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ダァーンッ!!
床に叩きつけられたお姫様はうまく受け身がとれず床を転がりながら悶絶していた。
衝撃で手からこぼれたナイフはそっと回収しておく。
あれま。これまた随分と禍々しいデザインですこと。
ん?ちょっと待って。
悶絶してるとしてもお姫様のお顔ってこんな感じだったかいの?
わたしは記憶の中のお姫様を思い出すが、面影は確かにあるような気がするがやはり違う気がする。
もしかして、人違いしてしまったのかと緑木さんに確認する。
お姫様のお顔ってこんな感じてしたっけ?
「咲来さんもそう思いますか」
あ、緑木さんも違うなって思ってたんですね。
「はい。でも変化は僕たちの意識が戻ると同時に起こったんです」
「お前のせいだっ!やっぱりあの時始末しておけばよかったんだっ!」
突然悶絶していたはずのお姫様が叫ぶと、氷の塊がわたしめがけて飛んで来た。
しかし氷の塊はわたしに届くことはなかった。
ハンサママが炎で氷を一瞬で溶かしたからだ。
ありがとう。でも至近距離で火を放つのはやめてくれ。
前髪にかすったぞ、おい。
わたしが前髪を払うとチリチリになった髪の毛がパラパラと落ちていく。
「お前さえいなければっ!」
そう言ってお姫様は懲りもせず氷を塊を飛ばしてくるが、ことごとく溶かされた。
あ、ちゃんとピンポイントで溶かせるですね。
それなら初めからお願いしたかったなぁ。
っていうか、そもそもなんでそんなにお姫様はご立腹なのかな?
「白々しい。お前が我が神の力を祓ったせいで全てが台無しになったのではないか!」
・・・・・
あー!もしかしてあの人形の水晶と黒い煙の塊のこと?
あなた、あれがなんであるか分かってて利用していたの?
「それがなに?私の望みを叶えてくれれば何でもいいのよ!それが聖なるものだろうが邪なものだろうがねっ!」
なるほど。分かってたということですね。
「だからそれがなんだって言うのよ!あんたさえいなければ世界は私の思うがままだったのにっ!」
可哀想に。
「ふさけるな!私の何が可哀想なのよ!」
あなたもまた、ただの駒でしかなかったってことよ。
「なによ…なによ、なによっ!知ったような口をきくなっ!」
全てはあの呪術師の差し金なんでしょ。
「違う!全部私の力よ!」
「やはり、そうそう上手くはいかないものだな」
突然お姫様の横にフードを被った男が現れる。
「なにをしていた!お前は私のためになんでもするんだろっ!?早くあいつをなんとかしろ!」
「やれやれ、少々甘やかしすぎたようですね」
「何をブツブツ言ってる!早くしろっ!」
「黙れ」
男がそう言うと、騒いでいたお姫様が一瞬で石に変わってしまった。
「いやはや、今代の聖母殿も中々に手強いようで困ったものだ」
いや、聖母じゃないです。
「・・・はははっ!今代は随分と面白い!」
お?ディスってんのか?
「誉めたつもりだったが、お気を悪くされたなら申し訳ない」
別にいいですけど。
「色々と語り合いたいところなのだが、私も忙しい身でね」
あら、そうなの。
でも、少しくらいお話する時間はあるでしょ?
「聖母殿からのお誘いは嬉しいが、今は少々こちらの分が悪いので早々に失礼させていただくよ」
させると思う?
「あなたにはまだわたしを止めることはできませんよ」
くっ、分が悪いとか言っといて余裕ありありなのがムカつく。
「いえいえ、分が悪いのは本当のことですよ。あなたに手駒を潰されたのでね」
わたしがその手駒を全部潰してやるから覚悟しとけ。
「・・・随分と威勢がいいですね。
だが、そう簡単にできると思うなよ小娘がっ!」
呪術師から黒い煙が放たれる。
やられるかボケェ!
わたしはすぐさま『ヒール』を発動した。
『ヒール』によって黒い煙が消えると呪術師の姿はどこにもなかった。




