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えー、では亜人さんたち側の要望の発表をお願いします。
「あたしらの願いは平穏な生活だけさ」
それ、分かります!
ものすごく、分かります!!
平穏とは何事にも代えがたいものですよね!
別に特別なことなんかいらない。
何事もない生活、なんて素晴らしいんでしょう!
わたしも常々…
「ユウリ様、少しお黙りください。話が進みません」
・・・ごめんなさい。
「まぁまぁ、お嬢ちゃんの言う通りさ。
あたしらは特別なことを望んじゃない。ただ、普通の暮らしがしたい、それだけさね」
「その為には共存はできないと言うわけか」
「今は自分たちのことで手一杯でね、周りを見る余裕がないのさ」
「そうか…」
でも、別に一切関わらないというわけじゃないんでしょ?
「もちろんさ。中には人と一緒に生活したいというものもいるからね」
でも、本当の望みはそれだけじゃないですよね。
「お嬢ちゃんには敵わないね。
きっかけはどうであれ、バラバラだった同族が数百年ぶりに集まれたんだ。このまま皆で暮らしたいと思うのは分不相応かね」
ってことですけど、帝王様。
「それは、亜人たちのみの国をつくりたいということか」
「国なんて大層なものは望んじゃいないよ。安心して暮らせる場所さえあればそれだけでいい」
帝王様は少しの間目を閉じて考えてから、
「わかった」
「王!そんなことをお認めになるのですか!」
「黙れっ!」
文官さんの言葉を帝王様が一喝する。
「重ね重ね申し訳ない。情けないことだがこれが帝国の現状であればそちらの望みは最もであるな」
「あたしらも似たようなもんさ。こればっかりはどうしようもない。なに、いつか時が解決してくれもんさね」
「そう、であるな。今はその時が来ることを信じるとしよう」
そう言っておばあちゃんと帝王様は握手を交わし、青空会談はひとまず終了。
帝王様は早々にお城へ戻っていった。
残されたわたしはおばあちゃんと一緒にお茶を飲みなが話し込む。
何で本当のこと言わなかったんですか?
「なんのことだい?」
元々帝国って亜人さんたちが治める国だったんでしょ?
「おや、気づいてたのかい」
やっぱり、そうなんだ。
「なんだい、鎌を掛けたのかい?」
確信があったわけじゃないから。
さしずめ、おばあちゃんはその時の生き残りってところかな。
「確信がないなんていって、全部お見通しじゃないか」
ありゃ、これは完全に当てずっぽうだったのに。
「・・・なんだか調子が狂うね。そういうお嬢ちゃんは聖母様なんだろ」
はて?聖母様とはなんのことでしょうか?
「まあいいさ。お嬢ちゃんが誰だろうとね」
わたしもおばあちゃんが誰だろうと気にしないよ。
例え亜人の国の最後の王妃様とかだったとしてもね。
わたしとおばあちゃんは互いにニヤリと笑いあって、つかの間の休息を堪能した。