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シルバくんが心配してくれだが、私よりシルバくんの方こそ大丈夫なのかい?
「この程度であればなんの問題ございません。」
一方的な狼との戦いを間近で見て、腕に自信があるっていってたけど本当だったんだなと改めて実感した。
いやいや、感心している場合じゃない!
ものすごい早さで馬車を追いかけていったフェルくんは?
「フェルもこの程度なら心配しなくても大丈夫ですよ。」
力強い返事に少しだけ安堵する。
もう隠れる必要はないとのことで、木のかげから出るため立ち上がろうとしたら足に全然力が入らなかった。
どうやら自分が思っていたよりビビっていたようで腰が抜けてしまったようだ。
30数年生きてきたけど、腰が抜けるなんて初めての経験なんですけど。
「ユウリ様、焦らず一度深呼吸をしましょう。はい、吸って、吐いて。」
シルバくんに言われるがまま深呼吸をして再度足に力を入れれば少しよろけたが無事に立つことに成功。
気分は生まれたての小鹿です。
シルバくんの後についてよろよろと歩けば、そこかしこに倒れている狼。
昨日のウサギのこともあるので念のためスコップを取り出し、構えながら進む。
これだけの量の魔物を埋めるのは大変だなぁなんて軽い現実逃避をしていると、フェルくんが戻ってきた。
「馬車は無事。だけど怪我してる。」
あい、わかった!
みなまで言わなくても委細承知しましたよ。
戻ってきたばかりのフェルくんには申し訳ないが怪我人のところまで案内してもらえるかな?
「ん。」
いざ歩き出そうとしたらスコップを持ったままフェルくんにまさかのお姫様抱っこで運ばれることに…
いや、ちょっと待って、早い!早いんですけど!
なんか、思ってたお姫様抱っことちがう!
わたし、絶叫系は好きなんだけどこれはダメだ!
ときめきではなく、吐き気を感じ始めたころ、ようやく馬車に到着。地に足が着いていることに感謝いたします。
生まれたての小鹿に逆戻りした足に、スコップを杖がわりにして怪我人のもとに向かう。
そこにいたのは馬車を運転していたおじいさんと引っ掻き傷があちこちにあるグラマーなお姉さん。
そして、身体中噛み傷や引っ掻き傷だらけの額に角が生えてる大きな男性を見つけた瞬間、わたしはすぐさま男性に駆け寄り『ヒール』をかけた。
すると傷がみるみるうちに消えていく。
よかった。ちゃんと治ってくれた。
ちょっとホッとしながらも次はお姉さんの元へ。
お姉さんの傷も『ヒール』で無事に治すことに成功。
おじいさんは怪我はしていないとのことなので治療はなし。
お役ごめんとなったスコップをアイテムボックスにしまい、短時間でかなりの濃ゆい経験に今回は失神しなかったなぁなんて軽い現実逃避をしてみる。
「「ありがとうございます。」」
心此処にあらずな私におじいさんとお姉さんに感謝をつけてくれるけど、私は隠れていて、最後にひょっこり現れて怪我を治しただけ。
私はシルバくんとフェルくんの方を向いて、感謝なら彼らにとお願いする。
色々あったけど、とりあえず一段落かな。
お礼を言われて照れている2人を見て、誇らしい気持ちと同時に自分ではいくら助けたいと思っても2人がいなければ何もできなかった事実に不甲斐なさを感じていた。