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こみ上げてくる涙を我慢し、わたしは村の人たちに詳細を聞いてまわる。
すると、兵士たちが来る前に熊の魔獣による襲撃があったそうのだが、そもそもこの村は王都から一番近いこともあり魔獣による襲撃は滅多にないはずなのにと村の人たちは困惑していた。
"のう、ユウリ。わらわは突然村に現れる熊の魔獣で思い浮かぶことがあるのじゃが"
・・・
"もし、わらわの考えが当たっておるのなら、今回の襲撃がこれで終わりだとは思えんが…"
たぶんアセナの予想は当たっている。
わたしもそう思ったから…
すぐに次に村に向かおう。
"それなら、まずはフェル坊を回収せんといかんな。おぬしだけではわらわを乗りこのせないからのう"
おっ?ニヤニヤしながらそんなこと言っていいのかな?
フェルくんにアセナにいじめられたって言っちゃうぞ、コラ。
"なっ!おぬしには矜持と言うものがないのかっ!?"
ふん。そんなものはないわっ!
"それは威張って言うことではないじゃろうが…"
大体、矜持なんてあったら皆からあんな扱いなんてされないだろうね!
"・・・すまん"
謝るなよ…なんか余計辛くなるじゃん…
"・・・とりあえずわらわの背に乗れ"
わたしは無言でアセナの背中に乗り、フェルくんの元へと向かった。
急いでとは言ってもそんなにスピードを出すことは出来なかったが無事に目的地に到着。
兵士を縛り上げているフェルくんにかくかくしかじか…
わたしはフェルくんに熊の魔獣のこと、襲撃がまた行われる可能性を説明した。
「・・・確かに、それなら急いだ方がいい」
残りの兵士たちの縛り上げと、もうしばらくしたら来るであろうシルバくんたちへの伝言を村の人たちにお願いして、わたしはフェルくんに再度くくりつけられ次の村へと出発した。
先ほどとは比べものにならないほどのスピードで走っていたアセナさんが急に街道をそれて森に突っ込んでいく。
痛っ!ちょ、枝が凶器なんだけど!
"少しの間辛抱せい!少し先に変な気配があった。このまま森を進み前に出るぞ!"
そう言って森の木々の間を縫うように疾走し、再び街道に出ると目の前に誰がどう見ても怪しい黒ずくめの馬に乗った人物が現れた。
その人物は突然現れたわたしたちに驚くことなく、懐から黒い紙を取り出すと熊の魔獣が現れた。
"いきなり当たりを引くとはついておる。じゃがそんなものではわらわは止められんぞっ!"
そう言って熊の魔獣に突っ込んでいくアセナ。
わたしたちが乗っていることを忘れた動きをした結果。
流石のフェルくんも耐えられず、わたしたちは地面を転がった。
「っ!ユウリ様!」
だ、大丈夫よ。フェルくんこそ大丈夫?
コクリ
お互い大きな怪我はしなかったがあちこち擦り傷だらけになってしまったので、すぐさま『エリアヒール』をかける。
「ぐあぁぁっ!」
『エリアヒール』の範囲に入っていたのだろう、黒ずくめのからどす黒い紫色のモヤが立ち上ぼり、手と懐が白く光っていた。
"ふん、熊なんぞわらわの相手に、あっ…"
熊の魔獣に片足を乗せながら威張っている毛玉と目が合う。
ニッコリ
"は、はは…いつの間にわらわの背から降りたのかのう…"
ハハハ。
降りたんじゃなくて、落とされたんだよ!
このバカ毛玉っ!
"ひぃ!す、すまん!悪気があったわけじゃないんじゃ!許し、ア"ーーーーっ!"
王国に狼の鳴き声が響き渡った…