになんだか懐かしかった。
フェルくんとシルバくんの2人もお気に召したようで、わたしたち3人で何度かお代わりをいただいてしまった。
ご飯を食べながら昨日に引き続き色々な話を聞く。
ゼロスさんはここよりもっと南にある町の先祖代々続く商家の生まれで、レイアさんは元々はゼロスさんの家の奴隷だったそうだ。
ゼロスさんが惚れ込んでアタックし続けること5年。反対していたご両親をなんとか説得して見事ゴールインしたが、色々あって実家は継がずにこの町で心機一転お店を始めたそうだ。
その時に開いた最初のお店がなんと今わたしたちがいるお家だとのこと。
そして独立したゼロスさんはいいものがあると聞けば自分で見に行き、お客さんが欲しいと言えばどこにでも買い付けにいくというスタイルで仕事を続けた結果が今の大きなお店なわけだ。
ちなみにお二人にはお子さんが5人いるそうなのだが、誰も継がずにみんな自分の好きな場所で好きになようにお店を出したり仕事をしているとのことだった。
「そんなところは似なくてもよかったのですがね。」
と話すゼロスさんは少し寂しそうだった。
まだまだ仕事もしたいしお店をたたむ気はな買ったそうだが、ここ数年は仕入れに行くのも一苦労となり引退を決意。
そして今回最後の仕入れの旅でわたしたちと出会ったという訳だ。
今後は若いけどいい人がいるそうで、その人にお店を譲って長年働いてくれた奴隷さんたち数人と一緒に近くの農村で農業をしながらのんびり暮らす予定だとか。
「仕入れで家を開けることが多かったので、これからは家内とゆっくり過ごすつもりなんです。」
そうなんですね。
うーん、最後はただの惚気話だった。